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作業効率アップを目指し、稲作にトヨタ流・生産管理手法を導入

カイゼン積み上げ開発した、工程管理システム「豊作計画」とは

農業は“経験と勘”に頼る部分が大きい。稲作では、田植えから稲刈り、乾燥まで年間の作業スケジュールが大枠で決まり、後は天候次第で微調整を行うのが一般的だ。しかし、大きな耕作面積を限られた人数でカバーする農業法人の場合、そうはいかない。トヨタ流の“カイゼン”の出番だ。

 トヨタ自動車の生産管理のノウハウは、農業分野でも生きるのではないか――。トヨタ自動車の新事業企画部バイオ・緑化研究所農業グループ主幹の喜多賢二氏は、「トヨタが培ってきた生産管理手法を農業に活用する。この目的の第一歩として、鍋八農産さんで農業について勉強しつつ、問題の抽出やカイゼン提案から始めました」と話す。

「5S」のかんばん方式の例。農業機械やトラックの置き場所に番号をつけて管理

 鍋八農産は、愛知県の西部に広がる海部(あま)地域で、農家から水田などを借り受け、作業を請け負う事業を展開する。木曽川が作り出した肥沃な沖積地と干拓地域が占め、古くから稲作を中心とした農業が盛んな地域だ。しかし、名古屋市に近いこともあり、工業化が進み、中小規模の農家は後継者不足と高齢化に直面している。

 鍋八農産の八木輝治社長は「父の代から受託事業を始めました。現在では年間を通じて作業を行う全面受託が200ha、一部の作業だけを受託する作業受託が60haとなっています」と語る。

鍋八農産
代表取締役
八木 輝治 氏

 事業拡大を続けていると壁にぶち当たった。限られた社員をどう作業ごとに振り分けるか。スキルの違いにより誰を投入するか。1日単位や月単位での作業をどのように平準化させるか……。作業面積が増えたことで課題が表出したのだ。

 同社では、紙の地図台帳を使った作業管理を行っていた。しかし、事業の拡大によって、それも限界にきていた。

 「小さい水田も多いので、場所を地図上で把握しにくく、しかも紙の地図では境界がはっきりしないという欠点がありました。そのため、作業を受託している水田とは別の水田の稲を刈ってしまうケースもありました」(八木社長)。同社が作業を受託している水田は、枚数で言えば約2500枚。これらを十数人の社員でカバーするには、地図台帳のデータ化は不可欠だった。

トヨタ流の“カイゼン”を現場に導入

トヨタ自動車
新事業企画部 バイオ・緑化研究所 農業グループ 主幹
喜多 賢二 氏

 トヨタの喜多氏が鍋八農産を訪れたのは2011年。最初は非常に戸惑ったのだという。

 「まず、スケジュールや作業計画が管理されていませんでした。機械や資材も同様です。例えば稲刈り後の籾を乾燥機に運んできても、すでに誰かが使っていて乾燥できないといったことも日常的でした。もちろん八木社長やベテラン社員の頭の中ではスケジュールや作業は管理されていますが、社員全員が見える形になっていなかったのです」

 当初、鍋八農産を訪れたのは、喜多氏と生産管理のベテラン社員の2人。彼らの目には「ほとんど何も管理されていない」状態に映った。

 そこで、まず作業場に「5S」、つまり「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の看板を掲げた。資材や道具、農機具の置き場所を指定し、農業機械やトラックに番号をつけ、それぞれ決まった場所に置くようにした。草刈り用の刈り払い機は、作業者が自分の刈り払い機を決め、「My刈り払い機」としてきちんとメンテナンスを義務づけるなど、小さな“カイゼン”を一つひとつ実践していった。

農業生産の工程管理のツール化に挑む

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 そうした一連の“カイゼン”の中で、最も手を入れなければならないのが農作業の工程管理だった。

 従来は八木社長らベテランが立てた計画に基づき、前日に作業計画を指示。当日作業終了後に、作業報告書を作成するスタイルだった。これでは紙に記入する手間暇がかかる。作業する水田を間違えるムダ。作業時間が把握できずに生じるムダ。不十分な作業計画で発生する移動のムダ。まさにムダの宝庫だった。

 そこで、喜多氏らは水田の地図や作業管理をシステム化することにした。これが「豊作計画」の原型だ。システム化にあたっては市販のソフトウエアも検討したが、農業分野に転用できるものがなかった。喜多氏らはトヨタ流の「工程管理」を生かせると考えた。独自のシステム開発に迷いはなかった。

 「豊作計画」では、まず作業を受託した水田をデータとして記録。その記録を地域ごとに集約して、年間の作業計画を立てる。それを月次、週次に落とし込み、最終的に日次の作業が決まる。作業のデータは、農業IT管理クラウド上の「圃場DB」と「作業DB」に蓄積されていく。これまで可視化されていなかった社員それぞれのスキルも表示できるようにして、作業計画に反映する。もちろん、作業計画は事務所のパソコンで誰でも見ることができる。

「豊作計画」の画面。水田を色分けして表示することで作業状況を確認できる
(写真:トヨタ自動車)
[画像のクリックで拡大表示]

 作業者は水田に着くと、まずスマホを使って作業する水田が間違っていないかを確認。作業内容をチェックする。スマホ画面の作業開始ボタンを押すと、事務所の地図データ上の水田は緑色に変わり、作業着手のステータスとなる。天気によっては、作業の遅れが発生したり、作業順序の変更が必要となったりする。それらもすべて画面に表示され、どうすべきかが分かる仕組みだ。

作業者はスマホを使って作業内容を確認する
(写真:トヨタ自動車)
スマホの表示された「豊作計画」の作業予定画面

 八木社長は、「最初はITなんて……と言っていたベテランも、毎日朝夕はパソコンでチェックするようになりました」と言う。もはや同社にとって、なくてはならないツールにまでなっている。

さらなる機能強化にも取り組む

 「豊作計画」の開発は、2014年度の農林水産省「先端モデル農業確立実証事業」として、愛知県のほか石川県や岐阜県、滋賀県の農業生産法人で検証作業を行っており、16年度で実証期間が終了する。

 八木社長はこれまでの成果について、「これまで社員は30分以上かけて作業日誌を書いていました。今では、パソコンで入力するだけなので5分で済みます。それだけでも大きなコストダウンです。間違いも起きなくなりました」と評価する。作業計画を見える化したことで、作業の段取りも効率化できた。残業など、社員への過剰な負担もかからなくなったという。

 トヨタ自動車では、来年度から「豊作計画」の本格的なサービス提供を開始する予定だ。「“自働化”できた部分と、まだ人為的作業に頼る部分があります。計画的な生産が可能な製造業と天候に左右される農業の違いは大きいけれど、チャレンジを続け、機能強化を図って行くつもりです」と喜多氏は話す。トヨタ自動車として農業分野に役立ちたい。その思いは強い。