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ロボットと新容器で新革命!高級イチゴを傷つけずに収穫・搬送

宇都宮大学が考える「ロボットと人間の新しい協業の姿」

県別のイチゴ生産量で48年間日本一の座を守り続けるイチゴ王国・栃木県。その県庁所在地・宇都宮市で、将来のイチゴ生産のあり方を一変させるかもしれない技術の開発が進む。取り組んでいるのは宇都宮大学。工学部と農学部が連携して、イチゴの収穫ロボットと特殊な容器を開発した。この技術では、収穫から流通過程に至るまで、イチゴの可食部に人の手や容器がいっさい接触しない。完熟状態で出荷でき、1粒1600円と商品価値も高くなる。宇都宮大学では、輸出ビジネスに照準を合わせる。

 春と言えば、イチゴの季節だ。スーパーの店頭にも「とちおとめ」「あまおう」「紅ほっぺ」など、いろいろな銘柄のイチゴがところ狭しと並ぶ。きれいに色づいた状態でパックに詰められ見た目も華やかなイチゴだが、時々、下側の表面が自らの重みで傷んでいることがある。

 イチゴは、果物の中でも特に繊細に取り扱わなければならない。特に大粒のものは、自重で傷む可能性が高い。こうした問題を回避すべく、生産者側も完熟前に収穫をしたり、パッケージの際にクッション素材を入れたりと、様々な工夫をこらす。それでも、流通過程で傷む可能性をゼロにはできない。いわば、イチゴ生産・流通に関わる人たち共通の悩みといえる。

 こうした“接触による傷み”の問題を根本から解決すると関係者の注目を集めているのが、宇都宮大学で開発中の「イチゴの可食部非接触維持放送技術」だ。簡単に言えば、収穫ロボットと「フレシェル」という特殊な容器を使って、イチゴの実の部分にまったく触れずに摘み取り、包装する。収穫時から消費者が食べる直前まで、イチゴの可食部にはいっさい触れない。

非接触容器「フレシェル」と超大型イチゴのスカイベリー
イチゴを収穫するロボット。センサーで「果柄」をつまみ、切断して収穫する

宇都宮大学の工学部と農学部がタッグ

 この技術を開発しているのは、宇都宮大学工学部の尾崎功一教授と同大学農学部の柏嵜勝准教授の、2学部にまたがる研究チームだ。工農両学部で密接に連携しながら、尾崎教授がイチゴ収穫ロボットの開発を担当し、柏嵜准教授がパッケージング技術を受け持つ。

 収穫ロボットは、センサーを使って完熟したイチゴを検知しながら、イチゴのヘタの先に付いている茎のような果柄(かへい)と呼ばれる部分を切り取って収穫する。ロボットのアーム(腕)は果柄だけをつまんで切断し、そのままつまんだ状態でロボットの格納部分にイチゴを運ぶ。格納部分には、フレシェルの底に当たる部分が複数用意されている。ロボットは収穫したイチゴをここに装着する。収穫から装着までの間、アームはイチゴの可食部にはまったく触れず、ダメージを与えない。収穫後は、手作業で蓋となるキャップをかぶせていく。こうしてすっぽりと容器に収まったイチゴは、何も触れない状態で流通工程に乗る。

国立大学法人 宇都宮大学 工学部
尾崎 功一 教授
カメラでイチゴの位置を検知し、果柄をつまみ、切断するロボットのアーム

 研究チームでは2014年にフレシェルの販売や技術供与を行う校内ベンチャー企業「アイ・イート株式会社」を設立。超大型イチゴの輸出に狙いを定め、技術開発と並行してビジネスの可能性も検証している。検証には栃木県期待の超大型品種「スカイベリー」を用いる。スカイベリーは2014年に登録された超大型品種で、最大で60gを超える。きれいな円すい形の実で知られ、贈答用の高級商品としても最近人気を博す。1個ずつ、非接触容器に収めるこの技術にぴったりの品種だ。

 輸出では、接触だけでなく輸送時間の長さが問題になる。宇都宮大学では完熟した状態で収穫した後、7~10日経過しても外観・品質ともに問題がないことを確認している。一般に、イチゴは完熟になると表面が柔らかくなり傷みやすい。「通常は流通の間で赤くなるのを見越して、未熟の状態で収穫する。そのため完熟のイチゴは直売所や観光農園以外ではなかなか食べられない」(尾崎教授)のが常識だ。この技術ではそれを覆したことになる。

 実際に、ベルギーへの輸出で外観、品質ともに問題ないことを、国際的に定評のある第三者機関に認証を受け実証してみせた。第三者機関というのは、ベルギー・ブリュッセルに本部を置く国際味覚審査機構(iTQi:International Taste & Quality Institute)だ。世界中の食品・飲料品の「味」の審査をし、優れた製品を表彰・プロモーションする機関として、日本の食品メーカーからも注目を集めている。このiTQiの審査で、フレシェル容器に入れた完熟のスカイベリーは2015年には二ツ星、2016年には三ツ星と2年連続で優秀味覚賞を獲得した。

 研究チームではこの評価に自信を深める。柏嵜准教授は「イチゴは親株と切り離すと、そこからは追熟せず、品質は落ちていくだけです。つまり完熟状態がいちばん美味しい。私たちの技術では完熟品を収穫して一週間たっても傷まず、品質も落ちず、高い評価につながることを実証できた」と語る。

国際味覚審査機構の審査で、2015年には二ツ星、2016年には三ツ星と2年連続で優秀味覚賞を獲得

最終目標は人間とロボットの協働によるイチゴ栽培

国立大学法人 宇都宮大学 農学部
柏嵜 勝准 教授

 宇都宮大学では、将来、この技術を収穫だけでなく栽培全般に適用したいと考えている。現在は、その実証施設の構築の段階だ。ロボットを使ったイチゴ栽培のハウスを2017年8月までに作り、研究棟は2018年3月までに完成させる予定だ。研究棟には様々な分析機器やセンサー、膨大なデータを処理するデータサーバーなどを導入する。

 尾崎教授と柏嵜准教授が目指しているのは、成育中のイチゴの状態をロボットが把握し、栽培条件にフィードバックし、品質と収量の向上につなげる生産技術だ。ロボットは収穫するだけではなく、イチゴの状態をきめ細くチェックする。ロボットのセンサーで甘さ、色味、病気や損傷の発生などを非接触の状態で検知し、肥料や薬剤の散布条件に反映させる。収穫に関しても、夜の間にある程度大きな実を自動収穫して包装まで済ませる。とはいっても完全自動化ではなく、あくまでも人間とロボットが“協働”する仕組みを考えている。人間ができないことをロボットが助け、ロボットができないことを人間が補完する。こうして、品質も収量も上げながら労力も大きく削減できる生産を目指す。

尾崎教授と柏嵜准教授が目指すイチゴ生産の仕組み

 もちろんそこに到達するまでの道のりは長い。尾崎教授は、ロボットの実用化はまだまだ発展途上だと気を引き締める。「現在、ロボットでできたというのは、あくまでも決められた条件下においてです。力も非常に強く、もし誤作動すれば人間の力では到底止められない。そういった安全面の開発も同時に進めなければなりません。そういったことを含めた諸条件をクリアできれば、生産現場への試験導入も増え、開発が加速するでしょう」と語る。

柏嵜准教授(左)と尾崎教授(右)は校内ベンチャー「アイ・イート株式会社」の代表取締役も兼ねる。中央は尾崎研究室の高橋庸平さん

 将来の生産技術まで見据えた宇都宮大学の技術に対して、イチゴ生産が盛んな地域は熱い視線を注ぐ。実際に「6県がコンソーシアムを組んで積極的にやろうということになっています」と柏嵜准教授。宇都宮大学が新しい研究施設でさらに大きな成果を挙げていけば、多くの生産者も注目してくるだろう。日本のイチゴ生産の形態が一変する――。宇都宮大学の技術にはそれだけの可能性が秘められている。