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福岡県の「ほっこり農園」は、農業体験を「教育」に生かしている

規格外の野菜活用からスタートした食育体験ファーム

福岡県岡垣町にある「ほっこり農園」では、子供たちの農業体験、イベントを通じて食育の大切さや農業の大変さ、楽しさを“実地体験”させる。さらに子供たちの親世代、専門学校生など、これから社会に出ていく若者たちに対しても農業体験という活動の輪を広げている。

 JR博多駅から電車で約1時間。北九州市との間に遠賀郡岡垣町がある。ここは玄界灘に面し、背後を山に囲まれた自然豊かな地域である。、この地で最近、注目されているのが食育体験ファ-ム「ほっこり農園」。運営するのは地元のグラノ24Kという企業だ。

 地元で旅館を営んでいた家に生まれたグラノ24Kの小役丸秀一社長は、子供の頃、農家の裏に積まれたまま出荷されない野菜があることに疑問を感じていたという。その野菜は大きさがそろっておらず、また形が悪いといった規格外の野菜だった。そこで、これら規格外の野菜を活用し、農家の収入増につなげられないかと飲食業を思いついた。

グラノ24K 代表取締役
小役丸 秀一 氏

 その後、ニューヨークの高級ホテルで行われているサンデービュッフェのことを知った。「これなら規格外の野菜の使い道もあるのでは」と考えた。

 ビュッフェスタイルなら、規格外の野菜を使った料理を提供できる。そこで「野の葡萄」という名称で、地元にビュッフェレストランを開業した。福岡の商業中心地である天神にも店を出し、行列ができるようになる。それを見た企業が「ウチでもやりたい」と言ってくるようになった。今では九州地区や関西、東海、首都圏のショッピングモールや大型店などにFC出店し、「ぶどうの樹グループ」を形成する。ブランドも「ぶどうの樹」だけではなく「花葡萄」「野の食卓」と複数になった。

月100万円稼いだ農家のおばあちゃんも

 もともとは規格外の野菜を使って料理を提供するのが目的。「やることはシンプル。地産地消をコンセプトにしただけです」と小役丸社長は語る。規格外で出荷できない野菜を「農家の言い値」で買い取り、集荷、発送までを自社で行う。地産地消を徹底し、農家にとっては箱代も運賃もかからない便利な仕組みとなっている。

規格外の野菜も販売し、地元の農家の収入アップに貢献している

 事業をスタートした当初、売れない規格外の野菜を農家の言い値で買い取る、ということがなかなか浸透しなかった。すでに農作業をやめていた農家のおばあちゃんに、「オオバを買い取るので口座を作ってくれ。そこに振り込むから」と言って、オオバ5枚を買い取った。まさか本当にお金が振り込まれると、おばあちゃんは思っていなかった。それがよほどうれしかったのか、老いた体にムチ打って栽培に精を出した結果、月に100万円稼ぐという記録を作った。

 「捨てられていた野菜が収入になる。畑1反が全部収入になれば農家もうれしい。農家を元気にするのが自分の仕事です」。農家を継がなかった跡取りが、これにより農業を継いだというケースも出てきたという。

学習塾と連携し年間1200人の食育体験を実施

 ぶどうの樹をベースにして、農業や食育のことを知ってもらうために始めたのが、「食育ファームほっこり農園」だ。グラノ24Kでは、岡垣町にある施設を使って、地元の人やファミリー層を相手に、ソーセージづくり教室やフライパンで調理するピザ教室、パン教室、和菓子教室などを行っていた。そこへ福岡にある大手学習塾から声がかかった。何か子供たちを楽しませて教えられないかという申し出だった。

グラノ24K ほっこり農園運営企画主任
加悦 典子 氏

 元は小学校の講師だった加悦典子さんの肩書は、ほっこり農園運営企画主任・食育体験シニアソムリエ。「食育体験としていろいろなメニューを用意しています」と話す。メニューは子供だけでなく大人、外国人観光客を相手にしたものなど多岐にわたる。田植えや稲刈り、餅つきといったものもあり、楽しみながら体験できる内容に自信を持っている。

 「子供向けは学習塾とのタイアップでスタートし、年間1200人の食育体験を受け入れています。また、今では小学校の課外授業などにも活用されています」と加悦さんは説明する。「田植え体験で子供たちは泥だらけになります。喜ぶのは子供たちだけではなく、親たちも“どんどんやってくれ”と後押ししてくれます」。

食育体験でさつま芋を収穫する子どもたち

 学校や塾、親では教えられないことを学べるのが大きいのだろう。調理するときには、使い慣れない包丁も使わせる。「最初は失敗を恐れていた子供たちも、失敗してもいいと分かると積極的になってきます。むしろ手を出したがる親がケガをすることが多いですね」と笑いながら話す。

 子供たちの食育体験だけではなく、調理師や保育士を目指す若者が通う専門学校の授業もほっこり農園で行っている。調理師になりたい若者は、料理に使う食材のことをもっと知るべきだ。保育士を目指すなら、食育の大切さを体験しておくことは将来のプラスになる。「合鴨農法をテーマにしたとき、最後は合鴨を絞めてみんなで食べました。そういう経験を通じて、食糧や食材の大切さを理解してもらえたと思います」と加悦さんは若者たちの様々な反応を感慨深げに語る。

食に関する研修を受ける生徒さんたち

 体験は理解を深め、それが子供時代ならばその後の成長に変化をもたらす。「食育体験に参加した子供たちの親からは、子供がしっかりした考えを持つようになった、と言われることも少なくない」のだという。

葡萄畑とワイナリーの事業化も視野に

 本拠地である岡垣町の「ぶどうの樹」は7000坪の広さ。その中にはレストランのほかに和食処、焼き肉店、BBQスペース、天然酵母を使ったパン・ピザショップなどのほか、結婚式場もある。ぶどうの樹というブランドは、もともと葡萄畑があった場所にちなんでいる。その名残りとして、本物の葡萄の樹がパーティースペースの天井を覆っている。その演出には、地産地消を起点に幅広く人と人、地元と人のつながりを作っていくという姿勢も見えてくる。

 「もともと埋め戻し用の砂や土を採取するために持っていた山があります。そこを切り開いて農園を作りました。そこにも葡萄を植えるつもりです。自前のワイナリーも作る予定です」と、小役丸社長は事業プランを語る。さらに農家が耕作を止めた農地を生かして、宿泊型の体験農園も視野に入れる。農園事業をさらに発展させていく考えだ。