• ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

名人の栽培技術をICTとデータで実現

「農業に休日を!」を目標に省力化に挑むITベンチャー

「農業に休日を!」をキーワードに、ハウス栽培の労力低減に挑むITベンチャーがある。神奈川県川崎市を本拠地とするルートレック・ネットワークス(代表取締役社長:佐々木伸一氏)だ。ICTと「点滴灌漑」の技術を組み合わせた「ゼロアグリ」というシステムで、ハウス栽培の生産者が最も神経と時間を使う、“水やり”と施肥の作業を自動化した。導入数はうなぎ上りで、じわじわと農業の現場に浸透し始めている。

ルートレック・ネットワークス代表取締役社長の佐々木伸一氏。もともとは米モトローラ社で半導体事業に携わった。2005年にネットワーク機器・技術のベンチャーとしてルートレックを創業。現在は「農業に休日を!」をミッションに掲げ、アグリテック企業として「ゼロアグリ」の普及に注力する。水と肥料の節約ができるため、日本市場で普及させた後は、水不足や肥料の過剰投与による環境被害で悩む海外に広く普及させることを念頭に置いている(写真:高山和良)

 農業といえば、太陽と土の恵みを受けて大空の下で作るもの、というのが一般的なイメージではないだろうか。しかし、こういった露地での農業は、主流ではあってもすべてではない。実は日本の農業産出額の約4割が「施設園芸」という方法だ。先端的なものには、水耕栽培と人工照明を使った植物工場や、大型のガラス温室で温度や水分、日射量など複数の条件をコントロールする高度なハウスなどがある。ほとんどは畑の上にパイプで骨組みを作り、そこに透明のシートを張って作物を栽培する「パイプハウス」「ビニールハウス」などと呼ばれる。

 こうしたハウスによる栽培は、室内で作物を育てるため、露地栽培に比べて風雨の被害を受けにくく、温度管理もしやすい。そのため1年を通じて栽培したり、季節をずらして栽培したりできる。生産量を増やしたり、品質を上げたりする取り組みもしやすい。

手間がかかる“水やり”と施肥

 その一方で、室内栽培ならではの手間ひまをかけなくてはならない。例えば、雨水はそのまま使えない。何らかの方法で作物に“水やり”、つまり、灌水をする必要がある。また、閉鎖環境での栽培になるため作物の病気やウイルスが広がると、全滅につながる恐れがある。細心の注意を払わなくてはならないだろう。

 こうした手間の中でも、とりわけ重要なのが水やりと施肥の工程だ。一般的に、植物を育てる技術として“水やり10年”と言われるように、どういうタイミングでどれだけの水を与えればよいかというノウハウは一朝一夕では身につかない。まして施肥のノウハウに関しては、熟練の生産者でさえも、自分の技を科学的に把握できている人は少ないという。

 ハウスといえども日射量や気温の影響は当然受ける。一定の品質と収量を確保するためには、こうした気候条件や作物の生育状況に合わせて日々、水やりと施肥のタイミングと量を変える必要がある。単に時間を取られるだけでなく、きめ細かく神経を使わなくてはならない工程が水やりと施肥なのだ。

ICT技術で自動化

 ルートレック・ネットワークス(以下、ルートレック)の「ゼロアグリ」は、「点滴灌漑」という技術とICT技術を組み合わせて、ハウス内の作物への水やりと施肥を自動化する装置だ。ゼロアグリが使われるのは、土の上で育てる、いわゆる土耕栽培のハウスだ。主にトマトやきゅうり、パプリカなど果菜類と言われる野菜や、いちごやメロンなどの果物類を栽培するハウスに設置される。

 点滴灌漑とは、土の上にはわせたチューブを通じて、水や、液体肥料(液肥)入りの水(養液)を作物の根元に点滴を垂らすようにして施す技術だ。ゼロアグリは、この養液供給をコンピューターとネットワーク技術を使って自動化している。土壌の条件に合わせて作物がうまく成長するように、養液の量と投与のタイミングを自動調整して作物の根元にピンポイントで垂らす。

 ゼロアグリの技術的な仕組みをかいつまんで言うと、(1)センサー、(2)クラウド上に設置された「ゼロアグリクラウド」、(3)養液供給の電磁弁、という3つの機械をネットでつないだものになる。

「ゼロアグリ」の仕組み。左は、点滴灌漑の様子を示した写真。作物の根元にチューブから養液を点滴のように垂らしている。右は、ゼロアグリがどのようにして養液を投与するかを示す概念図。センサーやコンピューター、タブレット端末といった機械同士をネットワークでつなげる技術のことを、Internet of Things=IoTと呼ぶ。ゼロアグリでは点滴灌漑の装置として、このジャンルのトップメーカーであるイスラエルのネタフィム(NETAFIM)社のものを使う(資料提供:ルートレック・ネットワークス)
[画像のクリックで拡大表示]

 ゼロアグリでは、すべてのデータや信号はネットを通じてやり取りされる。

 ハウスの中に設置した複数のセンサー(1)が日射量や地温、土壌水分量、肥料の濃度を示すEC(Electrical Conductivity)値といった作物の生育状況に大きな影響を与えるデータを測定。データがインターネット経由でゼロアグリクラウド(2)に送られる。ゼロアグリクラウドの中に入っているプログラムが、これらのデータから最適な養液の量と投与のタイミングを算出する。さらにインターネット経由で養液供給システムの電磁弁(3)に指示を出す。電磁弁はこの指示に従って開閉量を調節して、その先にあるチューブに適正な養液を流す。

生産者はタブレットで管理

 生産者は、養液供給の状況をセンサーのデータや気象などと一緒に、アプリを入れたタブレットで閲覧できる。作物の生育状況によっては養液の供給量やタイミングなども自分で調整可能だ。生育状況を写真で取り込みながら、養液供給の記録や気象条件などを振り返ることができる。このため、このアプリを使って、自分だけの独自栽培技術を仕立てるのも可能だ。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
ゼロアグリのアプリ画面。作物の生育状況を気象の変化、養液の供給記録などと照らし合わせて閲覧。さらに、生育状況によっては、このアプリから養液供給量を自分で調整可能だ(資料提供:ルートレック・ネットワークス)

 生産者は、このゼロアグリを採用することで、水やりと施肥の苦労からほぼ解放されると言ってもよいだろう。

 ルートレックを率いる佐々木伸一代表取締役社長は「ハウス栽培では水やりと施肥の作業に取られる時間は毎日2時間ほどですが、この90%以上が削減できます。実際には、状況の把握や判断などにも時間は取られます。2時間弱の削減分以上に労働負荷を減らせます」と語る。