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LINEで畑と会話ができる!

「畑bot」を農業変革のトリガーに

畑と人間がチャット形式で会話――。そんなデモを実施したのは、日本オラクルだ。その名も「畑bot」。なんと、コミュニケーションサービスのLINEを使って「畑と会話ができる」という驚きのソリューションを実現した。その仕組みと狙いとは。

あたかも畑と会話しているようなやり取りが表示される
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日本オラクル クラウド・テクノロジー事業統括 Cloud Platform事業推進室 エバンジェリストの中嶋一樹氏

 日本オラクルが開発した「畑bot」は、畑を擬人化して人間と会話ができるツールだ。物は試し。取材の冒頭に、仮想の畑である「オラクル畑」とLINEで会話してみた。「水分は足りてますか?」とLINEで問いかければ、「ちょうど良い感じです」といった答えが返ってくる。畑に水分が多すぎるような状況だと、同じ問いかけに「ジャブジャブです」と返事があった。データを使ってモノとしての畑の状態を監視するわけではなく、擬人化された畑と会話を交わしているような感覚で、親近感が生まれてくる。

 畑botとは、機械的に自動発言するシステムである「Bot」と「畑」を組み合わせた造語。同社では「オラクル畑」という仮想の畑とBotを連携させて、畑自身が状況を発言してくれるシステムを構築した。こんな奇想天外なアイデアが登場した背景はどこにあったのだろうか。

 農業にIT技術を活用し、IoTソリューションとして提供することは、これまでも多くの事例がある。土地の状態や日照時間、風などの状況をデータとして収集して分析し、栽培に役立てる仕組みだ。ただしその多くは、パソコンに示されるコンソール画面で収集した情報や分析したデータを閲覧して行うのが一般的だ。「そうした『ITらしい』使い方とは一線を画したソリューションを提供したいと考えました」。こう語るのは、畑botを開発した日本オラクル クラウド・テクノロジー事業統括 Cloud Platform事業推進室 エバンジェリストの中嶋一樹氏だ。

 「農業にかかわる方は、ITと縁遠いケースが多いと思います。一般のアプリケーションでは、パソコンのコンソールに表示されるデータを確認するにしても、その使い方を覚えなければなりません。一方、Botならば普段話している自然言語でやり取りが可能で、使い方を覚える必要がありません。今回の畑botでは、ユーザーインターフェースとしてLINEを使いました。LINEの使い方さえわかれば、畑の情報を得ることができるのです」(中嶋氏)

畑と日本語で「会話」をしてお世話につなげる

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 畑と会話ができる畑botの仕組みを、簡単に説明しよう。今回の畑botで機能の中心となるのは自動発言システムのBotで、Botが複数の機能を連携させる「ハブ」の役割を果たす。人間とのインターフェースとしてはLINEを使い、日本語で質問を受け付け、回答を返す機能を持つ。受けた質問は、Botから自然言語解析エンジンに渡すことで、質問の中にある「インテント(意図)」を特定する。そしてインテントが要求する情報を、畑のセンサーからリアルタイムで情報を蓄積しているオラクルのOracle Database Cloudに問い合わせて取得する。あとは、逆の手順で取得したデータに対応した日本語を「回答」としてLINEに表示させるという流れだ。Botを核にしながら、複数のクラウドサービスなどを活用することで、畑との会話を可能にしているというわけだ。

自然言語解析エンジンやオラクルのデータベースと情報をやり取りした結果が表示される仕組み。起動直後は返信までにやや時間がかかるが、一度会話が始まればリアルタイムに返信が表示される
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 もちろん、畑側にも仕組みが必要になる。畑botでは、「土壌湿度センサー」によって、畑の湿度をリアルタイムでモニターしている。センサーは数百円といった安価なもの。センサーの情報を収集しOracle Database Cloudに送信する機器も、教育用途などで使われる小型のボードコンピューター「Raspberry Pi3」を使うことで、数千円程度の低コストで実現している。

土壌湿度センサーとRaspberry Pi3を使った装置。これらだけなら1万円以下で作ることができる
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 畑botはまだ実用化されているわけではないが、実際に圃場で使う場合には、モバイル通信などの回線を利用してクラウドと接続する必要がある。とはいえ、最近は低コストで利用できるIoT向けの通信サービスも登場しているため、大きな負担にはならない。農業にIoTの視点を取り入れ、なおかつ人間にも優しいインターフェースで情報の管理ができるシステムが、手軽に試験導入できるような状況になってきている。

 こうしたシステムでは、以前では決められた質問や単語で問いかける必要があるものが多かった。しかし畑botでは自然言語処理を採用しているため、決まったフレーズではなく通常の会話のような言葉でメッセージを返してくれる。試しに、「育ってますか?」と問いかけたところ、「絶好調にきまってんじゃんよーーー」と豪快な答えが返ってきた。データがなかったり、判断できなかったりするような質問に対しては、正直に「わかりません」と応じてくれる。農業にIoTを組み合わせることで、「難しいデータとにらめっこしなければならないのでは?」という心配は、畑botではまったくの杞憂になる。会話ができることで、これまでよりも一層の愛情を持って、畑の世話ができるようになるかもしれない。

畑の情報をビッグデータ解析して日本を農業立国に

 日本オラクルが、畑botのシステムを作ったのは、これをそのまま同社のビジネスにするためではない。中嶋氏は、「畑botは、これ自身をソリューションとして案内するのではなく、クラウドの開発者に『こういうものができるよ』という啓蒙活動の一つと考えています。こうした発想にインスパイアされて、さまざまな産業のジャンルで、IoTやクラウドを活用するアイデアが生まれることを願っています」と語る。

 また、「日本は農耕文化のある国です。ただし近年ではその産業規模は縮小しています。IoTなどと農業を組み合わせる事例を発信することで、自国の農業を良くしていこうと考える若者の刺激になればいいですね。農業は重労働だと考えるのではなく、農業に対するイノベーターになれると発想を転換するきっかけにしてもらいたいです」。中嶋氏は、「農業」にIoTやクラウドを掛け合わせることでのさまざまな可能性の広がりに期待している。

 IoTと農業のコラボレーションは既にさまざまなシーンで始まっており、IoTには農業を飛躍的に変えるだけの潜在能力があることが分かってきた。「たとえば、様々な圃場にセンサーが取り付けられ、多くのデータが溜まってきたら、まさにビッグデータとしての活用ができます。自分の畑や田んぼにセンサーを挿すだけで、どのような作物に適しているかを指摘することもできるでしょう」(中嶋氏)。日本全国、全世界の圃場のデータを使えば、日照や土壌、気温、湿度などの状況から、「おたくの畑ではトマトよりもイチゴの方が、より収穫が期待できますよ」といった指摘をするサービスも構築可能だ。

 IoTと農業の関係を密接にすることで、農業のデータが多く蓄積され、人工知能の一種である機械学習の発達によりこれまで以上に「気づき」が得られるようになる。「自分たちの持っている土地のポテンシャルを最大限に引き出せる農業を開発したり、ある作物に適した土地を探し出して国内外にビジネスを拡大したりするといったことが、IoTによって現実のものになるでしょう」と中嶋氏は語る。

 IoT×農業。ここには大きな潜在能力があり、ビジネスの鉱脈が埋まっている。それを掘り起こすことは農業の生産性拡大にもつながるのだ。しかし現状では、IoTを使いこなす一部の人のものとなっている。いずれ一般的な農家の人々が手軽に使えるようになるためには、畑botのように、ユーザーインターフェースの部分まで考えた仕組みづくりを考える時期に来ているといえる。