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日本産和牛が海外でブランドになるためにやるべきこと

牛肉勢力図で考える食のブランド戦略

世界で日本食ブームが起こっている。その中で、外国人が思い浮かべる日本の食と言えば、すしやてんぷらが代表だった。いまは、日本産の牛肉のニーズが高まっている。移り変わる牛肉の勢力図。人気の推移とともに、価値を高めるブランディング手法を考える。

 少し前のデータとなるが、「日本食品に対する海外消費者意識アンケート調査」(日本貿易振興機構、農林水産・食品調査課、2013年)によれば、中国、香港、台湾、韓国、米国、フランス、イタリアの7つの国と地域で、「好きな外国料理」の1位に日本料理が選ばれ、「食べてみたい日本産品」として牛肉が上位に見られる。

 こうした日本食ブームも、日本産牛肉への関心も、政府のクールジャパン戦略によるところが大きい。だが、日本産牛肉の柱ともいえる、和牛の海外への売り込みは、実は試練の連続であった。

和牛の海外戦略は1990年代から

 和牛の輸出促進は、クールジャパン戦略が打ち出される、はるか前の1990年代から取り組まれてきた。1991年4月、日本は牛肉輸入を自由化。米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドから安価な牛肉が輸入されるようになり、日本の消費者にとって牛肉は身近な食品となった。ただ、これによって国産牛、中でも手間暇をかけて肥育される和牛の価格の高さが強調された。

 このとき和牛生産者は、国内で輸入牛肉に対抗しなかった。逆に海外に売り込みをかけることに力を入れ始めた。東南アジアや中国の高級店で扱われ、絶妙にサシが入った軟らかさ、赤身と脂の独特の調和が各国の富裕層の舌をとりこにした。現在の世界の和牛人気の下地は、このあたりから培われてきたといえる。

 かつてこうした和牛の霜降肉は、赤身を好む欧米人には不人気だといわれていた。また、昨今日本でも起こっている熟成肉ブームと関連して盛り上がっている赤身肉ブームを捉えて「日本人も(霜降ではない赤身の)牛肉の味が分かってきた」と評する向きもある。だが、例えば2015年公開のフランス、英国、米国合作の映画「ステーキ・レボリューション」は、日本の和牛を高い評価とともに紹介している。この作品は、畜産農家生まれで肉好きのフランス人映画監督と、パリ最高の精肉店店主が世界の200を超えるステーキハウスを巡るドキュメンタリーだ。和牛は世界の舌を魅了しているのだ。

BSE、口蹄疫、原発事故。そして品種の流出

 ところが、2000年代の初めは和牛のみならず、世界の牛肉の受難期となる。1980年代に英国で発見されたBSE(牛海綿状脳症)は、2001年に日本で、2003年に米国でも発生が確認され、世界の牛肉消費を冷やす。

 それでも2007年に米国が、2009年に日本が、国際獣疫事務局(OIE)で「BSEリスクが管理されている国」(準清浄国)と認定され、BSE禍は収束へと向かった。

 それでほっとしたのは、日本にとってつかの間だった。2010年に日本で口蹄疫が流行。さらに、2011年に東京電力福島第一原子力発電所事故が発生。これらにより、各国が日本からの牛肉・豚肉などの輸入を停止する事態となった。

 日本の和牛生産者にとって痛恨だったのは、この頃には海外、特に東南アジア、東アジアでの和牛需要が一定の規模を持つに至っていながら、その市場への供給の道を断たれてしまったことだ。

 その海外の和牛市場を手に入れたのが、オーストラリア産の「WAGYU」だった。オーストラリアには1990年代から和牛の生体、精液、受精卵が持ち込まれ、和牛品種の生産が始まっていた。オーストラリア和牛協会(Australian Wagyu Association)が組織され、和牛の登録・管理やマーケティングを敢行。生産した牛肉は、アジア各国だけでなく、ヨーロッパ、米国へも輸出された。

 さらに、現在では米国、カナダ、欧州でも、オーストラリア同様に和牛品種の生産が行われている。品質の評価も上がってきた。実は、前述の「ステーキ・レボリューション」にも、スウェーデン産のWagyuが高評価で登場している。日本国内の生産者にとっては悪夢のようだった。

地理的表示(GI)で巻き返す

 和牛品種の海外流出を許したのは、日本の知財管理の甘さに問題があったと考えられがちだが、そうは言い切れない。実は動物については、植物にはある育成者権のような制度がない。現在は対策として、精液の流通管理徹底が考えられているが、知財の問題について言えば、米国など海外ではWAGYUの商標の取り合いが起こっている。つまり、和牛/WAGYUでは、日本産としての生物学的な固有性も、名称としての固有性も主張できないところに来てしまっているのだ。

 だが、この2つの特徴をあえて捨てるのが、逆転を図る妙手となるはずだ。まず、和牛とは品種という生物学的な特性を表現するものではなく、歴史、文化、生産方法まで含めた総合的な価値だという理解を広めるべきだ。独特の肥育方法や、それを支える日本人独特の職人技、生き物に対する細やかな心遣い、和牛を産み出した自然や人々の歴史や物語で、“本物”(authentic)としての価値を訴える。その上で、「但馬牛」「神戸ビーフ」のように、和牛/WAGYU以外の名称でのブランド化を図るのだ。

 これらを実現するのが、地域の人的特性・自然的特性と産品の特性に結びつきがあるものに認められる「地理的表示(GI)制度」だ。すでに「但馬牛」「神戸ビーフ」は2015年に地理的表示法に基づいて登録されている。この線で和牛戦略を立て直していくことが、起死回生の道となるだろう。いわば、知財で負けたものは知財で取り返すという理屈である。