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キーワードは“ノウフク”、浸透し始めた「農福連携」

「働き手」が欲しい農と「働く場」を求める福祉、両者のニーズが合致

「農福連携」と呼ばれる取り組みが活発化している。農業を福祉の現場に取り入れる試みは従来からあるが、どちらかというと障がい者支援が中心だ。引きこもりやニートなどの生活困窮者への支援は、それほど多くなかった。最近になって、生活困窮者の支援にも手が広がる。また、農作物の生産・加工・販売を広く手掛けたり、農家からのニーズに応じて農作業の委託請負をしたりする法人が少しずつ増えている。

 一般にはまだそれほど馴染みがないが、「農福連携」という言葉がじわじわと浸透し始めている。農福連携とは、文字通り、農業の現場と福祉の現場が連携することだ。具体的には、障がい者や生活困窮者などの社会的に弱い立場にいる人たちが、農園で畑仕事に従事したり、農産物の加工・販売をしたりして、自分の働く場所と居場所を手に入れる取り組みを指すことが多い。

 農業の現場では、高齢化などにより担い手の減少が止まらず労働力不足が悩みの種だ。一方の福祉サイドでは、障がい者・生活困窮者の働く場所がなかなか見つからない。農業の「働き手がいない」という問題と、福祉の「働く場がない」という問題を解決し、補完してくれるのが農福連携というわけだ。

農福連携のシンポジウムやフォーラム、マルシェ

 最近、農福連携を冠したシンポジウムやフォーラム、マルシェなどの催しが頻繁に開かれるようになった。農業・福祉関係者だけでなく、行政や一般の人も巻き込みながら、大きなうねりになろうとしている。

 この2月14日には、農林水産省の政策研究機関である農林水産研究所主催の「農福連携」シンポジウムが開催された。「農業を通じた障害者就労。生活困窮者等の自立支援と農業・農村の活性化」というテーマが掲げられ、障がい者や引きこもり、ニートなどを実際に引き受けている事業者をはじめとして、農業関係者、行政の担当者、自治体、研究機関など多くの人たちが集結。農福連携の最前線について報告が行われ、活発な議論が交わされた。

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左:2017年2月14日、東京・永田町で開催された「農福連携」シンポジウム
右:JA共済総合研究所の濱田健司主任研究員が司会を務めたパネルディスカッション

 3月には農福連携の取り組みを全国レベルで推し進める「全国農福連携推進協議会」が設立される。ここに全国の福祉事業所や農家、行政や研究者、企業など、多くの賛同者が参加する。

 行政の側でも、該当省庁でもある農林水産省と厚生労働省の関心度は高い。協力しながら、積極的に連携を推し進めている。「農福連携マルシェ」などはその一例だろう。2015年6月に初のマルシェを霞が関で開催。2016年5月には官庁街を出て東京・有楽町、その後全国規模で開かれている。予算面でも、両省庁に農福連携を意識したものが少しずつ目立つようになってきた。

取り組みには2つの方向がある

2016年5月に東京・有楽町で開催された「農福連携マルシェ2016」(出典:農林水産省ホームページ)

 一般社団法人JA共済総合研究所主任研究員で、長らく農福連携分野の研究を先導してきた濱田健司氏は、今、農福連携の取り組みとして大きく2つの方向があると分析する。

 1つは、障がい者や生活困窮者が身を寄せる福祉関係の事業者が取得したり借りたりした農地で農業生産を行う方向だ。生産だけでなく、できた農産物の加工・製造や販売まで手掛けるところも多い。もう1つは、農家や農業生産法人などに対して農作業の請負契約を結ぶというもの。こちらは、障がい者や生活困窮者が農業側の田畑やハウスに出向いて、いわゆる施設外就労として農作業に従事する。

農福連携の研究で知られるJA共済総合研究所 主任研究員の濱田健司氏

 直接生産を手掛ける事業者の中には、独自の工夫で、持続可能な事業にしているところもある。代表例は、農福連携のパイオニアとしても知られる農事組合法人「共働学舎新得農場」だ。共働学舎は、北海道十勝地方・新得町に約120ha(120万㎡)の農地を構え、酪農、チーズや有機野菜の生産、工芸品づくりなどを行っている。

 ここには障がいを持つ人をはじめ、引きこもりやホームレスなど、様々な困難を背負った人たちが集まり共同生活をしながら農業生産・販売を行う。ここで生産されるチーズなどの農産物や工芸品はその品質の高さで知られ、学舎の経営にも寄与する。共働学舎の総売上高は約2億2千万円にのぼり、代表宮嶋望氏によれば「生活に必要な経費は賄えるほど」だという。

シンポジウムの基調講演をする、農事組合法人「共働学舎新得農場」代表の宮嶋望氏

 後者でよく知られている取り組みは、特定非営利活動法人(NPO法人)香川県社会就労センター協議会の例だ。生産者と同協議会が農作業の請負契約を結んで、協議会から障がい者施設に作業の参加を募集・依頼する。農作業の対価として工賃が支払われる。請け負う農作業は、野菜類の苗の植え付けから収穫、除草、出荷調整に至るまで多種多様だ。協議会を中心として、障がい者施設と地域行政、JA、生産者の間で協力し合う仕組みを構築し、上手に連携している例といえる。

 生活困窮者への支援をする団体も増えている。厚生労働省が2015年4月にスタートさせた「生活困窮者自立支援制度」の中には、生活困窮者に対する就労訓練事業を行う社会福祉法人や生活協同組合で条件を満たすところに対して、支援をする仕組みがある。内容も地域によって違ってくるが、固定資産税や不動産取得税などの一部を非課税にする措置や、事業を立ち上げる時の経費の補助、自治体による商品の優先発注がある。

 農林水産省でも、いわゆる「福祉農園地域支援事業」という、福祉農園の全国展開を支援する事業を進めている。平成29年度の予算でも、同様の施策が取られていて、「農山漁村振興交付金」といわれるものの中に、福祉農園を支援する枠が設けられた。こちらはNPO法人、民間企業、一般社団法人も申請できる。

生活困窮者への就労訓練の場としても注目

 こうした制度の充実に伴って、引きこもりやニートなどの生活困窮者に対して就労訓練をする団体が今後増えてきそうだ。ホームレスの就農支援プログラムを手掛けるところも出てきている。

 JA共済総合研究所の濱田氏は、こうした一連の動きを、「単なる社会貢献や福祉という範疇を超えて、障がい者や生活困窮者はいまや農業にとって必要な人材だと見る動きだ」と語る。担い手不足に悩む農業の現場からのニーズは今後ますます高まってくるだろう。

写真提供:埼玉福興

 社会的な弱者といわれる人たちが、農業を通じて働く場と収入を得て自立できれば、それだけ社会保障費の削減につながる。同時に、農業の衰退にも一定の歯止めがかかり、生産の拡大に寄与する可能性もある。

 もちろん解決しなければいけない問題は山ほどある。現在のセーフティネットにアプローチできなかったり、しなかったりする人もまだまだ多い。受け入れる側の意識や体制もまだまだだ。しかし、農福連携には大きな可能性が秘められている。今後の進展に大きな期待がかかっている。