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アプリで農作業をカンタン管理!

スマホとパソコンが作る新しい農業の“かたち”

分散圃場で真価を発揮する

 アグリノートは、経営規模が大きなところでより真価を発揮する。作業の標準化や従業員などへの作業指示が格段に楽になるのだ。

 一般に、規模が大きくなると、水田や畑などの農地はひとかたまりではなく、あちらこちらに分散する。いわゆる「分散圃場(ほじょう)」だ。こうした分散圃場は、何人かで手分けして作業をする。家族や従業員で分担して面倒を見たり、繁忙期にはパートタイマーやアルバイトに頼んだりするケースが多い。当然、作業の標準化と情報の共有が何よりも大切になる。営農の観点からは、作業者全員で栽培方法とやるべき農作業を共有し、できる限り同じ品質を保つようにしなくてはならない。アグリノートは、このような場面で力を発揮する。

 例えば、アグリノートには農地ごとに農作業の予定を入れておく機能がある。これを使えば、「A君は、今日は第3圃場と第4圃場で、それぞれ3時間ずつ苗を植え付けること。植え付けの条件は……。Bさんは第5圃場と第6圃場で……」といった作業指示が簡単に出せる。

 指示を受けた人は、当日、アグリノートの入ったスマホを見るだけでやるべきことを具体的に把握できる。何時にどこの圃場に行き、そこでどんな作業をどれくらいの時間をかけてすればよいかがハッキリと分かる。行くべき圃場もスマホのアグリノートを見れば地図データで一目瞭然だ。一般に大きく広がった農地では、1つひとつの田畑は畦や水路などによって仕切られているだけで、番地などで判別しにくい。どこに行けばいいかという指示そのものが難しいのだ。アグリノートなら、Googleマップと航空写真で農地を紐づけられるので、スマホを見せればどの農地に行けばいいかが間違いなく伝わる。

 実際にアグリノートを運用して約20ヘクタールの水田で水稲を作る有限会社米八の代表取締役・加藤誉士寛氏は「それが最大のメリットです。アルバイトの人にどこの田んぼに行ってと指示するときにこれがあれば間違えません」と笑う。加藤さんが米づくりをする田んぼ(圃場)は、約200カ所にもなる。実際にこのアグリノートを使うようになって、管理の手間がかなり楽になったという。さらに規模を拡大したいと考えている加藤さんにとって、アグリノートはすでに欠かせないツールになっている。

アグリノートの入ったスマホを手にする米八の代表取締役、加藤誉士寛氏。加藤氏が営農する田畑は水稲以外も含めると合計で30ヘクタールにも及ぶ(写真:高山和良)

 このように、規模が大きい農家や生産法人にとっては、アグリノートは作業指示書であり、栽培マニュアルであり、それでいて自動記録装置でもあるという、一石三鳥のツールとなるのだ。

GAPの認証取得も強力にアシスト

 さらに、アグリノートは、比較的規模の大きな農家や法人が注目する「GAP」認証の取得を強力に後押しする。

 農林水産省の資料によれば、GAPとは「農産物(食品)の安全を確保し、よりよい農業生産を実現する取り組み」を指す。一定の基準を満たした農家や団体に対して認証する制度があり、世界標準となっている「GLOBAL G.A.P.」(グローバルGAP)や、日本独自の「JGAP」の2つの認証制度がよく知られる。いずれも2020年の東京オリンピックで提供される食材の調達基準にもなっていて、農家や生産法人がこれらの認証を取得することは、そこで作られる農産物の安心の裏づけになる。認証取得が販路拡大につながった例も数多く出てきている。

 JGAPにせよ、グローバルGAPにせよ、農地ごとにどのような作業をしたのか、そして、積み重ねてきたのかという記録をきちんと残すことが必要になる。認証を受けようとすると、審査機関からそれぞれの農地についての農作業記録を提示するように求められる。安全な農産物を作れる質の高い生産者は、きちんと記録をして、保管し、いつでもアクセスできるようにしているはずだという考え方だ。

ウォーターセル スマート農業 推進部の佐藤歩氏(写真:高山和良)

 アグリノートで記録を付けておけば、こうしたGAP認証を取得するときの土台になる。実際にアグリノートを活用してGAP認証につなげた農家・法人は少なくない。ウォーターセルで、アグリノートの製品企画・マーケティングを担当する佐藤歩氏によればJGAPを取得している農家・経営体のうち約5%がアグリノートのユーザーだという。

名人技の伝承にもひと役買う

 さて、このアグリノート、1ユーザー当たり月500円で利用できる。機能からすると格安と言ってもいい。ウォーターセルとしては「とにかく多くの人に使ってもらいデファクト・スタンダードにしたい」(佐藤氏)との考えで、あえて低価格に抑えている。

 同社では、団体向けの「アグリノート集約システム」の利用や、大規模農家向けに付加価値を設けたりカスタマイズしたりすることでエンジニアリング収入につなげる戦略だ。そのためには基本となる、アグリノートそのものの機能をブラッシュアップして母数の拡大を狙う。農家や生産法人にとっては、田畑での栽培が仕事であり、記録そのものは余分な手間という認識が一般的だ。このために、一番の特長でもある“簡単さ”に磨きをかける。佐藤氏と前述の吉崎氏は「さらに使っていただくためには、現場からのニーズを吸収してどれだけ簡単にできるかにかかっています」と声をそろえる。

 どんな世界でもそうだが、農業の世界にも名人・達人と呼ばれる人がいて、一人ひとりが米や野菜づくりの独自のノウハウを持っている。地域によっては、そうしたノウハウが体系化され、共有されているところもあるが、多くは言語化されないまま名人・達人の引退と共に消えていく運命にある。

 アグリノートのようなデジタルツールが多くの農家や生産法人でごく一般的に利用されるようになれば、毎年の作業記録が農地ごとにデータとして蓄積され、毎年の気象条件や生育や収穫の状況などと紐づけられていくはずだ。こうなることで、名人・達人だけが持ち得る“暗黙知”を、誰でも共有できる“形式知”にできる可能性は高まる。運用次第では、誰もが名人・達人と同じように作れるという農業の工業化も絵空事ではなくなるかもしれない。

 ウォーターセルでも、アグリノートのキャッチフレーズとして「記憶から記録へ」を挙げる。アグリノートは、作業効率を高め、営農を支援するツールというだけではなく、農家の高齢化に伴って潰えようとしている名人・達人のワザを、世代を超えて伝承するためにも大きな可能性を秘めていると言えそうだ。