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新ブランド米「新之助」が今秋、本格デビュー

「コシヒカリ」を守りながら攻める新潟の米戦略

この秋、おそらく今、日本で最も注目を集めているブランド米が本格デビューした。ブランド米の名は「新之助」。日本一の“こめどころ”を自負する新潟県が8年の歳月をかけて開発し、今年から市場に送り出す新しい銘柄だ。新潟県は言わずと知れた「コシヒカリ」の大産地だが、「コシヒカリ」は夏の暑さに弱い。「新之助」は、今後温暖化がさらに進んだときに、新潟がこれまで同様“こめどころ”であり続けるために開発した暑さに強い期待の新品種だ。新潟の“切り札”と言ってもよい。味は「コシヒカリ」と並ぶ旨さでありながら、まったく違う方向を目指したという。新潟県では「コシヒカリ」という大ブランドを守りながら、「新之助」を「コシヒカリ」と双璧をなすもう一つのエースに育て、日本一の“こめどころ”の座を死守する構えだ。同時に、米農家の収益安定化を図るべく、二大ブランド以外の米についても精緻な生産戦略を組み上げている。

すくすく育つ「新之助」の稲穂(写真:高山和良)

 新潟県と言えば、「コシヒカリ」の産地としてあまりにも有名だ。県全体での「コシヒカリ」の生産量は年間30万トンにも及び、県内各地域の名を冠した魚沼産「コシヒカリ」、佐渡産「コシヒカリ」、岩船産「コシヒカリ」、新潟県産「コシヒカリ」という四つの大銘柄を県内に抱える。名実ともに日本一の「コシヒカリ」産地だ。

 その新潟県が「新之助」という新ブランドをこの秋に本格デビューさせた。県が総力を挙げて開発を進め、昨秋の試験販売で大きな話題を集めた注目の新ブランド米だ。

「新之助」(5㎏)のパッケージ。10月11日に首都圏の販売がスタートする(写真:新潟県農林水産部農業総務課提供)

 「コシヒカリ」という一大ブランドを持ちながら、新たに「新之助」というブランドを立ち上げる理由は、年々進む温暖化にある。実は「コシヒカリ」は暑さに弱く、酷暑日が多い夏には等級を落とす懸念がある。稲穂が付き、実が熟す時期に猛暑にさらされると、米が白濁してしまうことがあるのだ。そうなれば等級が下がり、買い取り価格も大きく下がってしまう。生産者の経営には大きな打撃となる。

 実際に、酷暑が襲った今から7年前の2010年には、新潟県内でも「コシヒカリ」の等級を下げざるを得ない産地が多く、大きな問題になった。今後、長期的な視点で見ると温暖化がさらに進んでいくことは間違いない。いずれ県域全体で「コシヒカリ」の品質を担保できなくなるという危険を否定できないのだ。「コシヒカリ」の大産地である新潟県が、こうした未来のリスクに備えておくことは“こめどころ”としての至上命題であり、大産地としての責務でもある。

 「新之助」のブランド化を進める新潟県農林水産部農業総務課政策室の神部淳室長は、「新之助」を開発するに至った経緯を次のように語る。

 「新之助開発の大もとのコンセプトは地球温暖化対策です。コシヒカリが本県の主力品種であることは変わりませんが、10年前、20年前と比べると8月の猛暑日は新潟でも非常に増えてきています。当然、温暖化は進行してほしくはありませんが、今後、本当に進んでしまったときに、コシヒカリだけでいいのか、猛暑が続いても暑さに強い品種を今から用意しておく必要があるのではないか、という思いで平成20年から開発に着手しました」

「新之助」のブランド化を進める新潟県農林水産部農業総務課政策室の神部淳室長。神部氏の後ろには「コシヒカリ」(左)と「新之助」(右)が実っている

 新潟県以外の「コシヒカリ」産地でも、同じように温暖化のためのリスクヘッジとして、暑さに強い品種の開発を進めている。福井県の「いちほまれ」、富山県の「富富富」(ふふふ)などがそうだ。どちらも2018年の本格デビューに向けて今年から試験販売に入る。ちょうど「新之助」から1年遅れで現れるライバルということになる。新潟、福井、富山と言えば、越後、越前、越中。かつての越の国の米バトルと見えなくもない。

 温暖化という将来のリスクに備えるために、新潟県が県の開発拠点である新潟県農業総合研究所で「新之助」の開発に着手したのは平成20年のこと。のべ184の品種を使って500通りという膨大な数の交配を繰り返し、品種改良を進めてきた。交配でできた品種の中から、徹底的に味の良さにこだわりながら選別を繰り返し、さらにその中から暑さに強い品種を選んでいく作業だ。気の遠くなるような繰り返しの結果生まれたのが、後に「新之助」と名付けられた「新潟103号」という品種になる。

 コメの新品種開発は、「主要農作物種子法」という法律によって、各都道府県で進められてきた。このため、新しい銘柄米の開発は行政と農業試験場などの公的な研究機関が中心になって進めている。新潟県農業総合研究所は、そうした公的な研究機関の一つ。ここのところ立て続けに登場している新銘柄も、多くはこういった経緯で産み出されている。

 注目される「新之助」だが、ライバルとなるブランド米は実に多い。先に市場に出て人気を博している、北海道の「ゆめぴりか」、山形県の「つや姫」、青森県の「青天の霹靂」、岩手県の「銀河のしずく」といった先行ブランド米や、先述の福井県の「いちほまれ」、富山県の「富富富」など後発のポストコシヒカリ勢。さらに宮城の「だて正夢」などがそれに当たる。

 そして、これらの銘柄がターゲットにしているのは、最大最強のブランド米であり、長らく玉座にいた「コシヒカリ」なのだ。「新之助」以外の新興ブランド米にとって最大の目標であり、市場を切り取りたい巨大なライバルが「コシヒカリ」と言ってよいだろう。

守りながら攻める

 当然、「新之助」にとっても「コシヒカリ」の存在を避けて通ることはできない。新潟県にとっては避けたいところだが、市場で競合してしまうことはあり得る。しかし、県内で年間30万トン生産される「コシヒカリ」は大黒柱そのものだ。双璧であるべき「新之助」と「コシヒカリ」が市場を奪い合い、双方の競争力を弱めることはあってはならない。

 「新之助」がもし「コシヒカリ」の市場を食ってしまうようなら、県内の生産者が「新之助」に取り組む魅力は半減する。魚沼地区のように「コシヒカリ」のトップブランドを持っている地区にとってはなおさらだ。いかに優れた米であっても生産者が増えなければ市場には出てこない。

 「コシヒカリ」の市場を守りながら他県のライバル品種の市場を切り取ることが「新之助」に課せられたミッションということになる。新潟県は、“守りながら攻める”という難易度の高いやり方で「新之助」をデビューさせることになる。

 神部室長は「現在、新潟県の稲の作付けはコシヒカリが約7割と一極集中しています。コシヒカリと同じ時期に収穫するお米は生産者の方に選んでいただけない。新之助はコシヒカリに置き換わるものではなく、双璧のトップブランドという位置づけです。そのためにコシヒカリよりも収穫期が遅い、晩生(おくて)と言われる品種を選び、味も異なる美味しさを目指しました」と語る。

 消費者にとって一番気になるのはその食味だが、「コシヒカリは粘りが強いお米の代表格で柔らかく口に入れた瞬間に甘みを感じます。これに対して新之助は大粒でほぐれやすく一粒一粒が主張する。噛んだ後にすごく甘く感じます」と神部室長は「新之助」の旨さを解説する。