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新ブランド米「新之助」が今秋、本格デビュー

「コシヒカリ」を守りながら攻める新潟の米戦略

小さく産んで大きく育てる

 新潟県では、将来のエースである「新之助」の品質を高く保つために、限られた生産者しか作れない“高いハードル”を設けた。米に限らず、多くの農産物に言えることだが、せっかくブランドを立ち上げても、生産者が個々にバラバラの品質のものを作っていてはそのブランドは保てないからだ。県としても「双璧のトップブランドにするためには、いつどこで、どの店で買っても間違いなく美味しいという好食味の担保をしていかなくてはいけない」(神部室長)という考えだ。

 「新之助」の場合は、生産者は「新之助研究会」に入り、一定の栽培指針に従って作ることを求められる。品質基準も厳しく、水準に満たないものは「新之助」を名乗ることは許されない仕組みだ。このほか、GAP(Good Agricultural Practice)という生産工程管理を取り入れ、栽培の記録を付けることが必要になる。単に作るだけでなく食の安全や環境への配慮などが同時に求められる。もちろん、使う種籾も管理下に置かれる。「生産者にとっては厳しい基準とも思いますが、その条件で手を上げていただいています」と神部室長。

生産条件を厳しくして品質を保つ。「新之助」の生産体制と「新之助研究会」の状況(新潟県農林水産部農業総務課のデータ)
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 「コシヒカリ」の作り手からは、意外に作りやすいという声も上がる。新潟県新潟市西蒲区に50ヘクタールの水田を持ち、今年は約1ヘクタールで「新之助」を生産する有限会社ワイエスアグリプラントの販売部部長 藤田友和氏は「今年の稲を見た感じでは、コシヒカリよりも新之助の方が作りやすいですね。コシヒカリは倒伏しやすいので加減が難しいところがあります。晩生は早生よりも品質が安定しやすい」と「新之助」の生育状況を見ながら語ってくれた。

 同氏は「生産コスト的にもコシヒカリとそれほど変わらないですし、高く売れるので収益性は高い。まだ作付けは少ないのでプレミアム感は出ると思います。今後増やすかどうかは、需要を見ながら判断していこうと思っています。直売所でも販売してみてどの程度お客さんからの反応があるかを見ていきます」と市場の様子を見極めながら増産計画を考える。西蒲区でレストランや直売所を構える同社だけに、顧客や市場の声には敏感だ。「新之助」には期待をしながらも、慎重に今後の生産計画を練ることを考えている。

ワイエスアグリプラントの販売部部長 藤田友和氏。マルシェ店長でもあり、米・食味鑑定士でもある(写真:高山和良)

 気になる「新之助」の価格については、かなり高い値付けがなされている。今年の買い取り価格については、60キロ当たり1万9000円ほどで、「コシヒカリ」の最高峰と言われる「魚沼産コシヒカリ」と同等になるという。

 一方で「新之助」を作ったつもりでも、品質基準に満たなければ、“名無しの権兵衛”としてブランド名を名乗ることが許されない。こうなると買い取り価格は、がくんと下がり60キロ当たり1万2000円前後となってしまう。新潟県の「コシヒカリ」の下位ブランドとされる「こしいぶき」よりも安くなってしまうのだ。ある意味、作る側も相応の覚悟が必要な米が「新之助」なのだ。

 自ずと、新潟県でも腕に覚えがあり、自信のある生産者だけが「新之助」の栽培に取り組むことになる。当然、生産量は絞られる。本格デビューの2017年産でも「新之助」の見込み生産量は約6000トンとごく少ない。当初の計画では1万トンだったが、厳しい生産条件を義務づけたこともあり、計画の6割に留まった。この見込みについて神部室長は「ブランド形成に向けては、好循環につながったと思っています」と語る。県としては、小さく産み、市場のニーズに応えながら適宜生産拡大をしながら育てていく考えだ。

 「新之助」の主戦場は首都圏。都内でデビューイベントを10月11日に行う。都内のある百貨店では販売スタート時には、5キロ3780円ときわめて高い値段を付けることを予定しているという。現状では、卸や小売など市場からの反応は上々のようだ。今年度の「新之助」は生産量が約6000トンしかないということもあり、県としては早期に市場から品物がなくなると予想している。商品が市場から早々となくなる中でどのように認知度を上げていくのか、県のPR戦略はキメの細かい舵取りが必要になりそうだ。

9月13日に新潟伊勢丹で行われた米山隆一新潟県知事による「新之助」トップセールスの様子(写真:新潟県農林水産部農業総務課)

将来の“こめどころ”を支える多品種生産

 さて、新潟県の米戦略は、実のところ、「コシヒカリ」と「新之助」の二本立てというわけではない。これまでの二番手米だった「こしいぶき」という人気銘柄と、さらに低価格の「ゆきん子舞」という品種を持っているので実質、四本立てということになる※。これに加えて、新潟県ではもう一つの選択肢を用意している。

※「コシヒカリ」は、「コシヒカリ」と「コシヒカリBL」の2系統があるので、実際には五本立て。

 それが、業務用の多収米という選択肢だ。業務用米と言ってもひと昔前のまずい米のイメージではない。「コシヒカリ」にも迫るような食味を備えた上に、単位面積当たりの収量が多い品種が続々と出てきているのだ。

 実際に、中食・外食産業向けに、旨くて安い国産米のニーズは強い。新潟県に対しても「コシヒカリ」より安くて美味しいお米を求める声はかねてから多く、最近では業務用米のニーズが高まってきているという。新潟県ではこうしたニーズに応えるために、収量の多い業務用米の生産を強く奨励している。

 つまり、ハイグレードの米として「コシヒカリ」と「新之助」の二枚看板を持ち、それより下位ブランドとして「こしいぶき」「ゆきん子舞」、そのほかに収量の多い品種を中食・外食向けの業務用米として生産することを奨励している。多品種生産を進めることで生産者のリスク分散と収益性確保を狙うというのが新潟県が描く今後の米戦略だ。

 例えば、上越市では、食味が良く、収量が高い「つきあかり」という新しい品種の作付けが進んでいる。この品種は、「コシヒカリ」より早く収穫できる早生(わせ)と呼ばれる新品種で、ほぼ同時期に県内の中山間地域で作られている「あきたこまち」よりも10%ほど収量が多い。このほかにも「あきだわら」という良食味と10a(アール)当たり740キロを超える超多収性を兼ね備えた品種の作付けも奨励している。

 業務用米は、中食・外食企業など特定の顧客と契約を結び、市況変動に左右されにくい価格で決まった量を販売ができる。価格はブランド米ほど高くはないが、多収性を考えると、同じ作付け面積での売上は同等になるか、それ以上になることもある。

 しかも、米には収穫時期の早い早生(わせ)、中間的な中生(なかて)、遅い晩生(おくて)という品種がある。ちなみに「新之助」は、遅い時期にできる晩生(おくて)という品種、「コシヒカリ」は中間の時期にできる中生(なかて)だ。早生の「こしいぶき」や「つきあかり」、中生の「コシヒカリ」「あきだわら」、晩生の「新之助」のように、時期をずらしながら複数の品種を上手に組み合わせて生産すれば、田植えから施肥や防除といった管理作業、刈り取り作業などの時期を分散させて生産できる。

 生産者は労力の分散と、田植機やコンバインなどの農業機械を長期間使って稼働率を上げることができ、稲作の生産効率を上げられるのだ。同時に、市況変動のあるブランド米と顧客の決まった契約米など販売先も分散させることができ、時期をずらすことによって毎年の気象変動によるリスクも偏らないので生産者の経営安定にもつながる。

大きな意味を持つ「新之助」の初陣

 今でこそブランド米として揺るぎない地位を占めている「コシヒカリ」も、奨励品種になってから20年ほどは下積みと言われる時期があった。昭和50年代に一大ブランドになってからは盤石だが、その他のブランド米は栄枯盛衰を繰り返してきた。

 例えば、かつて「コシヒカリ」と共に二強時代を築いたササニシキは、冷害に弱いという弱点はあったにせよ、強者の地位を追われ、今では細々としか作られていない。さらにその次の時代に、「コシヒカリ」と共にビック3を構成した「あきたこまち」「ひとめぼれ」にしても、かつての勢いは失いつつある。このままいくと一般づかいの美味しいお米という位置づけになる可能性は否定できない。

 こうしたブランド米の変遷を見ると、「コシヒカリ」についても、温暖化の進行によっては、その地位は長く安泰とは言えない 。将来のエースとして「新之助」を投入し、それと並行して業務用米などを交えながら多品種生産を奨励していく新潟県の戦略は合理的であり、ある意味、必然とも言える。

 将来のエース候補「新之助」もここまでの足取りは順調だ。このまますくすくと育ち、県の目論み通り双璧の大エースになるのか……。それは、市場がどのように受け入れるか、そして新潟県がどれだけ緻密な戦略を通していけるかによるだろう。それも、ひとえにこの秋の出足如何と言ってもいい。「新之助」の秋の初陣に注目だ。