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大規模農家が抱える悩みを総合的に解決

鹿児島県の「担い手・法人サポートセンター」が成功した理由

いま日本では、農家の大規模化や法人化が急速に進んでいる。小規模な農家を中心に構成されている農協は、従来こうした動きの「抵抗勢力」と思われがちだったが、JAグループ内において8%にすぎない大規模農家・法人の組合員数が販売金額の6割を占める状況の中で、実態としてはむしろこうした変化を推進するための取り組みが全国各地で行われている。さらに、JAグループでは2016年4月までに、47都道府県すべてに「県域担い手サポートセンター」を立ち上げた。グループの総力を結集し、大規模農家・法人のニーズに応える。

(写真:浦河 祐史)

 一般にJAグループというと、「ゆりかごから墓場まで」という言葉に象徴されるように、規模の小さな地域の農家にピタリと寄り添ってきたイメージが強い。そのイメージの中では、地域農協(単位JA)の職員が足繁く農家に顔を出し、直接対話を重ねながら農家と共に地域農業を支えてきた姿が浮かぶ。また、事実そういった地域密着型の取り組みこそが農協という組織の強みとも言われてきた。

 しかし、最近になって、一般企業が他の分野から農業に参入したり、大規模農家や共同で農業を営む集落が自らを法人化して経営に当たったりする例が増えてきた。こうした法人からは、農作物の販売面や肥料・農薬の購入面という事業面での支援要請に留まらず、資金調達や経営計画など、経営コンサルティング的なニーズも出てくる。また大規模農家や共同で営農している集落からも、法人化するための経営支援などのニーズがある。

 これまでのように単位JAの職員が一人で足を運ぶだけでは、様々な課題に対応するのが難しくなってきているのだ。規模が大きいところほど、スピードやコストダウンを求める声は鋭く厳しい。

 こうした変化に対応するために、JAグループがスタートさせたのが、大規模農家や農業法人の様々なニーズにワンストップで対応する県単位の組織として「県域担い手サポートセンター」を全国的に展開していく取り組みだ。JAグループでは、2016年4月までに47都道府県すべてにこの組織を設置した。この取り組みは、今後、JAグループが総力を挙げて大規模農家や法人に対して全面的なサポートをしていく強い決意の表れといえる。

JAグループが発表した「県域担い手サポートセンター」のイメージ。(資料:JA全中提供)
JA鹿児島県中央会 担い手・法人サポートセンターを率いる桐原章センター長。(写真:浦川祐史)

 具体的には、県域担い手サポートセンターの担当者は、単位JAの職員と同行して大規模農家や法人を巡回訪問し、そのニーズをくみ上げる。それらのニーズは、サポートセンターからJAグループ内の各事業の担当者へ共有される。そして、販売・購買事業を管轄する「経済連」、金融事業を管轄する「信連」、保険事業を管轄する「共済連」などの事業分野ごとの専門家と連携して対策を練り、担い手サポートセンターと単位JAの職員から大型農家や法人に対して個別のニーズにカスタマイズされた解決策を提案する。

 既に47都道府県すべてで担い手サポートセンターが立ち上がっているが、その中で、いち早く組織化して実績を残してきたのが「JA鹿児島県中央会 担い手・法人サポートセンター」だ。今では全国の県域担い手サポートセンターのロールモデルとなっている。この組織を一から立ち上げ、複数の組織をうまく結び付けながら、成果を上げてきた桐原章センター長の元へは成功のノウハウを学ぶために全国から関係者がひっきりなしに訪れる。

いち早く成功した理由は何か

 鹿児島のサポートセンターが成功した理由はいくつかあるが、その中でも特に大きなものは、周りにある複数の組織の間にあった“壁”を取り払い、“横と縦の連携”を進めたことだろう。

 そもそもJAグループの組織は、主な全国組織として、4つの分野の事業を行う組織が存在する。

 (1)JAグループ全体の利害を代表・調整する「全国農業協同組合中央会」(JA全中)、(2)農畜産物の販売や生産資材の供給などの経済事業を行う「全国農業協同組合連合会」(JA全農)、(3)貯金やローンなど信用事業(金融事業)を行う「農林中央金庫」(農林中金)、(4)共済事業(保険事業)を行う「JA共済連」だ。

 これらの全国組織に対応する形で地域の実情に合わせた対応を行う都道府県単位の組織があり、県ごとに異なる様々な条件によって、全国組織の地域支部や県独自の県域組織が存在する。さらに、市町村などの単位で地域のJA(単位JA)がある。

JAグループの組織図。(資料:JA全農のサイトより)
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 鹿児島県には、JA鹿児島県中央会やJA鹿児島県経済連など複数の「県連」と言われる組織があり、それらの組織と県内にある15の単位JAをまとめて「JAグループ鹿児島」として展開している。個々の組合員はそれぞれの地域の単位JAに所属している。

 「JA鹿児島県中央会 担い手・法人サポートセンター」という正式名称が示す通り、このセンターは鹿児島県の中央会に属する1つの部だが、2009年3月に5つの県連のうち、厚生連を除く4連の共通部署として設置された経緯がある。県連から人員を集め、サポートセンターで現場の業務を経験してから県連に戻るという人事交流をするようにした。その結果、サポートセンターに集まってきた現場のニーズは県連の各部門にもスムーズに共有されるようになった。いわば“横の連携”が実現したわけだ。

 単位JAとの“縦の連携”の方は、単位JAとの間で「共同取組同意書」という、誓約書のような書類を取り交わすことで造り上げた。桐原センター長が最も重視するツールがこの共同取組同意書だ。

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単位JAと取り交わす「共同取組同意書」。(資料:JA鹿児島県中央会 担い手・法人サポートセンター提供)

 共同取組同意書は、単位JAとの間で事業横断的な体制の整備や訪問先のリストアップ、訪問先の経営概況が分かる台帳整備など、様々な連携を図るもの。訪問先のニーズに実際に対応できるよう実に細かいところまで規定する。この書類は単位JAの理事会などで確認されたうえで取り交わす。「この同意書に書かれたことが守れない単位JAには同意書を返してもらうこともある」(桐原氏)というくらい、厳しく遵守が求められる。なぜならば、大規模化や法人化するほどの体制ができている農家は、ニーズと異なる提案をしたり、結果が出なければ、JAから簡単に離れて二度と戻ってこないことも懸念されるため、綿密で迅速な情報共有と解決策の発案をする必要があるからだ。

 さらに、JAグループ鹿児島の総意として、サポートセンターとは別に、信連・共済連・経済連において融資や営農などに関する専任の法人担当者を設置。法人の要請に素早く対応できるバックアップ体制を構築できたことも成功のカギとなった。