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大規模農家が抱える悩みを総合的に解決

鹿児島県の「担い手・法人サポートセンター」が成功した理由

ニーズを着実にすくい上げる

 こうした体制が整う中で、サポートセンターでは、「声を聴く運動」を展開し、法人や大規模農家のニーズを緻密に聴き取っていった。この運動を展開するに際して、巡回する担当者に契約目標のようなノルマはいっさい持たせなかった。どこに隠れているか分からないニーズをまんべんなくすくい上げるためだ。

 「ノルマを課すと、ノルマを達成しやすいところばかりを選ぶようになってしまいます。それではいけない。旬のテーマを持って巡回させるようにしたのがうまくいった一番の理由かもしれません」と桐原氏は語る。

 聴き取りが表面的なものにならないように、巡回担当者が提出する報告書にも緻密さを徹底的に求めた。巡回訪問によってニーズの裏に潜む事情を探り当てられれば、次の訪問時には具体的な提案ができる。

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巡回した担当者が提出する「巡回報告書」。(資料:JA鹿児島県中央会 担い手・法人サポートセンター提供)

 さらに「48時間以内の回答」をセンターのモットーに掲げ、迅速な対応を目指した。とにかくほったらかしにしないという考えだ。担当者の名刺の裏にも「48時間以内のご回答を目指します」と大きく刷り込んだ。

サポートセンター職員の名刺の裏には48時間以内の対応を約束する文言が印刷されている。 (資料:JA鹿児島県中央会 担い手・法人サポートセンター提供)

 このようにして、法人や大規模農家のニーズを調べた結果、意外なことが分かった。桐原氏は、このニーズ調査の前は、「1円でも高く売りたい」という農産物の販売や、「1円でも安く仕入れたい」という肥料・農薬の購買に関するニーズが多いと考えていた。ところが、蓋を開けてみると「経営支援」や「営農指導」に対するニーズが多かったのだ。

 特に意外だったのが、営農指導についてのニーズの高さだ。大規模農家はもちろん法人化した農家の事業主も、もともと農作物を作る腕に自信のある人が多い。ところが規模が大きくなるにつれて、事業主自身の時間は販売や仕入れ、コスト・労務の管理、融資などの問題に取られてしまい、肝心の農作業は家族や従業員に任せがちになる。その結果、作物の品質や収量は事業主の想定から少しずつ離れていく。サポートセンターに対して、家族や従業員に営農指導をして欲しいという要望が出てくる背景にはこうした事情があったのだ。

意外にも営農指導を求める声が強かった。(資料:JA鹿児島県中央会 担い手・法人サポートセンター提供)
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自分の“成績”がひと目で分かる経営分析システム

 もう一つの重要なニーズが経営支援だ。自身の経営ノウハウが独善的になっていないかという大規模農家や法人の不安に応えるため、サポートセンターでは経営コンサルティング機能を強化した。その柱の一つになっているのが組合員の農業経営の状況がひと目で分かる経営分析システムだ。2015年に完成した当システムでは、組合員の農業経営に関する“成績表”を出すことができ、組合員ごとに毎月の販売金額や収量、10a当たりの出荷数量と平均単価などが表とグラフでWeb上に表示される。同様の品目を生産する部会の仲間の中で自分が何番目かも分かる。

 自分の農業経営がどれだけうまくいっているかが数値化され、年間の損益や生産・販売の実績推移についてもビジュアル化される――。ある一定規模の企業であれば、いまどき当たり前かもしれないが、農業経営の現場ではそれだけのシステムを自前で持っているところは少ない。JAグループから毎月こうした経営分析指標が手に入るなら、こんなありがたいことはない。

 サポートセンターと単位JAの職員は巡回の際に、この分析シートを活用する。その場で経営分析に裏打ちされた対策を提案できれば話は早い。経営者もすぐ次の手が打てる。

様々な経営指標がひと目で分かるようになっている分析シート。(資料:JA鹿児島県中央会 担い手・法人サポートセンター提供)
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JAグループに対しては「総合力」に期待

 サポートセンターがくみ上げた営農支援のニーズに対して、JAグループ鹿児島の総力を結集してソリューションを提供する取り組みは、県下に徐々に浸透していった。

 2010年(平成21年)の組織立ち上げ以降、約130の定例訪問先に対して、サポートセンター担当者と単位JAの職員が同行訪問する回数は年間600を超える。単位JA職員単独での訪問も一気に増え、今では3000回近くになろうとしている。

サポートセンターの取り組みは徐々に浸透している。 (資料:JA鹿児島県中央会 担い手・法人サポートセンター提供)

 サポートを受ける大規模農家や法人にとっても、土壌診断をベースに、生産技術や肥料・農薬などの技術的な指導や販路の提案、さらに融資の相談と、多岐に渡るサービスを利用できれば、こと農業に関する限りJAほど頼りになる存在はいない。実際に担い手サポートセンターを高く評価する人も多い。

 その一人が鹿児島県曽於郡大崎町でネギ、大根、キャベツなどを大規模に生産する農業法人「大崎農園」の代表取締役社長、山下義仁氏だ。

 この日、かねて相談していた投資案件が決まったばかりという山下社長は、「投資をして規模を拡大したりすると、気候変動を含めてどうしてもリスクが出てきます。大きな投資をするときはやはり怖いもの。そういう投資の相談をするとすぐに来てくれるのは心強い」と語る。

 もちろん、お金の面だけではない。JAの持つ総合力への期待も含めての信頼だ。

 農業経営という面では、販路の拡大をしたいときにはJAが持つ様々なルートを紹介してもらえる点は大きい。「JAには売り先を探してもらえます。出荷の数量が少ないものや新規の売り先などは物流で行き詰まることがよくありますが、JAから売り先を斡旋してもらえれば出荷できる場合が多々あります」と山下氏は語る。実際に、大崎農園ではJA経由で「イオン」や会員制倉庫型店の「コストコ」といった大手小売への販売チャネルも開けたという。

 さらに、土壌分析や肥料、残留農薬のチェックといった農業技術面でキメの細かい情報交換や相談ができることもJAと付き合う大きな魅力だ。大規模農家や法人にとっては品質面と収量は農業経営の要とも言えるところ。技術的なノウハウを持っているところにとってもJAの力が借りられるのであればそれはありがたい。

 「残留農薬のチェックや土壌診断などもお願いしています。実際に土壌分析などはすごいサービスだと思います。そのうえ肥料についても、先日、うちの畑に合いそうな肥料のサンプルを自ら持ってきてくれました。実際に試してみたところ、まだ生育中だけど、かなりいいと思っている。われわれ以外にも他にケアしなくてはいけない人はたくさんいるはずで、他の組織でここまで動いてもらえるところはありません。そこはJAさんの魅力。当然、コストがかかる部分もありますが、その分還元してもらっていると感じています」と山下氏は語る。

「大崎農園」代表取締役の山下義仁氏。取材当日、JAが窓口となる大型融資案件の相談がなされた。(写真:浦川祐史)

 このように、鹿児島の担い手サポートセンターは県下の法人や大規模農家に対して、着実に成果を上げている。センター設立以来の法人化支援数も年々増えており、累計で34件になった。

 では、ほかの地域の担い手サポートセンターでも同じように、成功できるだろうか。

 都道府県によって抱えている事情は異なるため、鹿児島の成功ノウハウをそのまま取り込んだからと言って、同じような成功が手に入るとは限らない。

 それでも、桐原氏は「それぞれの地域のJA・サポートセンターには、地域の農業を振興させたいという志を持った人が必ずいる。やり方さえ分かれば必ず成功できるはずです」と言い切る。鹿児島の成功事例の中には具体的なノウハウが詰まっている。取り込むべきところを取り込み、あとはそれぞれの地域の事情に合わせて変えていけば成功の道筋は見えてくるはずだ。あとは各地の担い手サポートセンターを担当するJAマンたちの志の強さにかかっている。

鹿児島県からは、いち早くスタートした農業の理想郷作り。
夢の実現に掛けた農業人の熱い思いに密着!