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JA・6次化ファンドを活用し、地元の雇用にも貢献

出資比率は40%を企業、10%をJA全農、50%がJA・6次化ファンド

農業活性のキーワードに6次産業化がある。震災後の復興に取り組む福島県川俣町では雇用機会創出を狙い、企業誘致を呼びかけた。その際活用されたのがJA・6次化ファンドだ。東日本に野菜苗の生産・販売拠点設置を検討していたベルグアースと、雇用機会創出を期待する川俣町の思いが一致した。設立された新会社は「ベルグ福島」だ。

 東日本大震災から丸6年たった。2016年12月に復興庁がまとめた復興状況によれば、営農再開可能面積は83%(2016年9月末)、水産加工業の施設の再開は88%(同6月末)。福島県全体の避難者はピーク時の16.4万人から半減したとはいえ、未だ8.3万人が避難している。福島県にとっても県下の自治体にとっても、復興を一段加速するためには、企業を誘致し雇用機会を創出しなくてはならない。

 一方、愛媛県宇和島市に本社を置くベルグアースは、岩手県、茨城県、長野県に直営農場を保有するものの、さらに大規模拠点の設置を計画していた。そこで福島駅から車で約30分と比較的近距離で、道路交通も便利な川俣町の企業誘致を受け、進出を決めた。2017年3月に解除されるものの、川俣町も一部地域が福島原発事故の避難指示区域となっていた。それだけに、企業誘致は40年ぶりという話題性とともにメディアに取り上げられた。

 ベルグ福島の設立では、資本金および資本準備金を合わせた2億5000万円のうち40%をベルグアースが、10%をJA全農が出資している。そして残りの50%の1億2500万円の資本は、系統組織と農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の出資による「農林水産業協同組合ファンド(通称:JA・6次化ファンド)」が出資した。ベルグアースのような6次産業化に取り組む農業・水産業・林業事業体や、JA・パートナー企業等が構成する事業体に対し、事業計画の策定支援をはじめ、資金面・事業面・経営面での多様なサポートを行い、2013年5月の設立以降、ベルグ福島を含めた11件の投資を決定(平成29年2月末時点)し、全国に49ある同種のファンドのなかで最多の投資実績となっている。

東日本の野菜苗の生産拠点となるベルグ福島の閉鎖型テラス

 また、このJA・6次化ファンドに出資しているA-FIVEは、農林漁業者の6次産業化を支援する唯一のファンドとして2013年1月に設立された。資本金は318億円で、このうち政府が300億円、18億円を民間企業が出資しており農林中央金庫も3億円を出資している。

 なお、当施設で使用する段ボール等の一部資材は株主であるJA全農から調達しており、販売面でもJA全農の持つ販路を活用する等、系統事業とも連携しながら、福島県における農林水産業における復興支援や成長産業化への取り組みを展開している。

事業開始初年度は計画の90%以上を達成

 ベルグ福島は、川俣町が企業誘致のために造成した土地2haを借りて、大屋根型連棟ハウスや植物工場など10連棟の設備を建設した。生産を開始したのが2015年12月で、本格的な生産は2016年3月から。そして2016年10月の決算期までに野菜苗280万本を生産した。

ベルグ福島の大屋根型連棟ハウス
ベルグ福島 取締役 農場長
豆塚 輝行 氏

 ベルグ福島の豆塚輝行・取締役農場長は、「造成が遅れたことでフル稼働とはなっていませんが、それでも計画の90%以上は達成できました」と初年度としては十分満足できる結果に手応えを感じている。ちなみに豆塚氏は、ベルグアースからベルグ福島にやってきた転籍組だ。「新しいことをやりたかったので、新会社設立を知って希望しました」のだという。九州出身で愛媛の会社に就職した豆塚氏にとって、「冬はやはり寒いですね。でも人の温かさがここの良さです」と話す。

 ベルグ福島の社員は現在32人。このうち28人が県内出身者だ。川俣町の住人は20人を占める。また繁忙期には30人から40人の期間雇用者を雇う。それだけの数を雇える企業は、この地域には少ない。それだけに、「ものすごく期待されていると感じています」と豆塚氏は語る。

全国有数の産地に密着した生産品目

 ベルグ福島ではキュウリやトマト、メロン、スイカなどの野菜苗を生産する。福島県はキュウリの生産では全国3位、トマトは全国7位といずれもトップ10に入る一大産地だ。つまり、ベルグ福島で生産する野菜苗は、産地密着型ということになる。出荷先はJAや苗の販売業者だが、地元の農家が見学に訪れるなど、地元との連携はすでに深い。

 野菜苗は種を播いて発芽させる一次育苗と、一次育苗された野菜苗を接ぎ木して他の生産拠点で成長させる二次育苗に分かれる。一次育苗はハウス栽培と「苗テラス」と呼ぶ閉鎖型の苗生産システム、いわゆる植物工場の両方を使用する。これは注文内容、品目または育苗期間によって使い分ける。苗テラスを使えば、成長の早いキュウリなどは最短で1週間で出荷できるという。

キュウリの閉鎖型の苗テラス (写真:ベルグ福島)

 広い敷地には、10連棟(同一の規格・寸法の棟を複数つなげた形式の施設)の形でハウスや植物工場が並んでいる。連棟にしている理由は、「病害虫を持ち込まないように、なるべく外部からの人の出入りを少なくしたいから」と豆塚氏は解説する。出入り口には消毒液を浸したマットが置かれ、エアシャワーも備えている。

手のかかる育苗をアウトソーシングするという考え

 ベルグ福島が東日本の拠点となっている理由は、ここで一次育苗し接ぎ木した野菜苗を、東日本にある他拠点の二次育苗用として供給しているからだ。閉鎖型の育苗棟を持つのは、本社工場(宇和島市)とベルグ福島だけ。そのため野菜苗の植え付けシーズンには、地元の人を期間雇用者として雇い入れ、人海戦術で接ぎ木作業を行う。

 接ぎ木作業は非常に神経を使う。小さな苗なので繊細な作業が求められる。ベルグ福島の設立時はもちろん、新しい期間雇用者を雇うたびに研修を実施する。慣れは必要だが、「早い人なら1週間でできるようになります」と豆塚氏は言う。

接ぎ木の作業。ベルグ福島の野菜苗生産のキモになる重要な作業 (写真:ベルグ福島)

 農業の担い手の高齢化にともなって、農業就業人口の減少が続く。野菜苗の事業について豆塚氏は、「育苗は手がかかる仕事。高齢化ということもあり、育苗をアウトソーシングするのが一般的になりました。これによって、生産者様は農作物の収穫という部分に力を入れていただけるということになります。これからも野菜苗の需要は拡大していくと思います」と語る。

 ベルグ福島の敷地はまだ余裕があるため、現在拡張計画を検討している段階だ。「増設は設立当初から織り込み済みです。前期は280万本出荷しましたが、稼働から10年後の2026年には野菜苗1000万本出荷で10億円の売上高を目指しています」と話す。そうなるとさらに地域での雇用を増やす必要も出てくるだろう。すでに地元の高校からは毎年2~3人規模で採用する。高校卒業後の就職先としての期待も大きい。「地元の人から期待されていると感じるし、その地元の期待にこたえていきたい」と豆塚氏は真剣な表情を見せた。