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明治から続く玉ねぎ産地が消滅の危機

浜松のJAが打った起死回生の一手

高齢化や周辺の都市化に伴う耕作放棄地の拡大で、“産地消滅”の危機に瀕している生産地は少なくない。こうした危機に果敢に挑む静岡県西部の「JAとぴあ浜松(代表理事理事長 森下安則)」は、管内にある「日本一の早出し玉ねぎ」の産地、篠原地区の維持を図るため、自前の農業生産法人「とぴあふぁー夢(代表取締役社長 鈴木和俊)」を設立。耕作放棄地を復活させ、産地消滅のピンチをしのいだ。

「日本一の早出し玉ねぎ」の産地・静岡県浜松市篠原地区で作られている玉ねぎ(写真:JAとぴあ浜松提供)

 “産地消滅”――。少し刺激が強い言い方かもしれないが、農作物の名産地がおしなべて直面している危機だ。もちろん、地域によっては先手先手と対策を打ち、こうした危機を回避しながら産地を維持、拡大しているところもある。しかし、対応できていない地域の方が圧倒的に多い。

 もし、ある農産物について、市場で一定の評価を得ている産地が十分に供給できなくなったらどうなるか?

 スーパーなど、小売の現場では商品の棚を空けるわけにはいかないので、その年は別の地域から調達してしのぐことになるだろう。翌年はまだ小売側も期待して待っていてくれるかもしれない。しかし、そこでも供給がままならないようなら、それ以降は別の産地に取って代わられる。こうして産地の弱体化は一気に進む。さらに天候不順が重なろうものなら、産地消滅の危機は途端に“すぐそこにある”現実となってしまう。

 産地の再生に積極的に取り組むJAの一つが、静岡県西部にある「とぴあ浜松農業協同組合」(以下、JAとぴあ浜松)だ。同JAでは、玉ねぎの名産地を守るために「とぴあふぁー夢」というJA出資型の農業生産法人を設立。耕作放棄地や遊休農地を再生することによって、玉ねぎ産地消滅の危機への一定の歯止めに成功した。同JAの取り組みは関係者から高く評価され、昨年(2016年)には、全国農業会議所が主催する「耕作放棄地発生防止・解消活動表彰事業」の「全国農業会議所会長特別賞」を受賞した。JAが自前で農業生産法人を設立して産地再生を進める、一つのロールモデルとなっている。

「日本一の早出し玉ねぎ」を守る

 浜松市と湖西市の二市にまたがるJAとぴあ浜松は、販売高・約240億円(2016年度)と全国でもトップクラスの金額を誇る大規模JAだ。全販売高のうち約半分の122億円が野菜で、その中でも玉ねぎの販売高は12億円とJAとぴあ浜松の中でも4番目に金額の多い作物となっている。特に、浜松市南端に位置する篠原地区は、玉ねぎ栽培に適した砂地と温暖な気候に恵まれており、明治時代から玉ねぎ生産が盛んな土地だ。毎年、全国に先駆けて年明けから玉ねぎを出荷する「日本一の早出し玉ねぎ」の産地として知られる。

 しかし、高齢化に伴う耕作放棄地や遊休農地の増加に長年悩まされてきた。今から10年以上前には、何の対策も打たず放置すればいずれ産地が消滅してしまうというデータが提示された。1989年には、とぴあ浜松管区内と静岡県西部地域で、600ヘクタール近くあったはずの玉ねぎの作付け面積は2007年時点で、なんとほぼ4分の1の150ヘクタールにまで減ってしまっていたのだ(その後、2010年には118ヘクタールまで落ち込んだ)。

このままでは玉ねぎの作付け面積は早晩ゼロに!グラフは、とぴあ浜松管区内と静岡県西部地域における、玉ねぎの作付面積の推移(データ:JAとぴあ浜松提供)
とぴあふぁー夢 事業部長の小松義久さん(写真:佐藤久)

 とぴあふぁー夢の小松義久事業部長は、当時をこう振り返る。

 「とてもショッキングなデータでした。なんとかしなくてはいけないということで、会社を興して対策に取り組むことになりました」

 篠原地区の玉ねぎ農家の規模は、一戸当たり0.19ヘクタール前後と小さいこともこの傾向に拍車を掛けた。九州や淡路島など、他の大産地の場合は、一戸当たりの平均が5ヘクタール以上とされる。規模が大きければ機械化も進めやすく生産性も高くなる。逆に、小規模で細切れの農地だと何かと手間が増えてしまい生産性は上がらない。都市化も進んだこの地域では兼業農家も多く、高齢化と相まって耕作放棄が起こりやすい事情を抱えていた。