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出荷ができない! ニラ農業の危機を救え

自動化センター設立で産地衰退の危機を防いだ高知県・JAコスモス

「生産できても、出荷ができない」――。農作物によってはそのような事態が起こり得る。中でもニラの生産の現場では、「そぐり」という収穫後の工程を担う人たちが高齢化し、作業者の確保に困るケースが増えている。ニラ生産で日本一を誇る高知県では、この問題が数年前から表面化。高知県中央部にあるJAコスモスは、この春、そぐり作業を一部自動化するそぐり機を導入し、後工程を受け持つ「そぐり・計量結束センター」を完成させた。そぐり手の確保に悩むニラ生産者のニーズに応え、地域の基幹作物とも言えるニラ生産の危機をひとまず回避することに成功した。

高知県はニラ出荷量で全国の4分の1以上を占める日本一のニラ産地として知られているが、人手不足で生産の危機を迎えていた。(写真:佐藤久)

 生産者の高齢化や担い手不足という問題は、日本の農業を再生するために乗り越えなくてはいけない大きな壁だが、何もこれは生産現場だけに限った話ではない。農作物を商品として調整・出荷する作業工程、いわゆる“後工程”にも同じように大きな影を落としている。

 家庭菜園のようなアマチュア農業であれば、収穫までのことだけを考えれば事足りる。しかし、農業を生業とするプロの生産者にとってはそれだけではすまない。収穫後の工程、つまり、農作物を選別・計量し、箱や袋にパッケージした上で流通させるところまでを完結させなければ商品にならないし、収益にもつながらない。農業という“産業”は、栽培・収穫という前工程と、出荷・調整という後工程が2つ揃って初めて完結するものであり、生産から消費までのサプライチェーン全体で考えなければならないものなのだ。

 多くの作物で、こうした後工程に関わる人たちの高齢化や担い手不足はかなり深刻化している。出荷に必要な後工程でマンパワーを集めることができず、結果として生産量を減らしてしまっている産地も少なくない。後工程は、人集めやノウハウの共有、賃金の問題など、生産工程以上に整備が遅れているところも多く、産地が一丸となって取り組まなければ解決は難しい。当然のことながら、農業生産におけるメーンプレイヤーである生産者と農業協同組合(以下、農協と略)の緊密な連携は絶対に欠かせない必要条件になってくる。

 ここでは、出荷までの調整作業が特に難しい作物の1つであるニラ生産の現場で、生産者と農協が連携して後工程の機械化と作業場の整備に取り組み、担い手不足の問題に対して一定の成果を上げた事例を紹介する。ここから、生産者と農協の協働のあり方が見えてくるはずだ。

出荷までの調整に手間がかかるニラ生産

 後工程の改善を進めてニラ産地としての衰退に待ったをかけたのは、高知県の「コスモス農業協同組合」(JAコスモス)という農協だ。

 JAコスモスは、高知県の中央部、「奇跡の清流」として知られる仁淀川流域を管内としている農協。この区域には、佐川町、越知町、仁淀川町、いの町、日高村の5カ町村が含まれる。高知県はニラ出荷量で全国の4分の1以上を占める日本一のニラ産地として知られているが、佐川町はその中で5番目の産地として一定の存在感を示す。

高知県のニラ出荷量は日本一。全国の4分の1以上を占めている
(農林水産省、「平成27年産野菜生産出荷統計」より、都道府県ごとのニラ出荷量)
高知県内の市町村別ニラ生産量。JAコスモス管内では佐川町586トン、越知町33トン、仁淀川町18トンで合計637トン。高知県内でも五番目の産地となっている
(JAコスモス提供:『平成26年度市町村別野菜生産量 農業振興センター調べ推計値』より)

 JAコスモスのニラ出荷量は年間で600トン前後、販売金額ベースで見ると平成29年度(2017年度:2016年9月1日~2017年8月31日)は約4億1000万円になる。地域の野菜販売合計額が約16億円なので、その4分の1がニラ。ニラはこの地域にとって大切な基幹作物なのだ。

 そして、基幹作物であるニラ生産の未来をゆるがしかねない問題としてここ数年深刻化しつつあったのが、後工程における高齢化と担い手不足の問題だ。

 ニラの葉は1つの株に9枚ほど付いた形で収穫されるが、外側の葉は固かったり、枯れかかっていたりして商品価値がないものがある。出荷する際には外側の葉を取り除く「そぐり」という作業が必要になる。そぐり作業をしたきれいな状態のものだけを1つの束にして袋状のフィルムに入れて初めて出荷できるものになる。

 一般に、ニラの生産者は、その規模に応じて、このそぐり作業を家族で行ったり、人を雇用して行ったりする。生産量が少なければそれほど問題にはならないが、一定以上の規模で生産しようとすると、そぐりから計量結束までの作業は、人手に頼る必要が出てくる。

 しかし、佐川町でこのそぐり作業をする“そぐり手”の人たちが高齢化し、なかなか人手が集まらないという問題がここ数年、大きな問題として浮かび上がっていた。

JAコスモス ニラ生産部の田村和弘部長。この地域のニラ生産者のリーダーでもあり、若い担い手を育てる高知県 指導農業士でもある(写真:佐藤久)

 JAコスモス ニラ生産部(JAコスモスに所属するニラ生産者の生産部会)の部長であり、佐川町のニラ生産者のリーダーでもある田村和弘さんによれば、ここ数年、若い生産者と話をする中でそういう声が次々に上がってきたと言う。高知県の指導農業士として若い担い手を育成する立場にもある田村さんは、次のように語る。

 「実際、自分としても10年以上前から慢性的にそぐり手さんが不足する状態が続いて、ずっと頭を悩ませてきた問題です。これから若い人に同じ問題が降りかかるのかと考えたら本当にやばいと……。あと5年もしたらそぐり手さんが誰もいなくなってもおかしくないほど高齢化が進んでいる。そうなってからでは遅い。ここで手を打たなければ、現状維持すらできず、ニラ生産自体をやめるところも出てきてしまう」

 佐川町を中心とするこの地域がニラ産地として今後存続していけるかどうかの大きな危機だと捉えていたのだ。

ニラの生産・出荷工程の中で、そぐり以降の出荷調整作業、つまり、後工程にいちばん時間がかかる

 JAコスモス側でも、田村さんと緊密に連携しながら他の生産者たちとも情報を共有し、同様の認識を持つようになっていた。JAコスモス営農販売部 営農指導課の平野辰彦さんは、そぐり手がいなくなることでニラ生産の現場にどのような支障が出てくるのかを具体的に説明してくれた。

 「そぐり手さんがいなくなると、収穫後の作業ができないから、結局、出荷できません。だから、そぐり作業に合わせて収穫を遅らせることになってしまう。そうすると収穫適期がずれてしまい、病害虫が発生しやすくなったり、ニラ自体の品質低下にもつながったりします。こうなると出荷できないニラがどんどん増えてくる。いわゆる刈り捨てと言って、廃棄するしかなくなってしまうんです。結果、農家の出荷量は落ちていき、当然、規模拡大もできなくなります」