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異例のスピードでブランド化した「いもジェンヌ」

JA新潟みらいが、商・工・官・学と連携して販売1億円超に

いま注目を集めている「いもジェンヌ」というブランドさつまいもがある。JA新潟みらいが販売する地域ブランドだが、消費者と生産者両方から熱い視線を浴びている。生産者とJA新潟みらいが、新潟県、新潟市、地域の商工業者、新潟大学とがっちりスクラムを組んでブランド化に成功した。今年度、生いもの出荷額だけでも1億円を超えることが確実。一部県外にも出荷が始まっており、全国ブランドとなる一歩手前のところにまで定着している。

「いもジェンヌ」のペーストを使ったスイーツ。開発の当初からブランド化に関わってきた菓子舗「田文」の焼き菓子(写真:佐藤久)

 ビジネスの現場における大きなテーマの1つがブランディングだ。どんなジャンルであっても、ブランドの立ち上げやその維持は容易なものではない。農業の分野でもそれは同じこと。気候や土壌、作り手によって品質がバラつく農作物を1つのブランドに育て上げ、生産・供給体制を維持していく苦労は並大抵のものではない。いま日本の各地で生き残っているブランド農産物はどれもみな膨大な試行錯誤を積み重ねながら、長い試練をくぐり抜け、その価値を認められてきたものばかりだ。

 そんな中、まったくのゼロベースからスタートし、農産物としては異例のスピードで新ブランドを立ち上げた地域がある。対岸に佐渡島を臨む新潟市西区がその地域だ。海沿いに新潟砂丘が広がるこの地域は、“米どころ”新潟県の中では珍しく園芸作物を中心としている。スイカや加工用の大根の産地であり、古くから葉たばこの生産でも知られてきた。

 この地域で生まれたブランドの名は「いもジェンヌ」という。生地がしっとりとして甘さに定評のある「紅はるか」という品種のさつまいもだ。西区の中でも主に赤塚地区の砂丘地で生産されている。

袋に詰めた「いもジェンヌ」。甘く生地がしっとりしたさつまいもで、品種は紅はるか(写真:佐藤久)

とんとん拍子で増える生産

 平成23年(2011年)に販売が始まった「いもジェンヌ」の名は、今では新潟市を中心に県内にも広がりつつある。まだ新潟市を中心とした地域限定ブランドではあるものの、最近では、一部の流通ルートで県外にも出荷され始めた。10年ほど前に取り組みが始まってから、作付け面積と販売高はとんとん拍子で増え続けている。いまはブランドとして“全国区”になる一歩手前の段階、大きな可能性を秘めた期待の大型新人と言ってよいだろう。

 この「いもジェンヌ」、注目しているのは消費者だけではない。全国の農業関係者からも熱い視線を集めている。

 農業関係者が「いもジェンヌ」に注目するのは、そのブランド化に際して、農・商・工・官・学が一丸となって連携して組織的にブランディングに取り組んだことによる。生産者と農業協同組合(JA)が作り手の立場だけで孤軍奮闘するのではなく、市や県の関係部署、近隣の商工業者、さらに大学までが加わってプロジェクトを組んだことが関係者の間で高く評価されているのだ。

「いもジェンヌ」ブランド立ち上げの経緯(資料:新潟県新潟農業普及指導センター、『新潟砂丘さつまいも「いもジェンヌ」プロジェクトの取組』より引用、作成)
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葉たばこの置き換えから始まった

 「いもジェンヌ」は、新潟市西区の特産品だった葉たばこの「廃作」問題から生まれた転作作物という側面も持っている。西区を代表する産物だった葉たばこを置き換える形で生まれた新しい特産品が「いもジェンヌ」であり、産地の“再生と復活”を意味する作物でもある。

 役割を終えようとしている農産物の転作に頭を悩ませている地域は、日本国内に山ほどある。かつては特産だったものが市場での力を失ったり、担い手が高齢化して生産できなくなったりと理由は様々だ。こうしたものを、もっと力のある作物に置き換えることで、農地の荒廃を防ぎ、農業者と地域の再生を同時に実現できる可能性がある。新規作物への転作による再生は今後の日本の農業を活性化させていくためには欠かせない要件だ。「いもジェンヌ」のブランド化は、新規作物への転作による再生のロールモデルでもある。

 たばこの原料となる国内の葉たばこは、たばこ事業法によって全量を日本たばこ産業(JT)が買い取ることを義務付けられている。葉たばこの生産はJTと生産者との耕作契約によって行われていて、買い取りの価格は審議会制度によって生産前に決まる。生産者側からすれば、市場がある限りは作る前に売上が計算できるありがたい作物と言える。

 しかし一方で、今後市場の縮小に歯止めがかかる可能性はまずない。JTも2004年と2012年の2回、大規模な廃作の募集を行ってきた。こうした流れの中、葉たばこ産地は次の一手を考えなくてはならない状況に追いやられている。転作問題は、国内の葉たばこ産地すべてが共有する大きな問題なのだ。

 新潟市西区の生産者と地域の農業協同組合である新潟みらい農業協同組合(JA新潟みらい)の関係者も、以前から生産者の高齢化と葉たばこの転作問題に頭を悩ませてきた。葉たばこと並ぶ特産物である加工用大根は重量のある作物で、農作業は高齢化が進むとかなりきついものになる。いくつかの複合的な要因が折り重なって、新しい転作作物の検討が進んでいた。

 生産者を中心にさつまいもの試作が始まったのが平成19年(2007年)のこと。JA側で「いもジェンヌ」の立ち上げを進め、現在ではその6次加工品の生産・販売を担当するJA新潟みらい 営農経済部 西グリーンセンターの古俣明広さんは、「最初の取り組みは平成19年です。生産者のグループが1反ほどですが、さつまいもができるかどうかを試してみたところ非常にいいものができることがわかりました」と語る。

 「いもジェンヌ」の代表的な生産者であり、JA新潟みらいのかんしょ部会の部会長を務める小竹光浩さんも当時の経緯を振り返る。「まだ葉たばこが廃作にはなっていませんでしたが、当時私の両親が60歳を過ぎて、重量作物の加工用大根の農作業が大変になっていたことがあり、さつまいもを検討していました」

右:「いもジェンヌ」のブランド化に当初から取り組み、現在は6次産業化を担当するJA新潟みらい 営農経済部 西グリーンセンターの古俣明広さん(写真:佐藤久)
左:「いもジェンヌ」生産者のリーダー的存在の小竹光浩さん。かんしょ部会の部会長を務める。自身も1ヘクタールほどの「いもジェンヌ」を生産する。1.5ヘクタールほどまでは拡大したいと考えている(写真:佐藤久)