ヨーロッパ野菜の地産地消で“さいたま”を活性化

地元レストランと若手農家の挑戦を下支えするJA南彩

ヨーロッパ野菜で、“さいたま”を盛り上げよう――。そんな思いから2013年にスタートした「さいたまヨーロッパ野菜研究会」がいま、全国から注目を集めている。これまで高価な輸入品に頼っていたヨーロッパ原産の野菜を、さいたま市内で栽培し、地元のイタリアンやフレンチのレストランに新鮮な状態で供給するという地産地消の新しい取り組みだ。「本場のおいしい野菜を使って、本物の味を提供したい」というシェフの思いと若手農家グループの前向きな挑戦を、地元JAが後押しして実を結んだ事例を紹介する。
小澤氏の畑
カーボロ・ネロなどヨーロッパ野菜が育つ小澤祥記氏の畑。小澤氏は岩槻地区の農家の息子が集まる団体のリーダーを務めていた経緯でさいたまヨーロッパ野菜研究会の生産者リーダーも務め、2016年4月には農事組合法人を立ち上げた(写真:佐藤久)
ラディッキオ、フィノッキオ、カーボロ・ネロなど
ラディッキオ、フィノッキオ、カーボロ・ネロなど、さいたまヨーロッパ野菜研究会では年間、約60品目の野菜を生産している(写真:さいたまヨーロッパ野菜研究会)

 民家と民家の間に田畑が広がる、さいたま市岩槻区。「さいたまヨーロッパ野菜研究会」生産者リーダーで「農事組合法人FENNEL」代表理事の小澤祥記氏の畑は、長ねぎや白菜を栽培する畑が並ぶ一画にあった。にぎわう浦和駅から車で15分ほど。小澤氏が「僕らの子どもの頃から全然変わっていない」と笑うのどかな風景の中に、見慣れない野菜が育っていた。

 切ると白地に赤の渦巻き模様が出る、ビーツの一種「ゴルゴ」、スティック状のカリフラワー「カリフローレ」、葉の根元にある白い膨らみを食べる「フィノッキオ」、結球しない黒キャベツ「カーボロ・ネロ」……。小澤氏をはじめとする生産者メンバー11人がそれぞれの畑で作るヨーロッパ原産の野菜は年間60種類にも上る。これだけの規模でまとまってヨーロッパ野菜を出荷している場所は、全国的にも例がないという。

日本で作る高品質なヨーロッパ野菜を目指し試行錯誤

 ナイフとフォークをデザインしたロゴマークが象徴するように、さいたまヨーロッパ野菜研究会が目指すのは農薬の使用を最小限にした安心・安全で「レストランが使いやすい」サイズ・規格の高品質な野菜だ。研究会のメンバーであるトキタ種苗(本社・さいたま市)が日本向けに品種改良した種を使用しているが、ヨーロッパとは気候が異なるうえ、栽培ノウハウがほとんどない野菜も多く、発足当初の生産のハードルは高かった。2013年4月の発足時の生産者メンバーはわずか4人。小澤氏は「最初の1、2年は試行錯誤の連続で、まず僕らが栽培できるかどうかが大きな課題でした」と当時を振り返る。

 勉強会を毎月開催し、メンバーの畑を行き来して情報交換しながら、個々の畑に適した野菜を探っていった。1年目の売り上げは4人で100万円。全く採算は取れなかったが、「同じ野菜なのにどうして作れないんだ」という悔しさと意地で挑戦し続けた。それでも、なんとか出荷できたヨーロッパ野菜がレストランのシェフに喜んでもらえたことが励みになったという。メンバーの中には、行き詰まっていた小松菜栽培からヨーロッパ野菜栽培に切り替えて、1年目で収穫したすべてを売り切った気概あふれる者もいた。

 注文があった量だけを収穫して出荷するため、ヨーロッパ野菜は通常の作物よりも手間暇がかかる。そのうえ、1~3カ月の間は毎日同じ規格の新鮮な野菜がほしいというレストランの注文に応えるために、種まきの時期をずらして複数回まく工夫も必要となる。小澤氏は2016年、JA南彩の協力を得て農林水産省「埼玉県産地パワーアップ事業」の支援を受け、ビニールハウスを導入。寒い時期や春先にもある程度安定的に出荷できるようになった。さいたまヨーロッパ野菜研究会のメンバーは、小松菜などの生産もしているJA南彩の組合員だ。「今後予定されている補助事業など、できるだけ組合員の皆さんに役立つ情報を提供することもJAの重要な仕事のひとつだと考えています」と岩槻地区を担当するJA南彩営農支援課の小松康二係長は話す。

小澤氏のビニールハウス
寒い時期の需要にも応えられるよう建設した小澤氏のビニールハウス。補助事業の受託には地元JAの協力が欠かせない。左からJA南彩営農支援課の藤村直史課長、岩槻地区担当の小松康二・同係長、小澤氏(写真:佐藤久)

 栽培当初はレストランのシェフから「本場のものと香りが違う」と言われたこともあった。しかし、今ではイタリア・フィレンツェで最も歴史ある料理学校からも「地元産より見た目がきれいで、味も変わらない」と絶賛されるほど。売り上げも順調に伸び、2016年度は4500万円にまで増えた。取り扱うレストランはさいたま市を中心に1000軒を超え、都心や関西のレストランやホテル、結婚式場にまで広がっている。見た目にも鮮やかなヨーロッパ野菜を使った料理は、女性客にも好評だ。小澤氏は「出荷量が増えても品質を落とさないよう自分たちで基準を設け、それをクリアしたものだけを出荷することで支持いただいている部分もあります」と胸を張る。

始まりはレストランの「本場の新鮮な野菜を使いたい」という熱い思い

 そもそもヨーロッパ野菜は、気候が異なる日本ではうまく育たず、認知度が低いため市場で売れにくいこともあって、日本ではほとんど栽培されてこなかった。そのため、レストランでは高価で鮮度の落ちる輸入品を購入するか、日本産の似た野菜で代用するしかなく、本来は旬の野菜を使った大衆的な料理なのに高価格に設定せざるを得なかったり、現地のレシピ通りに提供できなかったりするジレンマがあったという。例えば、パスタなどのレシピに使われる菜の花は、本来ヨーロッパでは「チーマ・ディ・ラーパ」という西洋ナバナが使われている。また、ズッキーニの花をレシピにしたフリッターなど現地では定番の食材なのに日本では手に入りにくいため本物を提供できない料理もあった。

北会長
さいたまヨーロッパ野菜研究会を立ち上げた北康信氏。ヨーロッパ野菜の地産地消で、さいたまを盛り上げたいという熱い思いを語る(写真:佐藤久)

 さいたまヨーロッパ野菜研究会が発足したきっかけも、レストランの要望からだった。ソムリエでもあり、さいたま市を中心に県内で5店舗のイタリアンレストランを経営しているノースコーポレーション代表取締役の北康信氏は、トキタ種苗がイタリア野菜の種を売り出すプロジェクトを始めていることを知り、地元の農家に栽培しないかと働きかけた。しかし、種はあるのに栽培してくれる生産者がいないという状態が4年も続いた。「そんな見たこともない野菜に需要がどれだけあるのか」「本当に採算が取れるのか」――。一度作付けすると土も変わるため、失敗した時のリスクは大きい。農家の反応は鈍かったという。

 北氏は、さいたまヨーロッパ野菜研究会の会長も務めている。生産者探しに奔走する中、農業の仕組みは、作物を買い支える受け皿がないとうまくいかないことを痛感したと語る。

 「さいたま市は、パスタ、チーズ、ワインの1人あたりの消費額が日本トップクラスです。イタリアン、フレンチのレストランだけでも市内に200軒以上の店舗があり、1パック1000円以上するような高い輸入野菜でも購入されています。ですから、農家の方に、一定の規模で需要はあるので安心して作っていただく関係性を築くために、野菜を買い支える受け皿として研究会を発足させました」