販売額14億円を突破した秋田『白神ねぎ』の挑戦

東北発の高品質ブランドを生み出したJAあきた白神の取り組み

『園芸メガ団地』構想に露地栽培で名乗りを上げる

 高品質なネギを年間を通して安定量を流通させる。それを下支えする基盤としてJAあきた白神と生産者が一体となって取り組んだ一大プロジェクトがある。秋田県の全面的支援の下、広大な敷地で営農の機械化を進め、生産性の劇的な向上を図る「園芸メガ団地育成事業」への参画だ。

 従来ネギづくりは生産者一人で2haが限界だとされてきた。これを打破し、1経営体当たりの耕作面積拡大が可能になれば、生産量の拡大と同時に、生産者の所得拡大にも直結する。「園芸メガ団地育成事業」は秋田県の農業政策の中でも、トッププライオリティに位置するものだった。しかし、参画するには「1団地あたり1億円以上の販売額を実現させること」という条件があった。

 「露地栽培の白神ねぎで1億やる。やらせてほしい」。事業に名乗りを上げたJAあきた白神は県に掛け合った。越冬早穫りの体制を実現し、作付面積の拡大も進んでいたことから、ネギのみで1億円を達成できる目論見があった。

 「不安がなかったと言えば嘘になります。しかし、ここでチャレンジをすることが白神ねぎブランドの確立と将来の農業経営に必要だと判断しました」(佐藤氏)

難航する園芸メガ団地の用地確保に起死回生の一手

 名乗りを上げたものの、園芸メガ団地の用地確保という問題が立ちはだかる。というのも、設置要件である年間1億円の売上額を実現するためには、最低13haに及ぶ作付面積が必要だったからだ。当初は昔からネギを栽培していた主要な3集落に声をかけた。一旦は計画が進みかけたが実際に用地を地図にしてみると意見が割れ、3集落はすべて候補から落ちてしまう。

 プロジェクトメンバーが着目したのが1950年代から先駆的にネギ栽培に取り組んできた能代市南西部のエリア「轟」地域だった。当時そこでは県の基盤整備事業が先行していたが、その用地を「園芸メガ団地」に転用する交渉をしたのだ。当時の苦労を佐藤氏はこう語る。

 「基盤整備事業も園芸メガ団地もどちらも県の事業でした。基盤整備事業はもう始まっていたので、それを途中で切り替えるためにさまざまな調整が必要でした。最終的に県のトップ同士で話し合ってもらう場をもうけ、20haの用地を確保することができたのです」

 その後、轟周辺の集落でメガ団地への入植者を募ったところ、最終的に2つの法人と農業経営基盤強化促進法に基づく認定農業者、新規就農者の4経営体が参加を表明、2015年から「白神ねぎ」の栽培が始まった。

園芸メガ団地での生産について話すJAあきた白神 営農部 営農企画課の若狭智也氏
園芸メガ団地での生産について話すJAあきた白神 営農部 営農企画課の若狭智也氏

 園芸メガ団地の施設やトラクターなどの農機具はJAが所有し、各経営体は使用料を払う形になる。そうした管理業務を担っているのがJAあきた白神 営農部 営農企画課の若狭智也氏だ。若狭氏は、1か所に複数の経営体が集まる園芸メガ団地のメリットを次のように話す。

 「園芸メガ団地に参加された方々は、ベテランの篤農家からUターン組の脱サラの方まで、農業の経験や知見はさまざまでした。それでも、ベテランの方がリーダー的役割を務め、経験の浅い人たちがその手法をまねるという構造の中で、トッププレイヤーの手法を皆が共有する文化が育っていきました。例えば毎朝圃場に出る時間なども、篤農家の方はとても朝が早く、1日の作業を効率化するために朝露が乾いた直後に薬を散布するなどの工夫をしていました。それを見た他の3人も次第に朝早くから作業をするようになったというエピソードもあります」

経営面積20haの「園芸メガ団地」風景。中央に見えるのは育苗のためのビニールハウス群
経営面積20haの「園芸メガ団地」風景。中央に見えるのは育苗のためのビニールハウス群
作業場の壁には『白神ねぎ10億円達成プロジェクト』の文字が。生産者とJAの熱意が伝わってくる
作業場の壁には『白神ねぎ10億円達成プロジェクト』の文字が。生産者とJAの熱意が伝わってくる

一人で2haが限界だった作付面積が5haに

 一連の施策は、生産者にとって収益拡大に結び付いているのか?園芸メガ団地に参加した農事組合法人 轟ネオファーム 代表理事の高橋裕氏は、土木業から転身し、10年前に轟地区にUターン。「園芸メガ団地構想」に呼応し、参加した一人だ。高橋氏は参加の経緯を次のように語る。

 「私は地元秋田の出身ではありますが、それまで農業経験はなかったのです。しかし、地域の先輩方のご指導で、何とか農業をスタート。ネギ栽培を行っていましたが、事業として継続させていくには、経営基盤が極めて脆弱でした」

 そんな悩みを抱いていた矢先「園芸メガ団地に参加しないか」と誘いを受け、まさに渡りに舟という思いで参加を決意したという。

 「当初園芸メガ団地には7つの経営体が参加予定だったのです。しかしさまざまな事情で最終的に4経営体だけで13ha・1億円を目指すことになりました。1経営体で3ha強を耕作するのは相当なチャレンジでした。しかし、はっきりした数値目標があったので、互いのノウハウを共有し、皆で頑張ろうという意識が自然と生まれました」(高橋氏)

園芸メガ団地への参加経緯を語る轟ネオファーム代表理事の高橋裕氏
園芸メガ団地への参加経緯を語る轟ネオファーム代表理事の高橋裕氏

 高橋氏はメガ団地に参加する以前、一人で2haのネギ畑を耕作してきたが、「ほぼ赤字経営に近い状態だった」と振り返る。しかし、機械化が進んだメガ団地への参加を契機として、5haの作付面積を運用することができるようになり、参加翌年には黒字化を達成、その後の収益も大きく伸長した。

 「反収についても当初70万円程度だったものが現在は100万円までアップしています。最新の機械や設備が揃っていますし、JAからの技術指導やアドバイスなどもある。さらに病虫害の情報や薬品散布のタイミング、さらに相場などの情報も、逐一メールでリアルタイムに提供されるので、収益性が大きく向上しました。まさに『物心両面からの支援』のおかげで、ビジネスとしても農業を始めた当時とは天と地の違いです」(高橋氏)

 こうした「収益性の高い農業」が見えてきたのを期に、高橋氏は今年、仙台市で勤めていた子息を後継者として呼び戻したと話してくれた。

 「今後は若い方に農業の魅力を感じてもらって、園芸メガ団地の取り組みを受け継いでいきたい。その意味でも白神ねぎのブランド力は重要だと思います」

2017年度には販売額14億円を突破しさらなる成長へ

 生産者とJAによるさまざまな努力が功を奏し、販売額10億円を目標に掲げてスタートしたプロジェクトは、2017年度にはついに販売額14億2000万円を達成。30年程前は5kgあたり約800円だったネギ市場の値段は、その後上昇を続け、特に「白神ねぎ」はここ数年来2500円の高値で安定的に推移している。2017年には、ネギの魅力を全国に発信する『全国ねぎサミット』を誘致し、「白神ねぎ」のさらなる認知度アップに努めた。行政もこうした動きに呼応し2018年4月に能代市役所に「ねぎ課」を設置、生産現場に密着した指導業務に乗り出した。

 佐藤氏は「2018年度は15億円達成が目標です。将来的には白神ねぎだけで20億円を達成したい。また園芸メガ団地をキャベツなどほかの作物にも適用することを構想中です」と意気込みを語る。

 そのためにはまだ課題もある。主要5品目の生産の兼ね合いから、ネギの生産だけを増やすことはできず、耕作地の拡大にはバランス感覚が求められる。また、生産者と作物の相性もあり、一旦ネギの栽培を始めても、撤退してしまうケースもあると言う。

 「そして何より、人を育てていくことが重要だと考えています。地域振興という面ではまだまだ新規就農者は少なく、若手の生産者も足りていません。無料職業紹介所も設置しましたが求職者がなかなか集まらない状況です。また、作付面積拡大を図りたい一方で土壌の良くない場所は依然として耕作放棄地として残っています。こうした課題を、生産者の方や行政と共に1つ1つクリアしながら、進めていきたいですね」(佐藤氏)

 JAあきた白神では、今後「白神ねぎ」の継続的なブランド強化とともに人材育成に注力し、地域の発展に貢献していきたいとしている。

生産拡大からブランド確立、そして将来の担い手育成まで、秋田『白神ねぎ』の挑戦は続く
生産拡大からブランド確立、そして将来の担い手育成まで、秋田『白神ねぎ』の挑戦は続く