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自動運転は若い世代の農業参入を促す

ZMP 谷口 恒 代表取締役社長

東京オリンピックが開催される2020年の無人タクシー実用化を目指し、DeNAと合弁会社「ロボットタクシー」を設立した、ロボット開発ベンチャーのZMP。同社の強みであるカメラやセンサーで周囲の環境をセンシングし、自車の位置を推定して自律移動する自動運転技術は、後継者不足やTPPの影響など課題が山積している日本の農業を革新的に変える可能性を秘めている。農業分野での技術提供の実績もある同社代表取締役社長の谷口恒氏に、ロボットタクシーの展望や同社の先進技術が農業にどのような可能性をもたらすかを聞いた。

谷口 恒(たにぐち ひさし)氏 株式会社ZMP 代表取締役社長
制御機器メーカーでアンチロックブレーキシステム開発に携わる。その後、商社で技術営業、ネットコンテンツ会社の起業などを経て、2001年にZMPを創業。家庭向け二足歩行ロボットや音楽ロボット開発・販売を手掛け、08年から自動車分野へ進出。メーカーや研究機関向けに自律走行車両の提供を行う。現在、ロボットタクシー、物流支援ロボットキャリロ、ドローンなど、様々な分野へのロボット技術の展開“Robot of Everything”戦略を進めている。16年より東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程に在籍。(写真:清水 盟貴)

ロボットタクシーの実用化に向け、今年2月には神奈川県藤沢市で、一般公募したモニターを乗せて走る実証実験を初めて実施されました。手応えはいかがでしたか。(※実証実験は自宅と大型スーパーを往復する間、一部区間の運転を手動から自動に切り替えるというもの)

谷口 実証実験では、一般の方が自動運転の技術をどう感じるかの受容性の問題が非常に重要だと思っていました。実際に、みなさん、いろいろと不便を感じていらっしゃるようで、「1日でも早く実現してほしい」という期待の声がほとんどでした。すべての人がそうではないと思いますが、技術を受け入れていただける土壌があるということは、はっきりしました。

 技術的な課題として、道路の白線がほとんど消えてしまって見えなくなっているところが多かったため、白線を補う技術を追加して対応しました。また、思った以上に交通量やバイクの走行が多く、巻き込みがないように気を遣うなど、当初の想定と違ったこともありました。こちらが把握していなかった工事によって、すべての車線が使えないようなケースも発生しましたが、その際は運転を自動から手動に切り替えて無理な対応はしませんでした。

 白線の問題については、技術的な対応は可能です。ただ、コンピューターの計算が増えて装置が大掛かりになるよりも、実際の白線を引き直したほうがコストはずっと安い。行政の協力を得て道路のメンテナンスを行い、なるべく一定の制約状況を設けたなかで自動運転を実現するのが現実的だと思っています。工事箇所については、自動運転車両が増えると先に走った車が他の車に知らせることができます。自動運転技術が普及して複数の車両が走れば、コストダウン効果だけでなく、対応する技術の精度も上がっていきます。

自動運転ドローンで生育状況を解析

安倍首相は2020年のオリンピックで無人自動走行による移動車両サービスを可能にするために、2017年までに必要なインフラを整備すると表明しています。実現すれば世界初となる革新的なサービスですが、2020年に実現できるのでしょうか。

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谷口 2017年以降に実証実験を積み重ねれば、実用化に近づいていくと思います。ですから、2017年までにインフラが整うかどうかが大きなポイントです。自動運転の移動サービスとして、バスを活用するという考えもありますけれども、私はタクシーが主流になるのではないかと考えています。バスのように多くの人を乗せる場合、それだけリスクも高い。タクシーで使いたいというお客さんのニーズの方が強いと思います。

 無人運転では、遠隔監視・操作が必須になります。車中で体調を崩した時のためにインターネットで監視をしたり、故障時には遠隔で操作して路肩に寄せたりすることも必要になると思います。そうしますと、ハッキング防止などセキュリティー対策も重要になってきますね。

そもそもロボットタクシーの構想は、過疎地域の高齢者などの“移動弱者”の不便を解消したいという谷口社長の想いから始まったと聞いています。そういった“移動弱者”のための利用が全国でできるようになるのは、いつごろになりそうでしょうか。

谷口 まずはオリンピックでロボットタクシーを実現させることに、集中していきます。実現すれば、海外だけでなく地方から来られた方も「乗ってみようか」と思われるでしょう。そこから自治体の誘致が始まって、期待して協力いただける自治体から導入していくことになると思います。そういった意味で、オリンピックはまさに技術の見本市でもあるわけです。

実証実験で使われたロボットタクシー(写真:ZMP)

御社の自動運転技術は建機や物流などの分野にも応用されようとしていますが、農業分野ではどういったことに取り組んでいるのですか。

谷口 自動運転は、道路でも農地でも山でも鉱山でも空でも同じ技術の応用なのです。いまは研究開発の段階ですが、センシング技術や自動運転のためのソフトウエアを、田植え機やトラクターなどの農機具メーカーに提供し、研究開発をサポートしています。技術は提供していきますが、私たちでロボット農機具を作って売るという発想はないですね。

 関連会社のエアロセンスでは、自動運転のドローンを使って空から写真撮影し、その情報をもとに生育状況を解析して収穫時期の判断に役立てるといったサービスを開発しています。いずれは例えば稲の場合、実ったところの分布を解析し、自動運転の稲刈り機と連携してそこだけを刈り取ることができれば、収率は上がります。まだ量産レベルではありませんが、生育状況の解析が可能になって来ています。

 ドローンの活用では、林業の現場で松枯れ病の松を空から見つけて、そこだけ切って他の木にうつるのを防ぐといったこともできます。人間が山に入って調べるには、足場が悪く、上も見えないので大変なのですが、ドローンを使えば上空から撮影できますからね。松枯れ病の木は茶色くなったかどうかで分かるので、それほど高い分析も必要ありません。

道路での自動運転に比べると、農作業の自動運転は開発しやすいですか。

谷口 自動運転は認知・判断・操作の3つの技術が必要です。「操作」は機械が全部できるようになっています。「認知」して「判断」するところが難しいんです。私たちが開発しているのは、AIがカメラに映った障害物を認識しながら、進んだり止まったりと指令を出す「認知」「判断」の部分です。

 農地は道路のように飛び出しなどもなく、認知しなければならないものが複雑ではありません。道路に比べると自動運転を実現しやすいと考えています。農作業の車両の速度も遅く、事故も少ないですし。

肉体労働からの解放

谷口 実用化が難しいと指摘する方もおられるんですよ。例えば、田植えは真っすぐきれいに植えなければならないという昔からの考え方を守っている人もいます。その場合、確かに自動運転によって、ぬかるんだ田んぼで真っすぐ植えるには、地面が不安定な分だけ車両の制御技術がかなり難しいんです。

 ただ、私は多少うねってもいいから、自動で大量に植えこんで自動で刈っていくことが必要になるのではないかと思います。海外の農業はそんなに丁寧にやっていません。畝もない広大な土地に、中に人が入れないくらいぎっしり植えて、収穫は日本のコンバインよりも2、3倍大きい無人の機械で一気に片付けている。きれいに植えることにこだわって、日本の農業に勝ち目があるのでしょうか。これからは常識を変えるような発想が必要だと思います。

自動運転技術が実用化できれば、日本の農業にどういった変化をもたらすとお考えですか。

谷口 田植えから始まって収穫までを自動でできるようになりますから、農業は肉体労働から解放されます。肉体労働に多くのエネルギーを使うと、それだけで疲れてしまって、創造的なことを手がけるのがなかなか難しくなります。しかし、肉体労働を自動の機械に任せられれば、その時間をマーケティングや営業、経営マネジメントに使えるのです。東京に行って高級料亭に直接、売り込むとか、ウェブサイトをきれいに作ってサンプルを消費者に届けるとか。若い人たちも、こんなクリエーティブな発想を生かせるなら、農業をやってみようと思うのではないでしょうか。

 知的生産に集中できれば、例えば、IT関係の人たちも面白いから農業に入ってくると思うんですよ。自動運転のデータを使って、収益のいい農作物を見つけたり、いつ何を植えればいいのか需要予測をしたり。ITによって収益性を上げて農業が稼げる仕事になれば、さらに様々な分野から優秀な人が入ってきます。農業の分野では、アイデア次第ですごいベンチャーが生まれて、大きなビジネスへと発展する可能性があると思うんです。

 先ほど話した、田植えは真っすぐきれいに植えるものという意識に対しても、既成概念のないプレーヤーが入ることで「こんな方法もあるよね」「こんな技術はオーバースペックでは」という声がどんどん上がり、常識を変える新しい発想が生まれてくるのではないでしょうか。

自動運転の機械を複数の農家でシェアする

若い人が参入することで、わくわくするような農業の未来が描けそうです。ただ、自動運転を導入すると相当なコストもかかりますよね。

谷口 驚くほどではないですが、確かに自動運転は普通の農機具よりも確実に高い。だからこそ、複数の農家でシェアするんです。機械はシェアして使うものですよ。例えば200万円した農機具が、自動運転だと400万円もする。一農家では買えないのであれば、それこそシェアするチャンスだと思います。

 今、世界では先進国も途上国も関係なく、どんどん農業は自動化しています。日本は自動化に遅れていて、農家が所有する田んぼの面積も小さい。自動運転の機械だけではなく、土地・田畑も何軒かの農家でシェアすべきです。自動運転は広い土地で実施した方が収量も上がります。間にある道もなくして、1つの広い土地・田畑にして、各軒が所有する広さに応じて収益を配分すればいいわけです。5軒、10軒くらい集まって土地をまとめると、自動運転で効率的に生産できるので、利益もかなり上がると思います。

以前、「ロボットタクシーは一緒の時間を楽しく過ごす“友達のような存在”にもなる」とおっしゃっていました。農機具にも“遊び”の機能を持たせるお考えはありますか。

谷口 実用的なものは最低限、機能があれば十分ですが、それだけではつまらない。やはり人って、楽しめる遊びの要素も求めていると思うんですよね。

 ZMPの物流ロボットは操作に応える音声について、「萌え系」「ツンデレ系」など5種類も用意しています。電源不足を「おなかがすいた」と表現するようなモードも入っているんですよ。産業用の機械だから遊びの要素は一切いらない、という人もいると思います。ヨーロッパなんかだったら絶対にやらないでしょう。でも日本には産業用ロボットに名前をつけたり、モノに対して情緒豊かに感情を込めたり、神様の名前をつけたりするという民族性があります。

 ですから、自動運転の農機具でもデータをただ返すだけではなくて、例えば「あそこはぬかるんでいるから、ちゃんとメンテナンスしてよ」という音声メッセージにする。なるべく機械との距離を縮めたいという発想を持っています。働く仲間として機械に親しみを込めることができれば、もっと機械を使うようになるでしょう。以心伝心を繰り返せばAIの学習精度も上がります。そうすると、アニメクリエイターのような人たちも農業分野に入ってくるかもしれないですよね(笑)。

最後に改めて、日本の農業への提言をお願いします。

谷口 農業は、ITに代表されるような異業種に携わる若い世代が、新しい発想を持って取り組みたいと思う産業に変わる必要があります。その点に尽きると思います。

 かつて、手作業で洗濯をしていた時代があり、洗濯機などの電化製品が登場して、主婦がそれまでの家事労働から解放されていきました。農業においても自動運転技術を導入することで、できるだけ肉体労働から解放することが大事だと思っています。これによって創造的な発想が可能になり、若い世代が入ってきて農業を変えていくでしょう。