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「地方再生」のモデルと注目を浴びた島根の島

経済は手段、ゴールは幸せに暮らせる

島根半島の沖合に浮かぶ隠岐の島諸島。その中の一つ、中ノ島に位置する海士町(あまちょう)は、政府主導で多くの市町村の合併が進められた「平成の大合併」の際、単独町制を維持することを選択。不退転の決意の後、海士町のブランド化や、UIターン者の受け入れ体制の整備、全国の高校生の「島留学」を誘う制度などを次々と立ち上げた。いまや地方再生のモデルとして、全国から注目を浴びている。そうした中、海士町に移り住み、仲間と共にベンチャー企業巡の環(めぐりのわ)を起業したのが代表取締役社長の阿部裕志氏だ。阿部氏は島が丸ごと、これからの社会のモデルとなれるための地域づくりのほか、海士の伝統、土地、人を生かした研修の提供、ネット通販による特産物販売などを手がけながら、「海士の未来にとって本当の幸せとは何か」を考える。これから日本が目指すべき地方再生、地方活性化のあり方について話を聞いた。

阿部 裕志(あべ ひろし)氏
1978年愛知県生まれ。巡の環社長、地域づくり・教育事業プロデューサー。京都大学大学院(工学研究科)修了後、トヨタ自動車入社。生産技術エンジニアとして新車種の立ち上げ業務に携わる。しかし、現代社会の在り方に疑問を抱き、新しい生き方の確立を目指して入社4年目で退社。2008年1月「持続可能な未来へ向けて行動する人づくり」を目的に株式会社巡の環を仲間と共に設立。11年4月より海士町教育委員に就任。
巡の環ホームページはhttp://www.megurinowa.jp/

海士町に移住されて、現在はネット通販で特産品の販売を手掛けたり、この地の伝統や人を生かした研修を提供したりと積極的に活動されています。その背景には「海士町を活性化したい」という思いがあったのでしょうか。

阿部 実は「地域活性化」という言葉が嫌いです。地元の方自身は使わない言葉ですよね。一般に活性化というと、「特産品を開発して売り上げがいくらになった」「雇用が増えて人口増につながった」という話ばかりです。経済の発展が地域の発展なのかというと、本来、経済は手段であって目的ではない。地域の文化が受け継がれ、そこの住む人たちが幸せに暮らしていけるのがゴールなわけです。

 海士町は、データで見ると高齢化率は約40%です。地域の人に愛され、自分の役割を持って集落を守り、生き生きとした90歳の海士のおばあちゃんを前に、「海士の元気がない」とは言えません。数字が衰退しているから活性化しなければと言われても、「いや、十分元気なんだけど」と返したくなります。もちろん、このままだと地域の人口は減っていきます。ただ、今あるものを否定して作り変えるという感覚は違うと思います。変えるという発想を入り口にするのではなく、何を守るために何を変えるか、を考えるべきではないでしょうか。

まずは何を守るかを明確化する

地域の経済を発展させるために「変わる」ことが目標となってはならないということでしょうか。

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阿部 はい。人口が減り経済規模が縮小する中で、地域にあるものすべては維持できません。守らなくてはいけない「本丸」があって、そのために「出城」をあきらめるという作戦です。「変える」を前提にすると、本丸を壊して出城だけ残るといった結果になりかねません。本丸の多くは、集落の人々の関係性とか文化とか目に見えないものなので、間違えやすいのです。

 よく、外から来た人が「この地域はこのままではいけない」と言ったら、地元から反対されたという話があります。そりゃそうですよね。一般的に地元の方がなぜよそ者を拒むのか。それは、その地域で育ったからこそ分かる大切なものを壊されたくないからだと考えます。

海士町に移住して、この地域のために貢献したいと考えたとき、まず心がけていることは何ですか?

 私は海士町のことを知るために、移住して2年間は「外に出ない」と決めていました。島の外に出ない、外を見ない、メディアに出ない。私がトヨタ自動車という大企業出身で、Iターンの人間だけで起業した会社という理由で、移住してすぐ取材の申し込みがありました。でも、当時の我々は移住しただけで、何も成果を出していませんでした。それなのに海士町を語ったら、地域の人は気分がよくないですよね。

 また、海士町を知らずして、他の地域活性化事例を見ても仕方ないとも思っていました。ここがどんな場所で、本当の課題は何で強みは何か、本当は何を望んでいるのかを知りたかった。半年間は隣の西ノ島さえ行かずに、ずっと海士町の人と毎晩のように飲みながらさまざまな話を聞かせてもらいました。祭りに参加したり、この地域に伝わる民謡や神楽を習ったりもしました。それが現在、地域イベントの運営や補助といった地域づくり事業につながってます。

 巡の環では、ネット通販サイト「海士Webデパート」を運営。米、海産物など島の特産品を扱っています。力を入れているのが、「海士の本気米」(5キロ、3000円)です。次世代に田んぼを引き継いでもらうおうと、海士町の農家7人が「よりおいしい米づくりを」と取り組み、昨年に発売しました。地場食材の、隠岐牛や牡蠣の堆肥や殻を使ったミネラル豊富で健康な土壌づくりをし、甘くもっちりとした米に仕上がっています。

 我々販売業者は、農家の人、漁師さんの代弁者です。ですが、農家の稲刈りだけ手伝って代弁者になれるかというとそうではない。ちゃんと自分たちで種をまき、苗を育て、田植えをして、田んぼの水の管理をし、虫が付いたらどうするかを悩み、稲を刈って天日干しをし、脱穀して収穫を味わう。すべてをやらない限り、代弁者になってはいけないのではと考えました。だから、会社では有志で毎年稲作をしています。「あの農家さんがこう言っていた」と「自分でやってみてこう思います」ではまったく違うからです。

巡の環では有志で6年前から稲作も行っている