• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

ウソじゃない。極寒の地・北海道で完熟マンゴーを生産

新しい価値を生み出した十勝・音更町の挑戦 ノラワークスジャパン 中川裕之 代表取締役

完熟マンゴーと言えば南国フルーツの代表格。宮崎産の赤々とした「太陽のタマゴ」を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。実際に、日本の産地も宮崎や鹿児島、沖縄など温暖なところばかりが並ぶ。そのマンゴーを北海道で、しかも真冬に生産することに成功した会社が道東の十勝地方にある。ばんえい競馬などで知られる帯広市の北、音更町にあるノラワークスジャパンという会社だ。特に高品質のものは「白銀の太陽」というブランドで、1個5万円の値が付き話題になった。北海道産マンゴーという希少性と、夏が旬のはずなのに出荷時期を半年ずらして11月下旬から年内いっぱいとしたことで、高い価値を付けることに成功した。温泉と熱という自然の力を利用して、北海道産の冬のマンゴーという誰も想像できなかった商品を産み出したノラワークスジャパン代表取締役の中川裕之氏に、その経緯と秘けつ、そして独自の付加価値戦略を聞いた。

中川 裕之(なかがわ ひろゆき)氏
1961年4月生まれ。株式会社ノラワークスジャパン代表取締役。十勝南部の広尾町出身。十勝港で貸倉庫業やレストラン事業などを営む傍ら、ノラワークスジャパンで真冬のマンゴーづくりに取り組んでいる。十勝から離れ札幌、カナダなどに住んだ時期もあるが、離れてみて十勝の素晴らしさをより強く感じることになったという

南国のフルーツでもあるマンゴーを、十勝という極寒の地でどうやって育てているのでしょうか?

中川 一言で言うと、自然エネルギーを使い、ハウスの中の夏と冬を逆転させて作っています。夏には、寒い時期に積もった雪を使ってハウス内の地温を下げ、“マンゴーにとっての冬”を作り、冬には、温泉を使って地温を温めて“マンゴーにとっての夏”を作ります。こうすることで、これまで入手できなかった11月後半から12月という時期に完熟マンゴーができます。

 マンゴーの旬は一般に5~6月です。真冬の12月に収穫できるようにするには、作る季節を真逆にして9月頃にマンゴーの花を咲かせる必要があります。このためには6~7月にマンゴーに冬だと感じさせなくてはなりません。冬といっても10度くらいですが、このくらいの温度が温暖な地域の植物であるマンゴーが冬と感じる条件で、彼らはこの期間に花芽を付けます。逆に、マンゴーはこうして冬を感じないと花芽が付かず、実も付けてくれません。

 6~7月の宮崎は南国ですから当然暑いし、ハウスの中はなおさらです。この時期ハウスの中を冬にするためには冷房でがんがん温度を下げなくてはなりませんが、これはコスト面で無理があります。一方、十勝の6~7月は最低気温が10度くらいという日が15~20日間ほどあります。この時期に、貯蔵しておいた雪を使ってハウスの中の地面を冷やすのです。具体的には、寒い間に降った雪をたっぷりと積んで、木の皮をかぶせて貯蔵しておく。この貯蔵した雪の下に不凍液を入れたパイプが通してあり、そのパイプはハウスの地面の下にもはわせてあります。雪の中を通って冷やされた不凍液が、マンゴーを植えた地面の下を流れて地温を7℃くらいに保つわけです。こうなると、実際の季節は夏ですが、マンゴーの木は冬だと感じてくれます。こうした条件でマンゴーは花芽を付け、その後花が咲き、受粉させて実が付くというわけです。

 寒くなってくると今度は温泉を使って地温を暖めます。温泉は近くの十勝川温泉と同じ温泉です。バルブを切り替えると不凍液の代わりに温泉水が流れ、地温を常時27~28℃になるように保ちます。この場所はもともと温泉が出る池があったところで、温かい水で魚を養殖していました。その温泉水を利用しています。これに加えて廃油を使った暖房を使って、寒い時期の十勝でもマンゴーにとっては夏という環境を作って実を育てます。十勝は実は日照条件も良いんです。こうして、11月下旬から12月にかけて完熟マンゴーが採れるのです。

偶然の出会いから始まった

なぜ十勝でマンゴーを作ろうと思ったのですか?

中川 そもそものきっかけは、2010年の4月。宮崎県の日南市にマルシェのイベントがあり、そのとき現地で隣に座ったのが日南のマンゴー農家の永倉勲さんだったんです。まったくの偶然。それまで僕の念頭にはマンゴーのマの字もありませんでした。

 そのとき、隣にいた永倉さんがマンゴーを12月に作りたいって言うんです。このためには、宮崎では、6~7月にハウスの中を冷やさなくてはならないけれど、その時期の宮崎は暑すぎる。逆に北海道なら作れるはずだと力説されました。これを聞いたときは、正直あり得ないと思いました。

 でも、実際に永倉さんのハウスを見学に行くことになり、そこでマンゴーを見た瞬間に雷に打たれたような衝撃を受けてしまった。私は北海道の人間なので、果物はスーパーで買うものという感覚だったんです。ハウスの中にはマンゴーがたわわに実っている。永倉さんに思わず本当にできるの?と聞きました。「いや、できるはずだ」「本当に考えるよ」「大丈夫だ。やってくれ」といったやり取りをして、すっかりやる気になって北海道に帰ってきました。

最初は誰からも相手にされなかった

ハウス内には250本のマンゴーが植えられている

中川さんがやる気になったのはなぜでしょうか?

 最初話を聞いたときには、絶対にできない、可能性はマイナス100%と思っていました。この地域は一番寒い時期だとマイナス25度にもなるんです。でも南国の宮崎ですら、ハウスの中でボイラーをたいて温度を高めている。暖めてやれば条件としては同じようにできるのでは、と思ったわけです。

 しかし、帰ってきてからが大変。みんなからはコテンコテンにやられた。できるわけないって散々に言われました。この地域には温泉があるからと考えて、役所と相談して十勝川温泉の組合にも相談しました。知り合いがたくさんいたから相談にのってもらえるのではとも思ったんですが、うまくいくわけはないと諭され、結局のところ誰も相手にしてくれないという状況になってしまいました。

 それでもあきらめきれなくて、永倉さんを呼んで話をしてもらうことにしました。2010年の9月のことです。実際に作っている人が話すのと、僕が話すのでは説得力も重みも違う。彼の話を聞いた瞬間にみんな面白いね、行けるかもしれないねと、180度、空気が変わりました。

 永倉さんから即戦力になるようなマンゴーの苗木を10本分けてもらえることになり、その苗木を使って実験的にスタートさせました。こちらでも場所をなんとか確保しようと画策しました。温泉で魚を養殖していたこの場所を確保したんです。貸主は「おまえらみたいな阿呆がいないと十勝も面白くならない」と言ってくれました。