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理想の「すし米」はこうして生まれた

あきんどスシロー×パールライス

日本トップクラスの回転すしチェーン、スシロー。その生命線ともいえるシャリの原料、すなわち“すし米”の供給を手掛けるのが、全農パールライスだ。業界大手の2社は、なぜベストパートナーとなり得たのか。タッグを組んだ理由を探る。

 スシローは大阪・江坂に本社を構える回転すしチェーン。その始まりは1984年、大阪阿倍野にあった「鯛すし」の職人が、美味しいすしをより多くのお客様に気軽に食べてもらおうと回転すし事業を創業したことに始まる。2016年9月の時点で店舗数は442。そんな巨大チェーンのすし米を、一手に引き受けているのが全農パールライスだ。

 主要原料の仕入れは、多くの場合、発注先を分散してリスク回避をする。同社も例にもれず、これまで複数の米商社と取引をしてきた経緯がある。ではなぜ、ここで“すし米の番人”を定めたのか――?あきんどスシロー執行役員商品本部長の堀江陽氏はこう語る。

あきんどスシロー 執行役員 商品本部長
堀江 陽 氏

 「複数社から仕入れていたときの一番の悩みが、“シャリがぶれる”ことでした。米を炊いて酢合わせすると、同じように炊いても、いいときと、重たくなってしまうときが出てしまうんです。しかし、これから店舗数を増やしていこうという矢先、それではやっていけなくなる。どうすればいいだろうと考えたとき、頭に浮かんだのは、全農パールライスが担当していた店のシャリでした。一番、ブレがなかったからです」

 何よりも品質の安定を維持したい。その思いから、スシローは「すしの命であるシャリ。その命を全農パールライスに託した」(堀江氏)のである。

安定したシャリの品質は、米のブレンド技術が鍵

 とはいえ、米は言わずと知れた農作物。産地は九州から北海道まで広く、収穫は年に一度。毎年の天候によって豊作・不作があり、出来に差もあるのが当たり前だ。そんな中、なぜ全農パールライスのすし米はブレが少なかったのだろうか。

 「実は、すし米はブレンドすればするほど炊きやすくなり、味が安定するんです。今の消費者は同一産地や単一銘柄の米を好む傾向がありますが、その昔はブレンド米が主流でした」

全農パールライス 執行役員
横田 弘樹 氏

 そう語るのは、全農パールライス執行役員の横田弘樹氏。同社は九州から北海道まで、日本各地の米を扱う専門商社。その中で、専門のブレンダーがさまざまなニーズに合わせたブレンド米を開発しており、培われてきた技術がここで功を奏したのだ。さらに横田氏は、その背景をこう語る。

 「昭和の終わり頃から全国的にコシヒカリが普及し始めたことにより、それまで栽培されてきた、やや硬めに炊き上がる米がコシヒカリの生産に置き換わっていったんです。しかし、米を炊き、酢合わせをして、一定時間を置いてから出すとなると、コシヒカリはなかなか難しい。それを踏まえ、当社の強みである米のブレンド技術で、理想の“スシロー米”に近づけていきました」

すし米にかけるスシローのこだわり

 しかし、スシローの求めるすし米の特徴を理解し、形にするのはそう簡単ではなかった。「大切にしているのは、口に入れた後の米粒のほぐれ方。米粒が大きく、口の中でちゃんと主張しつつも、かむとほどけていって、後からほのかに酢を感じる、その感覚です。また、酢と米の相性がいいとおいしく感じます」と堀江氏は話す。つまり、どれだけ“ごはん”がおいしく炊けても、スシローが使う米酢と合わなければ意味がない。そのマッチングが開発のポイントとなった。

 「数値ではなく、言葉で表現された食味を的確に再現するまでに、3~4年はかかりましたね。まさに鍛えていただいたという感じです」と横田氏は振り返る。

全農パールライス 西日本事業本部 営業部
田谷 茂 氏

 また、米を出荷し、店で炊飯して、すしとしてレーンの上を回ったうえでどう感じるかが判断ポイントとなる。そのため、試食回数は数え切れない。

 「特にすし米のブレンドを変えたときは集中的に伺いますね。また、社として定期的に巡回の機会を設けており、オペレーションや設備までも点検します。それとは別に、私自身も1週間に1~2回はスシローに足を運んでいます。日々確認することで、シャリがきちんと炊けていない、硬い、べちゃついているといったブレを確認するだけでなく、夏場のクーラーや冬場の暖房など、店で客として感じることもご報告できます」。そう話すのは、西日本事業本部営業部の田谷茂氏。米を炊き、品質を維持することは、どんなにお店が大きくなり、店舗数が増えたとしても、どこまでいってもアナログなのだ。

産地別に取り組む“スシロー米”のメリット

 こうしてシャリの食味のブレが解消されたが、スシローにはもう1つ、以前からの悩みがあった。それはコストだ。米は毎年の収穫状況に応じて相場が乱高下する。一方、店舗ではいつも1皿100円で出さなくてはならない。米の価格変動によって、毎年一喜一憂せざるを得ない状況が課題だったのだ。

 そこで解決策の1つとして始まったのが、産地・銘柄別の取り組みだ。これは先ほどのブレンド米と逆を行くようだが、生産者と一緒に“スシロー米”を作ることで得られる多大なメリットがある。横田氏はこう語る。

スシローのお米を作ってもらい、生産者のモチベーションアップに貢献
(写真:あきんどスシロー)

 「農家に“スシロー米”を作ってもらい、1つの産地と末永く付き合っていただければ、安定的に提供できるようになるだけでなく、流通経費も抑えられます。また、我々の仕入れ先である農家は、もともとシャリに適した米を作っているところもある。彼らの米がスシローのすしになるのが明らかになれば、生産者のモチベーションが湧き、結果的に品質も上がります」

 この取り組みは「海と田んぼプロジェクト」と題して、特定の産地で収穫された米や魚を店舗で提供するキャンペーンともつながっていく。皮切りはJA滋賀蒲生町で、当時は滋賀県にあるスシロー全店で、滋賀の米100%のすし米を提供。好評を得て、以降、茨城県、千葉県、兵庫県、岡山県、熊本県と、さまざまな産地と連携した活動を進めている。

すし米を通じて食育への取り組みを実施

 さらに、“スシロー米”を生産する農家と提携して、春の田植えや秋の稲刈りに、親子で参加してもらうイベントも好評だ。昨年は田植えを兵庫県、稲刈りを茨城県と滋賀県で実施。スシロー側にとって、食育の場はお客さんの生声を聞く貴重な場でもある。

秋の稲刈りイベントの様子。鎌を使った稲刈りや足踏み式脱穀機など、子どもたちは初めての体験に夢中 (写真:あきんどスシロー)

 「『スシローの〇〇店によく行っている』『ネタは〇〇が好き』というような話を、収穫した米を食べながら話していると、どんなお客さんがどんな思いでスシローに行っているか見えてくるんですよね」と堀江氏は話す。

 「参加される親子のほとんどは、米づくり体験が初めての方。1回あたり60人近くが参加し、親御さんも夢中になって楽しんでいるのを見ると『もっともっとがんばらなあかんなあ』と思いますね」と田谷氏もその手ごたえを感じている。また横田氏は、この取り組みに新たな希望も寄せる。

 「田園の持つ多様な機能についても伝えられたらいいと思っているんです。田んぼって、米を作るだけじゃないんですよ。カエル、ホウネンエビ、コオイムシ、ヒル、ミミズ、ヘビなど、さまざまな生き物をはぐくんでいて、その豊かさを子供たちにも知ってもらいたい。実際に田んぼで虫を見ても、子供たちは意外に怖がりません。一緒に田んぼの生き物調査しながら、みんながたくさんおすしやおにぎりを食べてくれたら、水田とそこに暮らす生き物を守ることにもつながる……なんてことを伝えられたらいいですね」

泥だらけになりながらの田植え。初めての体験に子どもたちは大騒ぎ
(写真:あきんどスシロー)

 スシローとの信頼関係によるパートナーシップが、日本の風景、生き物を守り、米食文化を守っていくことにつながるならば、こんなにすてきなことはない。大手同士の組むスケールメリットを生かしながら、社会に還元していく取り組みがここにある。