世界一の店も採用! 日本初のラーメン用小麦「ラー麦」

業界の垣根を越え官民が一丸となって開発

今や日本の国民食とも言われるラーメン。麺やスープの材料、トッピングの具材などはバラエティに富み、ラーメン店は趣向を凝らした商品を日々開発している。しかし、麺の原材料となる小麦にまでこだわり、ついに日本初のラーメン専用小麦「ラー麦」を開発した人々がいた。福岡県農林業総合試験場、福岡県庁水田農業振興課、製粉企業5社、JA全農ふくれんなどからなるメンバーだ。ラー麦で作った麺は、ラーメン店主たちもうならせるほどの味わいで、2017年の「ワールド・ラーメン・グランプリ」の優勝店でも使われているほど。ラー麦の魅力とはどこにあるのか。5年に及ぶ開発の軌跡を追った。

 全国各地にご当地ラーメンなるものがあり、それぞれのエリアでしのぎを削りあっている日本の国民食、ラーメン。福岡のラーメンはその代表格の一つだ。「替え玉」などの文化で知名度も高く、最近ではインバウンドの海外客も多く取り込んでいる。

 しかしながら、日本のラーメンの麺を作る小麦はほぼ海外からの輸入に頼っており、比率は実に97%。ラーメンのみならず、パンやケーキなどに使われる小麦も然りで、パン用小麦に至っては99%とさらに数値が上がる。唯一国産が輸入を上回るのは、うどん用の小麦だけだ。

 実は福岡県は北海道に次ぐ全国第2位の小麦生産県。年間4万6700トンの小麦を収穫している(平成27年度農林水産省)が、そのほとんどがうどん用だ。市場としては飽和状態にありこれ以上の増産は難しい。そこで県としては、消費者の国産志向等もあり、さらなる需要が見込めるパンや中華麺に使われる硬質小麦の導入を検討しはじめた。

福岡県農林業総合試験場 農産部長 田中浩平博士
福岡県農林業総合試験場 農産部長
田中浩平博士
水稲育種、麦類育種、大豆・品質の3チームをとりまとめる

 ならば、名物のラーメンを福岡で作った小麦で作ってはどうか――。発案したのは、県の農業林業において新たな品種や技術を開発する立場にあった福岡県農林業総合試験場のスタッフだ。調べてみたところ、ラーメン専用の小麦には前例がなく、完成すれば日本初となる。「やってやろうじゃないか」と、同試験場の研究員達が立ち上がった。

 「当時の知事から、地産地消にもなり非常に面白いと奨励してもらえました。2004年3月に議会の承認を得て、弊部の麦類育種チームが中心となってプロジェクトがスタートしました。ただ開発に与えられた期間は5年と、通常の開発期間の半分という厳しい条件。そこで、ビール用の大麦育成で培ってきた短期間で多数の掛け合わせを可能にする技術を利用しようと考えたのです」。福岡県農林業総合試験場農産部長の田中浩平氏はこう振り返る。

福岡県庁の旗振りで異業種、競合同士が一致団結

 しかし別の大きな壁もあった。生産者が直接味わうことができる米やいちごなどと異なり、小麦はラーメンとなって生産者の口に入るまでに時間がかかる。いくら品種として優れた小麦を開発しても、製粉し製麺された時にどうなるかは試験場で評価することはまず無理だ。そこで試験場は、開発した小麦の品種をある程度絞り込んだ段階から、製粉会社やJA全農ふくれんに協力を仰ぐことにした。そうして誕生したのが「福岡県ラーメン用小麦品種開発協議会」だ。製粉会社5社(日清製粉、日本製粉、鳥越製粉、東福製粉、大陽製粉)と、JA全農ふくれん、米麦品質改善協会、そして福岡県農林業総合試験場、県の担当行政部署で構成されている。

福岡県農林業総合試験場 農産部 麦類育種チーム チーム長 甲斐浩臣博士
福岡県農林業総合試験場 農産部
麦類育種チーム チーム長
甲斐浩臣博士
熊本出身。農作物の中では麦が一番好きと語る

 一般的に、試験場とJA全農が技術指導などで協力することはあっても福岡県ラーメン用小麦品種開発協議会のように、製粉企業までがメンバーに加わることは珍しい。まして競合関係にある5社が手を携えて、というプロジェクトは全国でも例を見ない。実現したのは県庁の存在が大きいと田中さんは言う。「県のプロジェクトとして、ラーメン用の小麦を開発している。協力してほしい」と2005年から動き始め、強力なリーダーシップを発揮して各企業・団体をとりまとめたのだ。

 一方、試験場も豊富な経験値を積んでいた。「長年手がけているビール大麦も同じシステムを採用しています。1968年くらいから新しい品種を開発する際には、早い段階でビール会社の方にもチームに入ってもらい、一緒に取り組むようになっていました」。麦類育種チーム長を務める甲斐浩臣氏はこう語る。福岡というコンパクトでコミュニケーションを図りやすい都市のサイズ感、さらには商売人が多く実利に向かってまとまりやすい風土も手伝い、日本初のラーメン用小麦のプロジェクトに関係者は一致団結した。