未踏が生み出したもの。それはクリエータと呼ばれる“若い突出したIT人材”にほかならない。未踏に採択されたクリエータの中でも、特に高い成果と実力が認められた人材に贈られる称号が「スーパークリエータ」である。毎年、各分野でスーパークリエータが認定され、未踏を巣立っていく。スーパークリエータたちは未踏を通じ、何を成し遂げ、現在どのような活躍を続けているのか。アプリケーションソフト分野のスーパークリエータ3人が、未踏の経験とこれから目指す未来を語る。

自分の願いや欲しいものをソフトウエアで表現

―未踏に採択されたプロジェクトはどのようなものでしょうか。

大島氏:開発したのは「ourcam(アワーカム)」というソフトウエアです。スマートフォンのカメラに施す特殊効果をその場で設定し、撮る前に特殊効果を施した写真イメージをリアルタイムに確認できるというものです。どういうフィルターを組み合わせて撮影するかといった設定や、撮った写真をソーシャルメディアでどのように共有するかまで自動化できます。

朝倉氏:未踏に応募したのは、インタラクティブ絵本「ピッケのおうち」というWebサイトです。ピッケという子豚の男の子が暮らす世界をWeb上で表現したもので、子どもとコンピュータの最初の出会いを幸せなものにしたいと願い開発しました。もともとは自力で始めたサイトだったのですが、仕事で得た資金を使い隙間時間で開発を続けることでは先の見通しが立たず、未踏に応募しました。

新井氏:私が開発したのは「うたうたう」というソフトウエアです。パソコンにつないだマイクに向かって唄うと、その音程をビジュアル化して、メロディに合っているかどうかを確かめられるというものです。

―誰でも気軽に楽しめそうなものばかりですね。

朝倉氏:はい。小さな子どもが初めてデジタルの世界に触れる時に、絵本の読み聞かせをするように母親と一緒に楽しめるものをつくりたかったのです。ICTには大きな可能性があるのに、当時の2001年ころはいまだネガティブな見方も多くありました。負の側面ばかりに目が行くのはとても残念なこと。そうではなく、使い方次第で、親子のコミュニケーションを豊かにしたり、子どもの創造表現にもきっとプラスになると考えました。
 採択されて半年間「ピッケのおうち」の開発に注力できました。おかげで、ピッケの仲間を増やしたり音楽であそぶステージを増やすなど、子どもたちからのリクエストにようやく応えられました。今は、子どもが自分でデジタルと紙、両方の絵本を作れる「ピッケのつくるえほん」というソフトを、パソコン版とiPadアプリ版で提供しています。

大島氏:私の場合は映像表現に携わる機会が多いので、自分でこういうものがあったらいいなと思って「ourcam」を開発しました。写真を撮って、家に帰って加工してから「やっぱりこう撮ればよかった」と思うことが多かったので、それなら撮る段階で加工後のイメージが分かれば、手間を減らせると思ったのです。

新井氏:それはハードも含めて制御できるんですか。

大島氏:スマートフォン向けのアプリケーションなので、仕様が公開されている部分、例えば、シャッターを切るタイミングやフラッシュのタイミングなどは制御できます。写真とプログラムをセットで記録できるので、撮影のテクニックも応用可能です。写真がうまい人のデータを活用すれば、撮影時に同じような設定や特殊効果を施せます。

朝倉氏:それいいですね。スマートフォン時代になって、みんながネットワークにつながったカメラを持ち歩いているようなものだから。撮るタイミングを逃さず、仕上がりまでその場で確認できるのは便利です。ソフトは公開されているのですか。

大島氏:実は今、手直しをしていて、今年中にはリリースする予定です。

スーパークリエータになって社会的信頼を獲得

―皆さん、現在はどのような仕事をなさっているのですか。

新井氏:現在は株式会社もぐらという会社を経営しています。未踏に採択された「うたうたう」は直接今のビジネスにはつながっていませんが、会社では「メイシー」という名刺管理サービスを提供しています。お客様の名刺をスキャンしてデータベースに登録し、携帯電話やパソコンから、いつでも名刺情報を確認できるサービスです。膨大な名刺の中から、必要なものを検索してすぐに探せるのはもちろん、複数メンバーで利用することで名刺情報が共有でき、社内の人脈がすぐにチームで活用可能です。

朝倉氏:私は、キッズコンテンツの開発者です。未踏終了後も「ピッケのおうち」の拡充を続け、2008年に英語版も公開しました。次の絵本づくりソフトは事業化し、それにともない株式会社グッド・グリーフとして法人化しました。家庭や学校、地域コミュニティで利用いただいています。ときには、私自身もワークショップに出向きます。これらをほかのメディアなど横方向にも広げていきたいと考えています。

大島氏:私はフリーランスのプログラマーとして、様々なソフトウエアの委託開発や共同開発に従事しています。

―未踏の経験は仕事にどのように生かされていますか。

新井氏:高校・大学には進まず、中学卒業後に独学でプログラムを学んできたので、スーパークリエータに選ばれたことで、社会的に信頼を得られたことが一番大きいですね。多様な立場の人に出会えて、人脈も広がりました。その人脈が、今のビジネスにも生きています。

大島氏:私は会社に勤めていないので、未踏でのプロジェクトを通じて、ソフトウエア開発の方法論を学べたことが非常に勉強になりました。開発に求められるスピード感も身をもって知ることができました。

朝倉氏:未踏に採択されなければ、今の私はないと思っています。その意味で未踏には本当に感謝しています。私の担当PMはとても行動的な方で、ご自身の開発ソフトをどう使ってもらうかまでかかわり動かれています。開発のアドバイスはもちろん、その姿勢からも多くを学びました。今も刺激を受けています。
 未踏に採択されたことで「ピッケのおうち」の世界を拡張でき、第2回キッズデザイン賞と子ども向けWebサイトとして初めてのグッドデザイン賞を受賞しました。また「キッズ@nifty」の公式コンテンツに2年間採用されました。その間「ピッケのおうち」のコンテンツを定期的に更新でき、平行して次のソフトの開発にも取りかかれました。

ビジネスや教育分野でのICTの可能性を追求

―今後やりたいこと、実現したいものなど、考えていることがあればお聞かせください。

大島氏:人が行う表現活動の支援を続けていきたいと思っています。これまで多くの人が培った技術や知恵を、再利用可能な形で落とし込めるのがソフトウエア開発の魅力です。何かを表現したいと思った時に、その道のりを最短にするような便利なツールを作りたいですね。

新井氏:経営者として、ビジネスの成長を目指していきます。具体的には2つの新規事業を考えています。1つはサーバーから上がってくる情報をすべてクラウド上に載せて、サーバー管理やデータ集計などをオンラインで可能にするサービスです。
 もう1つは、専門の知識や技術を持たない普通の人でも簡単に使えるプログラミング環境の構築です。表計算ソフトでは物足りないけど、業者に発注するほどでもないツールを作りたい、と思った時に使えるような開発環境ですね。ソフトウエア開発を通じて、組織や社会の生産性向上に寄与したいと考えています。

朝倉氏:ICTは使い方次第で、「つくること」と「つなげること」の可能性を大きく広げてくれます。「ピッケのおうち」も「ピッケのつくるえほん」もICTがなければ、身近な人への公開にとどまっていたでしょう。ICTがあったからこそ、ピッケは世界中の子供たちに遊んでもらえています。ICTの持つこうした魅力を伝えるためにも、これからもキッズコンテンツの開発とそれを利用した活動を通して、子どもの創造表現活動を支援していきたいです。

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