未踏に採択されるプロジェクトは、斬新な発想と着眼点に支えられた前例のないもの。常識にとらわれない考えと、それを形にする技術力が求められる。その中でスーパークリエータの「称号」を得るのは、“若い突出したIT人材”の中でも、際立った成果や実力が認められた人たちだ。スーパークリエータたちは未踏での経験を、その後の活動やビジネスにどのように生かしているのだろうか。ネットワーク・通信・その他の分野のスーパークリエータ3人が、互いの思いや未踏の意義を語る。

「こんなものがあったらいい」が開発のきっかけ

―まず、未踏に採択されたプロジェクトについて教えてください。

木浦氏:Webサイトの最適化をサポートする「webjig(ウェブジグ)」というソフトウエアです。技術的にはJavaScriptを使っています。これを利用することで、Webサイト上でユーザーがどういう行動をしたかを詳細に把握できるようになります。例えば、ユーザーがリンクをどのようにたどったか、どこまでフォームを入力したか、あるいはどの時点で離脱したかなどを知ることができます。ECサイトで利用すれば、ユーザビリティの向上に役立ちます。

相部氏:私はFPGA(Field-Programmable Gate Array)を使った「SUSUBOX(ススボックス)」というものを開発しました。FPGAとは、書き換え可能な集積回路のことです。通常の集積回路は書き換えなどできないし、一つの回路を作るのにも多くのコストと時間がかかります。しかし、FPGAを使えば、中身を書き換えられるので、ハードウエアをあたかもソフトウエアのように使えます。
 SUSUBOXはこのメリットを応用し、ハードウエアのオープンソース化を目指したものです。システムを構成する上で欠かせないネットワークスタックまで取り込めるようにしました。そうすれば、複雑な回路の設計や製造にかかるコストも時間も大幅に短縮でき、ものづくりの可能性が大きく広がると考えました。将来的にはSUSUBOXをプラットフォームとして、オープンソースコミュニティにハードウエアも取り込めるようにしたいと考えています。

山中氏:私が開発したのは「ソムリエちゃん」というWebアプリケーションです。ニコニコ生放送の番組の中から、自分の観たい番組を見つけ出し、同時に自分好みのランキングを作れるようになります。

―それらを開発したいと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

木浦氏:学生時代から自分のWebサイトを作ったり、受託制作などを請け負っていましたが、アクセスが少ないとアクセスカウンターが上がらないので楽しくありません。じゃあ、どうしたらアクセスを伸ばせるかと考えたのがきっかけです。

相部氏:大学在学中は理化学研究所の脳科学総合研究センターで、脳のアルゴリズムを研究するプロジェクトに携わっていました。そこで初めてFPGAに出会い、それまで様々なLSIを組み合わせて作っていた回路を、FPGA一つで簡単に作れてしまうことを知り、SUSUBOXの開発を考えました。

山中氏:私はネットの生放送が大好きで、番組を観るだけでなく、自分でも生放送を配信したりしていました。よく利用するのがニコニコ生放送というサービスだったのですが、ネットのライブストリームが普及して、今では多い時に6000番組ぐらいの生放送が配信されています。この中から自分の観たいものを、リアルタイムに探し出すのは大変です。アーカイブされた動画なら、タグを基に検索もできますが、ライブではそれも難しい。観たい番組を漏らさずチェックしたいと思って「ソムリエちゃん」を作りました。

木浦氏:どういうアルゴリズムでランキングを作るんですか。

山中氏:再生回数の多さや、笑いを意味する「w」のコメントがたくさん付いているかなど、複数の変数とそれを処理する関数などの組み合わせで、ランキングを作ります。

木浦氏:人によって面白さの評価軸は変わるから、再生数を重視するか、コメント数を重視するか、あるいはそのバランスでランキングを作るか、ユーザーが自由に組み合わせを変えられるわけですね。

山中氏:そうです。ランキングはTwitterやFacebookに公開し、ほかの人が改良を加えることができます。

未踏の成果やスーパークリエータの「称号」が仕事の糧に

―未踏の経験は、今の仕事にどのように生かされていますか。

相部氏:現在は組み込み系の回路や基板設計の受託開発を手がける株式会社SUSUBOXを経営しています。日曜日には、「FPGA-CAFE」というカフェの運営も手がけます。このカフェは、世界的に広がりつつあるオープンなものづくり活動「FabLab(ファブラボ)」の拠点の一つです。ファブラボは、個人では手が届かないような3次元プリンターやレーザーカッターなどの工作機械をシェアして利用する取り組みです。SUSUBOXの原点であるオープンソースコミュニティ作りと共通することから、活動の広がりを支援しています。
 一方で、SUSUBOXを電子基板の開発に生かすことも考えています。具体的には、一から作っていた試作基板を機能分割して、あらかじめ必要なモジュール基板を作っておきます。後はオーダーに応じて、その組み合わせで様々な電子基板を柔軟に構築していきます。試作基板から作るより、ずっと短納期でコストも安く済むのが大きなメリットです。この技術は、未踏でのSUSUBOXの開発経験を生かしたもので、今はどの部分をモジュール化しストックしておけるかをリサーチしている段階です。

木浦氏:私はキヤノンの研究所で、ロボットと情報技術を組み合わせた新規事業の開発に従事しています。未踏プロジェクトの経験は、直接的には今の業務とは関係ありませんが、入社後、私がスーパークリエータに認定されたことが分かり、異動になりました。未踏での経験と成果を、会社が評価してくれたのだと思います。現在の部署では、以前より自由に研究に打ち込めるし、自分の意見にも好意的に耳を傾けてくれます。

PMのサポートによる軌道修正でプロジェクトが成功

―未踏での経験で、良かったことや印象深かったことは何ですか。

木浦氏:優れた能力を持つ、色々な人たちに出会えたことですね。未踏で知り合った仲間の一人とは市民オーケストラでともに活動し、ITと音楽を融合させた、何か新しいことをしようと考えています。

相部氏:私も同感です。それまではハードウエア分野の人との付き合いが多かったのですが、未踏に採択されたことで、ソフトウエア分野の人ともつながりができ、世界が広がりました。またプロジェクトの進め方や予算の使い方など、実務面でのノウハウを得られたことも大きかったですね。

山中氏:私は、PMのサポートがとても励みになりました。プロジェクト開始当初は、好きな番組を見つける手法として、映像や音声の解析、コメントの形態素解析などを試しましたが、どれもうまくいきませんでした。行き詰っていた時に、PMから適切なアドバイスをいただき、今の手法にたどり着きました。親身になって相談に応じてくれて、本当に感謝しています。

―今後の抱負や目標があればお聞かせください。

相部氏:先ほどお話したファブラボの活動を継続し、その輪を広げていくことです。SUSUBOXを利用したオープンソースコミュニティの実現にも積極的に取り組みます。実務面では、電子基板のモジュール製品を早期に事業化することに注力していきます。

木浦氏:未踏ではWebサイトのユーザビリティに関するプロジェクトを進めていたので、その経験を生かし、ユーザーエクスペリエンスについて研究したいと思っています。今のユーザーエクスペリエンスのあり方は、研究者の考えと実務者の考えにかなり開きがあると感じています。両者が歩み寄れる方法論を模索していきたいですね。

山中氏:今は「ソムリエちゃん」を手直ししている段階です。できるだけ早く完成度を高めて、提供できるようにしたいと思います(※)。また開発環境として、自分専用のフレームワークを作っています。一般の方にも使えるレベルに仕上がれば、それもいつか公開したいと思っています。

(※)現在「ソムリエちゃん」は、手直しを完了し公開中。
SommelierChang (β):http://sommelier.nico.sh/

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