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人口動態や地域経済の動向を分析する際、全数調査で行われた統計結果を非常に重視しています。使えるデータは限られますが、マクロ推計で物事を見るよりもはるかに正確です。
ある事象を分析する際、比率だけを見ていても、なぜその数値が変動しているかがわかりません。比率は分数によって表されます。つまり、分母と分子が何の数字で、かつ、それぞれがどのような動きをしているかを見る必要があるのです。
多くの人は、こうした元となる数字を確認せず、前年度対比、前月対比といった変動率だけを見てしまいがちです。このように、物事の本質を自ら確認せず、マスコミや世間の人々が使っている言葉に流されてしまい、「不景気だ」と言われれば、なんとなく不景気だと思ってしまうといったことが起こるのです。
例えば、日本の輸出は98%が工業製品です。2011年の2月までの輸出は好調でしたが、3月には東日本大震災の影響で、自動車や家電の部品などが一時的に打撃を受けました。では、6月の輸出状況はどうだったでしょう?実は、5月には2割減まで回復し、6月には元に戻っていたのです。私も数字を見るまでは、6月はまだ2割減程度かなと思っていました。感覚としてはまだ回復途上にあると思っていましたが、実際の数値はそうではなかったわけです。
このように日本では、個人の感覚や世論の動きと現実とが乖離(かいり)していることが多いのです。

なぜ、正確な数値ではなく、前年度比や変動率といった数値や「不景気」といったような周囲の言動に流されてしまいがちなのでしょうか。当然ですがデータには結果しかなく、分析がありません。「なぜそうなったか」についてはデータを読む人自身が構造を推論し、仮説を立てなければならないのです。
戦後の日本は50年ほどの間、生産年齢人口(15〜64歳の人口)が増加の一途をたどっていました。同じ時期に高度経済成長期が重なり、マーケットは拡大し続けていたわけです。極端なことを言えば、よほど下手なことをしない限り、綿密な分析をしたり、戦略を立てなくても全員が儲かる時代でした。そのような時代を50年も過ごすと、経営者の多くは右肩上がりだった過去の経験にとらわれがちです。
例えば、首都圏の鉄道会社全体の定期券収入が下がっているとします。その中で、1社だけ定期券収入が下がっていないとしたら、どうでしょうか。全体の定期券収入は下がっているのに、なぜその会社の定期券収入だけが下がっていないのか、つまり、その会社が、どのような販売戦略や経営戦略を立てているかを分析するでしょう。そこに経営のヒントが隠されているからです。
しかし、50年間もマーケットが拡大し続けた時代しか知らないと、大部分の人がデータを分析して戦略を立てるという経験を積んでいません。そのため、どこに問題があるかを把握し、対応策を考えられない状態になっているのはないでしょうか。

統計調査には全数調査とサンプル調査の2種類あります。
全数調査は、対象すべてに対して行われる調査です。国民全員を対象として行われる国勢調査がそれにあたります。この経済版が、経済センサスです。
サンプル調査は、情報を得たいと思っている対象全体を母集団とし、そこから選ばれた一部を標本(サンプル)とします。この選ばれた(=限られた)調査対象者(サンプル)の回答を元に母集団全体を“推定”するのがサンプル調査です。手間やコストがかからない半面、詳細を見ようとすればするほど、誤差が生じます。
全数調査では数値に誤差が生じず、詳細な部分まで正確にわかります。国勢調査では人口・世帯、年齢別、就業状態別、産業・職業別など詳細な結果が得られます。その結果は、政策や民間企業の経営判断などに活用されています。同じく経済センサスの実施によって、経済活動における日本の実態が正確にわかるようになります。産業ごとの規模や実態を正確に把握できるようになるので、今後どのような経営戦略をとるべきか、方針が立てやすくなります。
特にGDP(国内総生産)は、計算過程に性質の異なる数字を寄せ集めた「総合指標」であったために、必ずしも実態を正確に反映出来ていないという側面がありました。今後、経済センサスを行うことによって正確な数値が出ますので、より正しい政策や対策が行うことが出来るようになるでしょう。

経済センサスを行うメリットの1つとして、これまでわからなかったサービス業に関する統計数値が正確に集計出来るということが挙げられるでしょう。
かつて日本の主要産業は商業と工業でした。ところが今は、サービス業の比率がどんどん高くなっています。それなのに正確な統計数値がなかったため、実態をきちんと把握できていませんでした。GDPで見るとサービス業全体の売り上げは伸びているので、この業界は活況だとされていました。ところが、業種別に見て行くとその実態はかなり異なります。
例えば、サービス業の中には病院や福祉関係施設があります。しかし、具体的な統計数値が無いために、医療福祉産業が、現在どのような状態にあり、また今後どの程度成長が見込まれる産業なのか、正確に分析することは出来ませんでした。つまり、公共投資を行うにしても、投資に見合った雇用が発生し、GDP拡大につながる産業なのか、そうではないのか、そういった判断がつかなかったわけです。
今後、重要な産業になり得るであろう医療福祉産業や観光産業の実態が、経済センサスの実施によってようやく明らかになるわけです。そうなれば、国家戦略として投入すべき予算もより正確に分かるのではないでしょうか。

経済センサスを行うことで、人口構造と経済の関係性もより明らかになるでしょう。旧来の経済学では人口が減少すると生産が落ちるというのが定式でした。なぜなら需要が減るからです。それなのに、人口が増加しているときと同じビジネスをしていれば、需要と供給のバランスが取れなくなってしまいます。
1996年を境に増え続けていた生産年齢人口が減少に転じました。いまの日本はちょうど変わり目にあります。それにもかかわらず、10年前のビジネスモデルを踏襲し続けているために、ミスマッチが起こっている状態にあります。
一方で、人口が減っていることで生産性が落ちるということは、実はほとんどありません。
例えば、日本で工業付加価値生産性が高い県はどこかご存知でしょうか。工業付加価値生産性が高いとは、少ない従業員数で、多くの付加価値をあげることであり、非常に強力な国際競争力を持っているということになります。
答えは1位が山口県で2位が和歌山県です。両県とも、ものすごく人口が減少しています。それにもかかわらず、生産性が落ちないのは、機械化が進んでいるためです。こうした分析をせずに、旧来からの学説を当てはめ、「人口が減少すると生産が落ちる」と単一的な物の見方をしてしまうことは非常に問題です。
今後は、同じような商品が供給過剰に陥っていないことや、高品質であることをきちんと価格に転嫁できているかなどを、正確に分析していく必要があるでしょう。総じて言えば「ブランド力」が高いかどうかが、内需そしてGDP拡大の決め手となります。

経済センサスの結果は市町村別にも出ます。自治体であれば、調査結果を元に、少ない予算をどう配分していくか、という戦略をどう立てていくかが地域活性化の鍵となります。
先述した通り、データには結果しかなく、分析(=対策)は自分たちで考えていかなければなりません。これまでのように、ある地域で成功したモデルをそのままなぞっても上手くいかないでしょう。
しかし、統計数値は、地域において何が優れているかを明確に示してくれます。特色や産業構造が似通っている地域を探し、なぜ潤っているかを分析すれば、その地域を活性化させるための戦略も見えてくるはずです。
これまで見てきた通り、経済センサスは全数調査ですから、正確なデータから分析することが可能です。今までのように、なんとなく周囲に合わせておけば大丈夫だった時代は終わりました。今後は総論ではなく、各論に注視する時代になります。戦略を立て、それを実行した地域や産業が生き残り、それ以外は淘汰(とうた)されていきます。その意味では、より厳しい時代となるでしょう。
今は、国全体に活気がありません。そういう時だからこそ、企業や地域をいかに元気にしていくかが問われます。その戦略の立案には、経済センサスで得られたデータは必要不可欠になるでしょう。だからこそ、ビジネスパーソンやマスコミ、エコノミスト、自治体などの方々に大いに活用してほしいと思います。
内田裕子氏のインタビューを読む
「日本経済の本当の実力、知りたくありませんか?『経済センサス』は強い日本を再発見する大切なデータ」