「経済センサス‐活動調査」は日本の経済力を知るための調査です。

2012年2月に日本で初めて「経済センサス‐活動調査」が実施される。経済の国勢調査と呼ばれるこの調査は、日本全国すべての企業・事業所が対象となる。「経済センサス」とはどのような調査で、何のために行われるのか。そしてどのような効果があるのか。専門家に話を聞いた。

 経済政策シンクタンクから出している週刊経済レポートでは、読者に理解を深めてもらうために様々なデータを活用しています。氾濫する情報のなかで、もっとも信頼できる基礎データはやはり中央省庁や地公体などが公表している統計です。しかし数多く存在する公的な統計は、それらのデータは収集する目的が違うため、じつは似て非なるものが数多く存在します。極論すれば、どの統計を基準にするかによって、記事の結論が逆なってしまうようなことさえ起こりえます。つまり信頼すべき統計は山ほどあるのに、必要な統計がなかなか手に入りにくいというのが現実です。
 また、ジャーナリストとして自分の足で現場に行って取材し、リアルな現状をレポートしていますが、そのたびに現場と統計データとの間にギャップを感じていました。
 「全体を語らず、部分ばかりが強調されてしまう」、いわば「木を見て森を見ない」典型が公的な統計だったといえるのではないでしょうか。省庁ごとに調査、公表する統計は、各省庁が必要と考えるものであり、いわば異なる目的によって同じような調査が行われてきたと言っても間違いではないでしょう。本来、税金を使って統計を取る本来の目的は、日本の現状を正しく認識することです。正しい現状認識があって、初めて国益にかなう政策立案ができるし、経済活動を支援することもできます。しかし省庁ごとに統計をとることの目的が微妙にずれることで、日本の全体像がかえって見えにくくなっていました。
 今回の「経済センサス」の大きな特徴は調査の目的が「日本の本当の経済力を知る」と明快になったことです。包括的なデータがわかるというのでとても期待しています。

 2011年は日本の企業にとってつらい年になりました。東日本大震災では自動車やエレクトロニクスの部品メーカーが被災。日本中の生産ラインがストップする事態に見舞われました。原発事故後の電力不足、さらには超円高が製造業を直撃。日本で事業を続けることが困難だと、本気で海外移転を考える経営者が急激に増えました。
 さらには10月にはタイの大洪水が日本の製造業に追い討ちをかけました。しかしそれでも、成長するアジアにかける日本企業の熱意は衰えるどころか、さらに強くなっています。
 大企業だけでなく、ベトナムやインドネシアなど、アジアの成長国に進出する中小企業も増えており、そうした動きを地元金融機関が本気でサポートを始めています。
 世界に目を転じれば、新たな自由貿易のルール作りが大きく動き出しました。先進国から新興国へと世界経済の成長エンジンが交代した結果、かつて先進国が作り上げた貿易のルールが機能しなくなってきました。環太平洋経済連携協定(TPP)も、その延長線上で出てきました。どの国も自国にとって有利に貿易ルールを作ることに必死です。先進国が低成長リスクにさらされればさられるほど、成長するアジアへの視線が熱くなります。そのなかで強い日本、新生日本をどう打ち出していくのか。その戦略が重要になってきます。
 その際に東日本大震災の復興が大きなきっかけになると思います。復興事業には総額20兆円を超える莫大な税金が投入されます。ただでさえ疲弊している財政からの捻出ですから、被災地に新たな成長を促し、日本経済全体も躍動するような、復興のあり方が求められています。 
 しかし口で言うのは簡単ですが、実行するとなると難しいことです。地域のニーズも県と市町村とでは大きくことなりますし、被災者の方たちの希望も一律ではありません。いったい、どこにどれだけの投資することが被災地の地域経済にとって最良なのか。被災地全体を常に俯瞰しながら、時々刻々と変化する全体像をつかんで復興を進めて行くことが重要です。復興は10年、20年かかる大事業ですから、途中で軌道修正しなければならないケースもたくさんでてくるでしょう。その際に「経済センサス」で得られる包括的なデータが大きな役割を果たすと考えられます。その柔軟さを担保してくれるのが客観的なデータなのです。

 グローバル化によって世界はどんどん小さくなっています。各国の相互依存関係がこれほど大きくなった時代はありません。欧州危機などはこれからが本番ともいわれており、日本に与える影響もけして小さくありません。そのなかで生き残っていくには、スタンスを広く取り、長い時間軸のなかで戦略を立てていく必要があります。
 日本の経済に限って言えば、復興事業で20兆円を超えるお金が動きますから、ここ1〜2年は強含みで動いていくと予想されますが、強制的に巨額の公共事業が行われることによる景気押し上げは、そう長く続くものではありません。過剰な期待は禁物です。95年の阪神淡路大震災の直後にも、復興需要で日本経済は一時的に押し上げられましたが、消費税の引き上げや医療費負担の増額で景気は一気にしぼみ、そこから日本経済は長いデフレのトンネルに突入してしまいました。これを教訓として生かさなければなりません。
 いま日本は深刻な財政赤字に直面しています。消費増税と行政改革を一体化して進めることがもはや避けて通れぬ状況ですが、それだけでは不十分です。同時に経済成長を促し、税収増をはかる成長戦略が欠かせません。増税、行政改革、成長戦略の3つを同時に行わなければならないところまで来ています。
 増税議論が出るたびに、世論の大多数は反対を唱えてきました。言うまでもなく財源になっているのは、私たち個人や企業が納めた税金です。その税金の使い道が不透明で、無駄があるから、反対意見が出るのです。
 いったいどこに無駄があるのか。どの歳出を削ればいいのか。あるいは限られた財政のなかで、どこに税金を投入すれば良いのか。 “リアリティー”をもって“スピーディー” に判断をしていかなければなりません。そのために欠かせないのが日本の全体像を知ることであり、「経済センサス」による正確な現状把握がそれを手助けしてくれます。

 「経済センサス」を行うメリットは多々あると思いますが、最も期待しているのは各地域、各産業の実態が明らかになる点です。そうなれば、地域経済を担う中小企業や地方自治体、商工会議所なども客観的に自分たちの地域を見つめ直し、強みを見つけることができると思います。何事も基礎となるデータがあってこその戦略であり構想なのです。
 少子高齢化による人口減少の影響を強く受けているのは地方です。農山村では限界集落が増え、多くの商店街がシャッター通りになりましたが、どれだけの地域が前向きな変化を起こすことができたでしょうか。
苦しいのは地方の地域経済だけではありません。大企業も中小企業も、これまでと同じビジネスモデルでは通用しません。多くの企業が「変わらなければ生き残れない」という切迫感を持ちながら、業態を変え、収益構造を変化させ、新たなニーズに掘り越そうと必死になっています。
 そこで「経済センサス」の包括的なデータをいかに分析するか、その力が求められます。そのためにもこの調査は1回限りでは意味がありません。継続することでさらに調査の精度を高め、データが蓄積されていくことで、よりリアリティーのある経営判断が可能になってきます。そのためにも多くの人に「経済センサス」の存在を知ってもらい、調査を依頼する側と調査に回答する側との信頼関係を築いていくことが大切だと思います。

 日本経済は増税と緊縮財政、これから本格的に訪れる少子高齢化社会を踏まえてビジネスをしていかなければなりません。既に、現状を把握し、業態をニーズに即したビジネスに変えて展開している会社の業績は上向いているのです。それら企業に見倣って仕切り直せば、日本はまだまだ十分に戦う力を持っています。
 製造業だけではありません。日本のサービス業や安心・安全で美味しい「日本の食」の力には素晴らしいものがあります。世界と十分にわたりあっていける国際競争力を日本は備えているのです。旧態依然としたビジネス慣行のなかで、小さな殻のなかに閉じこもって、新しい挑戦ができぬままになっている企業が少なくありません。逆に地方都市の小さなお菓子屋さんが、東京進出を果たすことで全国区の大ヒット商品を生み出したといった例も少なくありません。そうした成功事例をひもときながら、新しい市場の発掘、挑戦がどのようなプロセスをたどってきたのか。イノベーションを加速するためにどんなデータを活用してきたのか。そこまで突っ込んだ事例紹介があれば、ビジネスマンに大きな刺激となります。
 これまではマスメディアが企業の成功例などを紹介しても、一部の特殊なケースと受け止められがちでした。しかし、今回の「経済センサス」によって包括的なデータが出れば、成功している業種や地域がそれなりに存在することが明らかになるでしょう。そうなれば、自分たちもただ手をこまぬいているだけではなく、何かやりようがあるのではないかという考え方に変わってくるのではないかと思います。
 我々ジャーナリストが常に感じている取材現場と世論として描き出される日本の姿とのギャップを、多くの人たちにも知ってほしいと思います。
 まずは日本経済の本当の姿を知るためにも、「経済センサス」の調査に参加することが大切だと思います。みなさんも、“日本の本当の実力”を知りたくありませんか?

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