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「面白そうなゲームだな。俺も混ぜてくれよ」――翔太の背後から、兄の拓海が身を乗り出し、モニターをのぞき込んで言った。「お前が熱心にパソコンにクギ付けだから、どんなサイトを見ているのか気になってさ。変なサイトだったら、兄として注意しようとしてだな……」そこまで言いかけて、拓海はモニターを指さした。「で、これは何?」。画面上には、

《バリューチェーンで、ヒトやモノを動かす》

というボタンが点滅している。

「『バリューチェーン』はわからないけど、『ヒトやモノを動かす』なら移動や輸送手段だ。まずは自動車だろうな。でも、この町には自動車メーカーがないんだよな……」と、兄がつぶやいた。そこですかさず翔太が、「こういうときは自動車メーカーを町に作るか、そうじゃなければ工場を誘致すればいいんだよ」と言って、偉そうな表情で兄の顔を見た。

「翔太、お前すげぇな!」。褒められて悪い気はしない。実は翔太は、先ほどまでのブッサンジンとの出会いで、ゲームの"コツ"をつかんでいたのだ。早速、点滅しているボタンをクリックすると、画面の上の方に大きな文字が現れた。

《自動車を作るためには、何が必要?》

「ほらね」。翔太が思った通りの質問が表示された。「そこで、選択ボタンに"自動車工場"が現れるんじゃないかな」。しかし、町のイラストの上には何も現れなかった。「おい翔太、ここ見ろよ」。拓海が指さす先には、巨大なすり鉢状の山があった。その山の麓(ふもと)で、こちらに向かって「お〜い」と呼びかけてくるキャラクターがいる。「出たな、ブッサンジン」。翔太はキャラクターにカーソルを合わせ、クリックした。

「ワタシは"鉄鉱石"のブッサンジン! 鉄鉱石のことならいろいろな角度からお話できると思うんだ」

翔太は面食らった。「えっ? 僕は自動車工場を建てたいんだ。なぜ鉄鉱石?」。すると、「よく考えて。自動車って何からできているかな? ガラスやゴムやプラスチックだって使われているけれど、一番多く使われているのが鉄なんだよ」と目を見開きながら話を始めたブッサンジン。

その勢いに一瞬ひるむ翔太。「たっ、確かにそうだけど、鉄といっても、アナタが扱ってるのはその原料じゃないか。あまりに『遡(さかのぼ)り過ぎる』よ!」と、精一杯、言葉をふりしぼった。

翔太の言葉に、ブッサンジンの目が輝いた。「そう、自動車を作りたければ、まずはそのプロセスを"遡って"みようよ。そうすれば、君が知りたい『バリューチェーン』のヒントがつかめるからさ」。

「僕が『バリューチェーン』について知りたいことも、お見通しなんだ」

「三井物産は総合商社っていうくらいだから、ユーザーの色んなニーズにお応えできるだけの総合力を持っているんだよ」と厚い胸を張るブッサンジン。

黙っていた拓海が、会話に割り込んできた。「自動車も手に入るし、バリューチェーンだってわかる。一石二鳥じゃないか」。「では、まず鉄鉱石の現状について、おおまかに理解しておこう」と、鉄鉱石のブッサンジンはモニターにグラフを映し出した。

「2004〜05年を境に、生産量がグンと伸びているね」と驚く翔太。

「鉄鉱石の生産量は増えているけど、なぜか? それは、鉄の需要が伸びているからだよ」と話すブッサンジン。「確か中国やインドといった、新興国が発展しているからだよな」と拓海が答えた。

「その通り。自動車や家電製品にも鉄は使われるけど、ビルの建材、橋、線路といった基礎インフラに必ず使われるのが、安くて強い素材、つまり鉄なんだ」

翔太はグラフを眺めながらつぶやく。「2000年まではあまり変わっていないよね。……はは〜ん、確かに鉄は必要なものだけど、中国が急成長するまでは、それほど爆発的な需要があったわけじゃないってことか」。

「その通りだよ。1980年代から2003年くらいまで、先進国の成長が緩やかになる中で鉄の需要も少しずつしか増えなかったんだ。その頃までは鉄鉱石の価格も1トン20ドル前後で推移していたんだ。ところが中国などが急速に発展し、鉄の需要が急激に増え、鉄鉱石の生産数量も価格も上昇し始めたんだ」

「すごいね! まさに中国が起爆剤になったんだ」と翔太は目を丸くした。

「グラフでもわかるように、中国でも鉄鉱石は生産されているんだ。しかし、それでも足りない。現在、鉄鉱石の海上貿易量は約10億トンだけど、その半分以上が、中国に運ばれているんだ」とブッサンジン。

「鉄鉱石のブッサンジンは、鉄鉱石の仕事をしているんでしょ。だったら、中国も大事なお客さんなんだね」と拓海。

「もちろん。以前は主に日本のお客様に鉄鉱石を供給していたけど、今は中国も大事な供給先になっているんだ」とブッサンジンはうなずいた。

「でもさ、すべての総合商社がそうやって、鉄鉱石の仕事をしているわけじゃないよね。三井物産には、何か"特別な理由"があるんじゃないの?」と食いつく兄に、思わずあきれてしまった翔太だった。

キラッ! ブッサンジンの目がさっきよりも強く輝いた。「フフフ……いい所に気がついたね。それを語るには、総合商社における『事業投資』という仕事が重要になってくるんだ」。

翔太と拓海は、同時に顔を見合わせた。ブッサンジンの口から、新たな「事業投資」というキーワードが出たからだ。次の瞬間、鉄鉱石のブッサンジンの側にボタンが現れ、点滅を始めた。そこには「ブッサンジンの仕事〈鉄鉱山と事業投資〉」と表示されている。

拓海が翔太からマウスを奪い取り、「早く次が見たい!」と焦りながらクリックすると、画面がレポート記事に変わった。


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