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Digital Transformation あたらしい変革のチカラ

「人×テクノロジーの高い次元での融合」が勝敗を分ける、最高峰のヨットレースを支える技術革新とは

世界最高峰のヨットレース、アメリカズカップの予選となるワールドシリーズの最終戦「福岡大会」を終え、アメリカ、日本、イギリス、ニュージーランド、フランス、スウェーデンの6チームは、それぞれの国の威信を背負い、いよいよ“本気モード”に入った。2017年からはチーム独自の設計開発の自由度が認められた「ACクラス」と呼ばれるヨットによる戦いが始まるのだ。その本質は、セーリングと航空力学のシナジー、そしてビッグデータ分析が呼び起こすテクノロジーバトルそのものである。

“空中戦”がレースのカギを握る
アメリカズカップの戦いが大きく変革する

 2016年11月19~20日の2日間、アメリカズカップ・ワールドシリーズの最終戦が福岡市で開催された。このワールドシリーズ全9戦を通じて用いられたのは、全長13.45mの「AC45F」と呼ばれるワンメイクのヨットだった。しかし2017年から英領バミューダで開催されるクオリファイヤーズ(チャレンジャー選抜レース)、チャレンジャー・プレーオフ(チャレンジャー決定レース)、そして現在のカップ保持チームであるオラクル・チーム・USAと予選を勝ち抜いた挑戦者が1対1で雌雄を決するアメリカズ・マッチでは、全長15mとひと回りサイズが大きく、レギュレーションの範囲内でチーム独自の設計開発の自由度が認められた「ACクラス」と呼ばれるヨットが使われる。

AC45F
アメリカズカップ・ワールドシリーズで使用された「AC45F」。ACはアメリカズカップの略、45は45フィート(13.45m)、Fは「フォイリング(翼走)」の頭文字。以降のレースではより自由度の高い「ACクラス」という艇が使用される。
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 既に各チームともプロトタイプ艇のブラッシュアップやテストセーリングを進めており、アメリカズカップはいよいよ真剣勝負の“テクノロジーバトル”に突入する。

 そこでどんな技術が焦点になっているかというと、2つのハル(艇体)をつなぎあわせたカタマラン(双胴船)型のヨットを水面に浮かせて滑走する「フォイリング」というテクニックである。

 この宙に浮く“ありえない”セーリング性能を持つヨットが登場したのは、2010年2月にスペインのバレンシアで開催された第33回アメリカズカップで、風上側の片方のハルを宙に浮かせて従来の2倍以上の30ノット(時速55km)のスピードで滑走した。続く2013年の第34回アメリカズカップでは2つのハルとも完全に浮上するようになり、速度は40ノットに向上。そして今回の第35回アメリカズカップでは、このフォイリングの技術がさらなるイノベーションを遂げた。最高速度は50ノット(時速92km)に達するという。

 まず艇を宙に浮かせるために重要な要素となるのが“軽さ”であるが、オラクル・チーム・USAのゼネラル・マネージャーでありCOO(最高執行責任者)を務めるグラント・シマー氏は、「カーボンファイバーを使用し、高度な構造設計によって強度を確保することで、大幅な軽量化を実現することができました」と言う。

 ワールドシリーズで使われたAC45Fの重量は、普通自動車よりも軽いわずか1320kgだ。今後使用されるACクラスはそれよりも大型のヨットになるが、同等の軽量化が進められている。こうしてより“飛びやすく”なったことで、アメリカズカップの戦法はどのように変わっていくのだろうか。

 今回のワールドシリーズ福岡大会では残念ながら見ることはできなかったが、クオリファイヤーズ以降のレースでは、単に宙に浮いて滑走するだけでなく、フォイリングしながらジャイブ(風下に向かって進んでいる状態で方向転換する)やタック(風上に向かって進んでいる状態で方向転換する)までやってのけるチームにこそ、勝利の女神がほほ笑むことになるだろう。間違いなく、そういうエキサイティングな戦いになる。