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OSSを意識したビジネスモデルの構築

注目のAIでもOSSが基本に、
金融や家電の分野でも活躍

LPI-Japan <br>理事長<br> 成井 弦 氏
LPI-Japan
理事長
成井 弦 氏

 オープンソースソフトウエア(OSS)は、ミッションクリティカルな基幹システムの領域にも広く浸透するとともに、クラウドやモバイルといったITの新たな潮流を担う中核的な存在ともなっている。例えば、今日、企業の間で熱い注目を浴びているAI(人工知能)の分野でもOSSはなくてはならない存在だ。

 AIという概念が世の中に知られるようになったのは1960年代のことだ。Artificial Intelligence(AI)という用語を初めて提唱したのは、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)などで教鞭を執っていた計算機科学者で、認知科学者でもあったジョン・マッカーシー氏である。AIの研究が進むなかで広く用いられるようになったプログラミング言語のLISPもマッカーシー氏が設計したものだ。

 マッカーシー氏は1964年ごろにLISPのソースコードを公開した。当時、インターネットが存在していなかったこともあり、郵送料など実費を徴収して印刷物や磁気テープで配布した。「そもそもAIは初めからオープンソースという形態で登場してきたわけです。1980年代に到来した第2次AIブームでもOSSのLISPをベースに研究が進み、第3次AIブームといわれる今でも、その流れは脈々と受け継がれています。例えば、ディープラーニング用のフレームワークである『Caffee』や『Chainer』をはじめ、その多くはOSSで提供されています」。LPI-Japanの成井弦氏はこう説明する。

 OSSの活躍の舞台はAIに限らない。OSSは企業の基幹業務を支える重要な存在になっているが、中でも早くからOSSの活用を進めてきたのは金融分野である。世界の証券取引所のほとんどがLinuxを採用していることはその最たるものだ。米国のシカゴ商品取引所の基幹系システムに至っては、Linuxで100%構築されており、日本国内のメガバンク2行が基幹系システムをLinuxで運用している。金融分野だけでなく、家電製品などの組み込みシステムにも使われている。今後、日本国内でも普及が予想されるビットコインの中核技術となるブロックチェーンを利用するためのHyperledgerやEthereumといった技術もOSSで開発したものだ。

Linuxの知識、サポート能力はIT企業に不可欠
Linuxの知識、サポート能力はIT企業に不可欠
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ネットで優秀な人材を組織化、
技術の積み重ねを実現

 AIをはじめとする最先端分野でオープンソースをベースに技術開発が進んだり、企業システムの中で最も高い信頼性が求められる金融分野でOSSが採用されたりしている理由はどこにあるのだろうか。

 この点について成井氏は「技術開発は、先人の研究成果の上に後継者が自分の成果を追加していくことで進歩していく積み重ねの世界です。インターネット上で数々のOSSコミュニティーが活動しているため、世界中のたくさんの優秀な人材の組織化が可能です。技術の積み重ねを高速で実現できるわけです」と、最先端分野の技術開発にOSSが使われる背景を説明する。

 他方、金融分野でOSSが広く採用されている大きな要因として、ライバル企業との違いを出すことがあるといわれている。金融機関はライバル企業と違いを出すため、ITを使って様々な金融サービスを生み出している。最近、Fintechが急速に注目を集めているのもその延長線上にある。技術力があるシステムインテグレーターは、自社開発したアプリケーションソフトと同様の保証をOSSにもつけられるが、クローズドソースソフトウエアではソフトウエアメーカーの規定以上の保証をシステムインテグレーターはつけることはできない。「OSSならソフトウエアメーカーの仕様外のことも実現できるわけです。そうなると、構築するシステムの自由度が高まり、その可能性も大きく広がります」と成井氏は説明する。

“最大の貢献者は最大の受益者”
OSSをビジネスに貢献

 金融分野に限らず、ありとあらゆる業界でITがビジネスの動向を左右する時代が到来しつつある。企業にとって、OSSは今後のビジネスモデル構築の観点からも無視できない存在になってきた。言い換えるなら、今後の企業経営では、OSSを意識した戦略を立案できるかどうかが企業競争力を左右するカギになる。この点について成井氏は2つのポイントを指摘した。

 1つめのポイントは、OSSの世界では最大の貢献者が最大の受益者になることだ。具体的には、企業は得意とする分野でOSSの改善に貢献し、自社開発のコードが採用されれば、その分野で優位性を築ける。スマートフォン、タブレットなどのデバイスに採用されているAndroidのケースはその好例だ。周知の通りAndroidは、GoogleがLinuxをベースにOSSとして開発しているモバイルOS。そのシAndroidの改善に最大の貢献をしているのが韓国のサムスン電子である。「現在のAndroidのコードの多くがサムソン電子によるものです。当然、サムソン電子はAndroidの中で自社が開発したソフトの部分については、他社よりも精通しており、端末の開発・販売でも圧倒的な優位性を確保しています。つまりOSSの場合は最大の貢献者が最大の受益者になり得ます」と成井氏は解説する。

 2つめのポイントは「ソフトパワー」の獲得だ。ソフトパワーとは、指揮権と金銭で人を動かす「ハードパワー」に対比されるもので、“指揮権を持たず”、“金を払わず”して他人を動かす力を意味する。「Linuxの開発者であるリーナス・トーバルズ氏などはその端的な例です。アップルはアイアプリ向けのSDK(ソフトウエア開発キット)をただ同然で配布し、それを使って開発したアプリケーションソフトを世界に公開できる場所を用意することにより、開発者がこぞって膨大なiOSアプリを開発しています。このスキームもソフトパワーの一例といえます」(成井氏)。

 今後の企業経営で重要な役割を担い、ビジネスの推進力となるOSS。企業では、OSSに精通した技術者の育成が重要なテーマとなる。この点について、成井氏は「OSSの基礎はLinuxです。自社が得意とする分野のOSSに強くなり、それをサービスビジネスに展開することを考えたらよいでしょう。OSSの改善の貢献に参加し、またコミュニティーのワーキンググループの責任者を目指すべきです。LPI-Japanでは、OSSにかかわるプロフェッショナルの認定活動を通じて、国内技術者のOSSにかかわるスキルの底上げを推進しています」と話す。

 現在、LPI-Japanが提供しているOSS技術者認定資格は5つ。具体的には、受験者数、認定者数で世界最大規模のLinux技術者認定資格である「LPIC(Linux Professional Institute Certification)」をはじめ、オープンソースのデータベースであるPostgreSQLの技術者資格である「OSS-DB(Open Source Software Data Base Certification)」、CloudStackの技術者を認定する「ACCEL(Apache CloudStack Certification Exam by LPI-Japan)」、OpenStackの認定資格である「OPCEL(OpenStack Professional Certification Exam by LPI-Japan)、そしてHTML5のプロフェッショナルを認定する「HTML5 Professional Certification」である。

LPIC国内各レベル認定者数の推移 2016年8月末現在
LPIC国内各レベル認定者数の推移 2016年8月末現在
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 「LPICの国内での受験者数は延べ28万2000人を数え、既に10万人に上る認定者がいます。こうした活動を通じてLPI-Japanでは、OSSに精通した技術者を育成し、ひいては日本企業のグローバル市場での優位性の獲得に貢献していきたいと考えています」。成井氏はこう力強く語り、講演を終えた。

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