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顧客を知り、強みを生かすデータ分析経営

 今日の業務の現場は、まだデータに基づくマネジメントがなされているとは言い難い。ビッグデータ活用が重要な経営課題とされつつも、実際にはKKD(勘・経験・度胸)に基づく意思決定が主流を占めている。しかし、いつまでKKDが通用するだろうか。「顧客はこう考えるはず」といった過去からの「常識」の枠を外れたところに新たなビジネスチャンスがある。
 2016年9月15日に東京で開催された「データ活用実践フォーラム」では、顧客の嗜好やユーザーの行動を客観的に把握し、自社の強みを生かしながら次の一手を考えるマネジメントに関する講演が行われた。データ活用事例とキーパーソンの講演により、経営者や管理職層に分かりやすい「データドリブン経営」の真髄が語られた。

基調講演 大阪ガス
意思決定プロセスの設計がデータ活用を成功させるカギに

河本 薫 氏
大阪ガス
情報通信部
ビジネスアナリシスセンター所長
河本 薫

 基調講演では、大阪ガスでビジネスアナリシスセンターを率いる河本薫氏が登壇。データ分析を成功に導くための要諦を解説した。

 同氏は、データ分析が業務で役に立つまでには4つの壁があると指摘する。1つ目は、十分なデータをそろえるという「データの壁」。2つ目は、データ分析から期待通りの結果を出すという「分析の壁」。3つ目は、その分析結果を意思決定に反映させるという「活用の壁」。最後が、意思決定の結果を利益に結びつける「効果の壁」である。中でも活用の壁における失敗が多いのだという。その理由を「データ分析者が意思決定プロセスを十分に理解していないからです」と説明する。

 河本氏によると意思決定プロセスは「選択肢→手掛かり→判断→行動→帰結」で構成し、データ分析が主に使われるのは「手掛かり」の段階であるという。大阪ガスでの事例を交えて、データ分析と意思決定プロセスの関わりを説明した。

 同社は、必要な部品を持ち合わせていないがために、修理を即日完了できないことに頭を悩ませていた。そこで、器具の使用年数や不具合情報などを分析して、現場に携行する部品に優先順位を付けた。その結果、修理の即日完了率が20%向上したという。

 これを、意思決定プロセスに当てはめると、①「手掛かり」は、データ分析に基づいて、故障状況から必要となる部品を予測したこと、②「判断」は、携行する部品に優先順位を付けたこと、③「行動」は、保守担当者を説得して優先順位の高い部品を現場に携行させたこと、④「帰結」は、修理の即日完了率が20%向上したこと──という具合である。

 一方、データ活用がうまくいかない場合はどこに問題があるのか。河本氏はその事例を紹介した。大阪ガスでは、販売拠点の維持費を抑えるためにその統廃合に取り組んでいた。どこの拠点を廃止するかを決めるために、過去の集客データを分析。この結果、各拠点の来客者の分布や売り上げなどが明らかになった。これらを統廃合の担当者に見せると、「参考になるけれども、どのように決めればよいか分からない」という応えが返ってきたという。

 これは、意思決定プロセスにおいて、データ分析が「手掛かり」になるだけで、それを基にした「判断」までに至らなかったためである。河本氏は、このケースの問題は、データ分析者が意思決定プロセスを十分に意識していなかったことだと指摘する。「データ分析の結果が、どのように活用され、どんな効果を生むかを想定しなければ成功を収めることは難しいでしょう。工場の製造プロセスを設計するのと同様に、データ分析の前段階として意思決定プロセスを設計すべきです」と強調した。

特別講演 リクルートマーケティングパートナーズ
ビッグデータを活用して学習者のつまずきを防ぐ

萩原 静厳 氏
リクルートマーケティングパートナーズ
まなび事業本部 オンラインラーニング推進室
ビッグデータ エバンジェリスト 兼
リクルート次世代教育研究院
主席研究員
萩原 静厳

 リクルートマーケティングパートナーズの萩原静厳氏は、同社が提供しているオンライン学習サービス「スタディサプリ」におけるビッグデータ活用方法を解説した。  スタディサプリは、小学生から社会人までを対象とした学習サービス。組織的に利用している学校もある。同社は、このサービスを通して、利用者ごとの行動や学習のデータや、学校単位でのテスト成績などのデータを蓄積。それらを分析して、サービスの収益向上や学力向上のためのコンテンツ作りに取り組んでいる。  収益の向上には、無償利用者を有料会員に転換した割合である「CVR(顧客転換率)」の改善に取り組んでいる。「ファネル分析」という手法に時間の要素を加えて、会員の行動を分析。CVRが最大になるようなプランを立案して、会員に提示しているという。  さらに、継続率を向上させるために、理想的な学習行動を数理モデルで解析。この結果「4-3-3-2の法則」を発見したという。これは、会員登録後3週目に動画を視聴した日数が3日以上、4週目に2日以上の会員は、継続率が90%となっていることを意味するものだ。会員が、こうした行動をとるような施策を立案して、継続率の向上に努めている。

AIで学習者の行動を解析

 スタディサプリの学習コンテンツは、「アダプティブラーニング(適応学習)」という手法を採用していることが大きな特徴だ。これは、学習行動から苦手な範囲を把握し、会員ごとに最適な学習プランを提示するものである。萩原氏は、アダプティブラーニングを「学習者のニーズや知識、好みなどに基づいて、適切なコンテンツが適切な方法で適切な時間に学習者に提供すること」と位置づけている。

 アダプティブラーニングを実践するために、同社では人工知能(AI)の研究で第一人者である東京大学の松尾豊氏の研究室および経営共創基盤と共同研究に取り組んでいる。スタディサプリでの学習者の動画視聴や問題解答の学習ログを機械学習の手法の1つである「ディープラーニング」で解析。この結果、小学校5年生の算数において、学習者の「解けない問題」を約30%予測することに成功したという。この結果を、学習者のつまずきの予防に役立てる計画だ。

 同じく東大の松尾研究室とは共同研究で、単元の関係性を分析している。この結果、例えば数学では、「ベクトルと三角関数は親和性があり、近い時期に学習した方がよい」「三角関数よりも先に複素数を学習するべき」といったことが明らかになったという。

 萩原氏は「ビッグデータを活用するようになってから、苦手克服レコメンドなどの形で教育現場の学力向上に向けた取り組みに寄与しています」と成果を示した。