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与信審査の在り方を変えるAI活用

各省庁がAI(人工知能)を新技術の中核に据えるための研究開発予算を設定し、多くの業種・業態でAI活用が広がる中、金融ビジネスでもAI活用が徐々に広がりつつある。特に金融リテールビジネスの与信審査でのAIの活用は、金融機関の競争力に大きなインパクトを与える可能性が高いと期待されている。AIは与信審査をどう変え、活用することでどのようなメリットが生まれるのだろうか。

先行きが厳しいからこそAI活用が求められる

アビームコンサルティング株式会社
金融・社会インフラビジネスユニット
ディレクター
佐藤 哲士

 現在、メガバンク各行の業績は順調に推移している。しかし、人口減少や利回りの低下などの影響で、先行き粗利が低下すると予想される。そうした中で注目されるのが、個人向けの無担保ローンの状況だ。今後、反社会データベースの照会や総量規制の適用など規制が強化され、ビジネス環境は厳しくなる。

 「人口の減少と南関東地区への人口移転によって、地方圏における人口の流出は激しく、3割以上人口が落ち込む県も出てきます。労働人口が減る影響で、2020年以降に預金残高の増加を維持できるのはわずか9都県に留まります」とアビームコンサルティングの佐藤哲士氏は、統計をベースに銀行ビジネスを取り巻く変化の大きさを指摘する。これまで経済規模や資産が減ることがなかったことを考えると、未曾有の状況が訪れることになる。

 さらに佐藤氏は、もう一つの経営課題として「コミュニケーション手法の変化」を挙げる。50代までの個人でスマートフォンを保有している人が半数を超えているという変化を受けて、リテール戦略を立案するに当たってペルソナやカスタマージャーニーと行った手法が求められるようになっているという。

 「こうした経営課題へ対応するために、注目されているのがAIの活用です。厳しい収益環境や人口減少の影響による事業環境のサイズが縮小、さらにコミュニケーション手法の変化といった課題が山積する中で、マーケティングや個人ローンの審査、業務改革といったシーンにどうAIを活用するのかが問われているのです」と佐藤氏は話す。

AIを活用したリテールビジネス改革
AIを活用したリテールビジネス改革
金融機関は今後AI活用などによりコスト削減のさらなる推進、トップライン向上に向けた取り組みを進めていく必要がある
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活用を検討しながらも導入が遅れる与信審査

アビームコンサルティング株式会社
金融・社会インフラビジネスユニット
シニアマネージャー
大田 薫

 金融リテールビジネスへの活用が期待されるAIだが、実際のところはどうなのだろうか。アビームコンサルティングの大田薫氏は「ロボット、IoT、ビッグデータすべてでAIを軸に研究開発が進められ、様々な業種業態でAIの導入と活用が進んでいます。しかし、金融リテールビジネスでは与信審査での導入が検討されているものの、活用が遅れているのが現状です」と課題を挙げる。

 販売やマーケティング、顧客サポートといった業務でのAIの導入の検討や活用はかなり進んでいるが、不正検知や与信審査については、検討している企業の比率も低い上、実証実験段階に留まるケースが多く、実際の活用は進んでいないという。

 大田氏は、与信審査業務へのAI活用が進んでいないのは「頑健性を担保した高精度」と「審査内容の透明性」といった2つの業務固有の理由があると指摘する。

 「特に審査内容の透明性では、期待されていたニューラルネットワークがブラックボックスで透明性がないことで普及が進まず、今でも審査ロジックの透明性が高いロジスティック回帰が主流になっています。ニューラルネットワークの進化形とされるディープラーニングでは、どう説明力を担保するのかが課題になっています」(大田氏)

 しかし、一方でローン市場自体は大きく変化している。既存の金融機関が伸び悩む中、ネット系や流通系の新規参入の金融機関が大幅に残高を伸ばしているのだ。「こうした動的な市場に対して頑健性を担保し高精度を維持するには、与信審査の観点を広げ、市場の変化を吸収する必要があります」と大田氏は語る。

 具体的には、これまでの性別、年齢、職業といった属性情報に加えて、性格や嗜好といった従来活用されていなかったオルタナティブデータを活用することになる。こうした定性情報の活用に力を発揮するのがAI技術だ。

 大田氏は「与信審査におけるブラックボックス化を防ぐためには、与信ポリシーを整理した上で、オルタナティブデータや説明する必要がない特定範囲に対してAI技術を活用することを提案しています」と話す。

与信審査へのAI活用範囲
与信審査の納得感・説明力を担保しつつ審査精度の向上を図るため、特定範囲のデータに対してAI技術を活用していく複数個モデル構成が現実的
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審査の主体は途上与信から入会審査へ

 現在、与信審査の内容説明は入会審査で活用している属性情報や外部信用情報の内容が中心になっている。しかし、新規参入金融機関と競争して勝ち残るには、金利が安いなどのメリットを訴求する必要が出てくる。「与信審査自体も、従来の途上与信主体のリスクヘッジ審査から、入会審査主体のメリット訴求審査へと切り替えが必要になります」と大田氏は語る。

 今まで入会審査は、属性情報と外部信用情報を中心として入会の諾否を判断し、途上与信で精密なリスク判別を行うのが前提のために低額与信を行うリスクヘッジ最優先の審査が主流であり、信用リスクは一定の範囲で審査基準も担保しやすかった。しかし、市場にメリットを訴求するためには、入会審査の時点でより精度を高めることが重要になると同時に、ハイリスクの消費者を判別する必要も高まる。

 「これからは一定のリスクテイクをした審査が必要です。できるだけ早いタイミングで高いリスク判別力のある途上与信に切り替え、リスクを最小限に抑えなければなりません。そのためにAIを活用して参照する取引履歴期間を最大限短縮した途上与信モデルの設計が必要なのです」と大田氏は説明する。

 この与信モデルでは運用サイクルも重要になる。構築時に頑健性が担保されていても、市場のリスク傾向と乖離が生じる可能性があるからだ。「市場環境は常に変化しているために、与信モデルは常に見直す必要があります。そのために精度の高いモニタリング体制とショートスパンでのPDCAサイクルを実現できるモデル設計と環境構築が必要になります」と大田氏は指摘する。

 金融市場や消費者の申し込み傾向の変化、競合金融機関の新たな審査基準などによって、これからの与信審査には大きな変革が必要になる。特に入会審査と途上与信の両方のモデルは大きく変わっていくだろう。そこでは、AIが重要な役割を担う。

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