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みずほFG、APIでデジタル変革を推進

イノベーションを加速する戦略面とシステム面の環境整備

加藤昌彦氏
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社みずほ銀行
専門役員
シニアテクニカルオフィサー
加藤 昌彦

 まず第一に言えることは、みずほは戦略的にオープンイノベーションへの取り組みを進めているということだ。現在2年目を迎えるみずほの中期経営計画の基本方針の一つに「金融イノベーションへの積極的取り組み」が掲げられ、10の戦略軸の一つに「FinTechへの対応」が盛り込まれている。グループを挙げて戦略的に取り組んでいたものである。

 この戦略を実現するためにみずほが注目したのがAPIの活用だ。専門役員 シニアテクニカルオフィサーの加藤昌彦氏は「私たちが重視するのはお客様情報の保護とシステムの安定稼働です。FinTech企業などとの連携で、これまで行ってきたスクレイピング方式ではいくつか改善すべき点がありました」とAPIへとシフトした背景を語る。

 アプリへの口座番号や暗証番号の入力は情報流出のリスクもあり、FinTech企業もそれを望まない。また、銀行側のシステムに負担がかかる点や、サイバーアタックと見分けがつきにくい点なども課題であった。API連携ならこうした課題を回避し、安心してシステム同士を接続できる。

 もう一つの大きな要因は、システムがこうしたイノベーションに対応できるようにデザインされていたということだ。堅牢性を誇る銀行のシステムを外部に開放するのは、一般的には難しいとされる。しかし、みずほにはその環境がすでに整っていた。3年前にサービスインした新たなシステム基盤の存在だ。
「それまでのシステムはインターネットバンキングを開始した15年前に構築したものでした。機能追加を繰り返すことでシステム全体が複雑になり、インターネットバンキング時代のさまざまなニーズに柔軟に対応できなくなっていたため、アーキテクチャーも含めて全面的にシステムを見直したのです」と加藤氏は話す。

 APIを活用する際に、このときに採用した業務ロジックを処理する共通業務AP層と、顧客との接点となるプレゼンテーション層に分けるというアーキテクチャーが功を奏した。業務ロジックは再利用可能な粒度でWebサービスとして実装しており、それを呼び出すAPIを用意すれば、勘定系システムから取得したデータを必要な形に合わせて容易に受け渡すことができるため、既存システムへの影響は最小限にスピーディーにAPIを開発できる。

ニーズに柔軟に対応できるAPIのための新しい基盤を構築

大久保光伸氏
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社みずほ銀行
デジタルイノベーション部
IoT・ビッグデータビジネスチーム
シニアデジタルストラテジスト
大久保 光伸

 みずほのデジタル変革のリーダーであるシニアデジタルストラテジストの大久保光伸氏は「大事なのはAPIで何ができるかではなく、他社と何ができるかという仮説に立ってAPIを用意することです」と指摘する。今の銀行のサービスからの発想ではなく、世の中のニーズと環境変化を踏まえてあるべき姿を追求した結果が、APIという形になるということだろう。

 すでに、みずほのオープンAPIによって顧客のニーズに対応した新たなサービスが生み出されている。残高参照APIを使ったマネーツリーの「一生通帳」では、これまで数カ月分しか持てなかった明細が登録時から一生にわたって記録・保存されるようになった。またネストエッグは、更新系APIを使った自動貯金サービス「finbee(フィンビー)」を開発した。

十川恵美氏
みずほ情報総研株式会社
銀行システムグループ
決済・チャネル系システム事業部第3部
システムエンジニア
十川 恵美

 みずほでは、こうしたAPIを効率的に提供・管理するために、システム面でも新たな仕組みを導入している。日本IBMが提供する、残高照会や入出金明細などのインターフェイスを含むAPI群である「FinTech共通API」と、APIを管理し安全に外部に公開する「IBM API Connect」である。

 APIの開発と運用を行うみずほ情報総研のシステムエンジニアである十川恵美氏は、IBM API Connectについて「APIを公開する機能やAPIを管理する機能、さらにAPIの流量を制限する機能がオールインワンで提供されているので使いやすいですね。外部のシステムとのインターフェイス機能も用意されているので、公開先が増えても登録するだけで済みますし、システムへの流量も個別に制限できるため、従来のスクレイピングと比較しシステムのリソース面の負荷を気にしなくてよくなり安心です」と語る。

山本好孝氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
金融第二ソリューションデリバリー
金融第一ソリューション 金融第三デリバリー
部長 シニア・アーキテクト
システムエンジニア
山本 好孝

 また、日本IBMのシニア・アーキテクトの山本好孝氏は「銀行がFinTechとの交渉を担当し、みずほ情報総研がAPIの登録・管理を行い、私たちがシステム開発を受け持つという役割分担でスムーズに運びました」と話す。外部のノウハウを活用することも、APIという新しい技術を使いこなすうえで欠かせない要素だろう。

(図)みずほFGのAPI連携の仕組み
(図)みずほFGのAPI連携の仕組み
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銀行の枠を超えて広がるAPIによる協業と共創

 さらにみずほは2017年7月、新たな展開を打ち出した。シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるWiL(ウィル)などとの合弁によるBlue Labの設立だ。同社のCTOに就任した大久保氏は「シリコンバレーのスピード感を持って、オープンAPIを活用したビジネス創出を目指したい」と設立の狙いを語る。5分で投資稟議を決済するというスピード感は銀行内部にあっては難しいが、合弁会社なら実現できる。

 設立された2017年7月、Blue Labはさっそく行動を開始する。米国のAirbnb(エアビーアンドビー)とみずほも含めた3社による業務提携契約の締結だ。今後増加する住宅宿泊という事業モデルに対して幅広い顧客基盤を持つみずほと、事業創出支援機能を持つBlue Lab、そして事業ノウハウを持つAirbnbが一緒になって取り組んでいくという。
「APIにはお互いの開発コストを抑制するコストシェアリングの効果もあります。それに銀行としての信頼性が加わることで、新しい事業や新しいサービスへの参入障壁を引き下げることができればいいと考えています」と大久保氏。銀行という信用できる組織がデータ流通のハブになることにより、ビジネスとビジネスがつながり、イノベーションの可能性は大きく広がっていく。

 そうした中でIT部門はどんな役割を担っていくのか。加藤氏は「基幹業務や大きなIT投資はこれからもIT部門が支えていくことになります。それに応えられる知見と人材を持つ部門に変わっていかなければならないと痛切に感じます」と話す。そこで求められるのは、変化の先を見通す先見性と、変化に対応できる引き出しの多さだ。
「APIはシステムのつくり方自体を変えていきます。新たに開発することなく、既存のシステムの組み合わせにより、システムコストを下げ、手間をかけずに新たなシステムを構築することができます。そういう提案ができるSEが企業の競争力を左右することになるのです」と加藤氏。みずほのように、APIをうまく活用して変化に対応することが、企業としての成長戦略につながるのである。

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