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公共建築で魅力を発揮する「PCaPC」

近年、公共建築のニーズや課題に対応した技術として注目度を高めているのが、「PCaPC(プレキャスト・プレストレストコンクリート)」である。これまでも、庁舎、学校、病院、競技場など、幅広い用途の建築物で利用されてきた。その魅力を、パイオニアであるピーエス三菱の代表取締役常務執行役員建築本部長、黒柳辰弥氏に聞いた。
(聞き手は、日経アーキテクチュア発行人、畠中克弘)

株式会社ピーエス三菱
代表取締役
常務執行役員建築本部長
黒柳 辰弥

──建築現場では技能者の構造的な不足が問題視されています。工場で生産するPCa(プレキャストコンクリート)はそうした課題に対応し省力化を図れる部材として注目度が高まっています。

黒柳 工場で生産するPCaの利用によって、コンクリートを現場で打設する必要がなくなりますから、現場の労働力を減らせます。またコンピューター解析で生み出された複雑な形状を実現するには、高度な技能を持つ型枠大工が不可欠ですが、工場で生産するPCaなら限られた人数の技能者で対応可能です。沖縄県の粟国幼小中学校の改築工事では、離島で作業員の確保が難しいことと、生コン自体も供給が困難との理由でPCaが採用されました。PCaの省力化が採用の要因の一つになった事例です。

──どの程度の省力化を図ることができるのですか。

黒柳 躯体工事では専門の作業員が必要になりますが、その一方で、型枠大工や鉄筋工といった高度な技能が求められる作業員の数は半分程度に抑えられます。

 仕上げ工事では、通常は40日ほど必要なコンクリートの養生や型枠の解体が不要になります。PCaを利用すれば、躯体工事終了後すぐ仕上げ工事に移れるわけです。この段階でも作業員の数は減らせます。

鋼製型枠で複雑な形状も
工場生産が意匠性高める

──工期の短縮も図れるわけですね。

黒柳 はい。工期は3分の2程度に圧縮できるはずです。建築物の規模が大きいほどその割合は大きく、例えば床面積2万m2程度の建築物なら、躯体工事だけで工期を半年分くらい削減できる見込みです。工期の短縮を図る狙いから、部分的にPCaを取り入れる例もみられます。

──公共建築にPCaを利用する良さはほかにもありますか。

黒柳 意匠性の高い空間表現が可能であるという点です。例えば東京都港区立の小中一貫教育校である白金の丘学園の体育館では、湾曲した梁で空間を構成しています。また奈良県天理市がJR・近鉄天理駅前で整備した駅前広場「コフフン」では、古墳をモチーフにした円錐状の構造物をつくりました。コンクリートを現場で打設する在来工法では実現できないような特色のある空間を生み出せるわけです。

天理駅前広場コフフン(奈良県天理市)
奈良・天理駅前に整備された駅前広場。古墳をモチーフとした構造物「コフン」にPCaが採用された。工場成型であるため現場打ちのコンクリートでは難しいダイナミックな形状が実現できたほか、防水性や耐震性にも優れる。
粟国幼小中学校(沖縄県粟国村)
沖縄県の離島・粟国島に建設された幼小中学校校舎。離島で職人を確保することが難しく、生コンの供給が困難だったため、PCa構造が採用された。PCa部材を沖縄本島で製作し海上輸送で現地に運搬し組み立てた。

──なぜ、それが可能になるのですか。

黒柳 現場では型枠を組んでその上からコンクリートを流し込むので、特殊な形状をつくり上げるのが可能だとしても、型枠大工に相当な技量が求められます。

 これに対してPCaであれば、工場で鋼製型枠を用いてコンクリートの部材をつくり上げます。しかも型枠の形状そのものに変化をつけられるので、型枠を組む技量がそれほど高くなくても、特殊な形状を実現することができるのです。

──そのPCaの部材を、鋼材で圧着接合して構造体を組み上げるのが、PCaとPC(プレストレストコンクリート)を組み合わせた「PCaPC」という建築技術ですね。

黒柳 そうです。PCとは、圧縮には強く引っ張りには弱いコンクリートにあらかじめ圧縮力を与えることで、その弱点を大幅に改善した構造部材です。復元性に優れ、大地震後の残留変形やひび割れが少ない。また自然に生じるひび割れが少なく中性化のスピードが遅いため、耐久性の高い建築物を実現できます。

 ある企業は本社ビルを建設するにあたって、計画当初は鉄骨造を想定していました。しかし途中段階から構造形式を見直し、いまはPCaPCを採用する方向を探っています。事業継続の観点から、復元性に優れる点が目に留まったようです。

 もう一つ、大スパンの空間を生み出せるというのも魅力です。

──人口が減少していく中、建築物の用途を変更する必要が生じた場合にも対応しやすそうです。

相性よいPCaPCと免震
柱を減らし、荷重を集約

左から:九州支店PC建築部長 池田 龍基氏、東北支店PC建築部長 永浦 勉氏、東京建築支店PC建築部長 和智 美徳氏、代表取締役建築本部長 黒柳 辰弥氏、建築本部PC建築部長 寒川 勝彦氏

黒柳 柱や壁のない広々した空間を確保できるので、用途変更にもフレキシブルに対応できます。用途変更の例ではありませんが、千葉県成田市の国際医療福祉大学では施工中にレイアウトを一部見直しています。現場でコンクリートを打設する在来工法であれば、そうした見直し要望に応えるのは極めて困難です。

──採用実績には、庁舎、学校、病院、競技場などが多く見られます。どのような施設が適しているのですか。

黒柳 例えば、大スパンの空間が求められるものです。そうした空間は鉄骨造でも実現可能ですが、居住性を比べると、コンクリート系であるPCaPCのほうが有利です。

 最近、見られるのは、免震との組み合わせです。実は、PCaPCと免震は相性が良いのです。

 上部構造がPCaPCなら大スパンの空間を確保できるので柱の本数を抑えられます。それに伴い、免震装置の数を減らしコストダウンを図れるうえに、そこに荷重を集約することが可能です。さらに免震装置を設置するコンクリートには一定の精度が要求されるだけに、プレキャスト化された部材の良さも生きます。

──コスト面では在来工法に比べ高いという印象が一般的です。

黒柳 確かに、躯体工事費だけを比べれば高いかもしれません。しかし、建築工事費全体でみれば、工期が短くなるうえに現場経費を削減できるので、決して高くはありません。

──PCaPCの建築技術が社会の中で担う役割をどうお考えですか。

黒柳 PCaPCの建築技術は特殊な形状の建築物で主に採用されてきたという面があります。しかし今後は、技能者不足や働き方改革など公共建築を取り巻く環境の変化を背景に、省力化や工期短縮がより広く、より強く求められる時代です。PCaPCの建築技術は社会の中で重要な役割を担うようになるとみています。

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