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日経ビジネスONLINE Special 週刊日経ビジネスオンライン SPECIAL日経ビジネスオンライン

仕事が変わる、未来が変わる VOL.1

がんは必ず治せる。そう言い切れる時代が間近に迫ってきた。ひときわ目を引くのが、これまでにないメカニズムで目覚ましい効果を示す新薬の開発。だがそれだけではない。病理診断のデジタル化によって、診断、治療、新薬開発の精度が格段に向上しつつある。このことが、医療のプロセス自体を変革し、その未来を大きく変えていく。

 毎年、年末になると多くの「来年はこうなる」本が書店をにぎわすが、その中でも異彩を放っているのが、英エコノミスト誌が40カ国以上で発行している『The World in 20xx』であろう。その最新版で予言されていることの1つに、「2016年、がんの研究が飛躍的に進歩する」というものがある。

 同記事で特に大きく取り上げているのは、「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ぶ新しいメカニズムで「効く」薬品群である。これは、がん細胞が健康な細胞のふりをするのを妨害し、自己免疫力によってがんに対抗するというものだ。現在は、メラノーマ(悪性黒色腫)などの一部のがん治療に使われているが、将来的にはかなり広範ながんに適用できると専門家たちは見ている。

 これ以外にも、がん克服に向けた新治療薬が続々登場している。その代表例が分子標的薬である。がん細胞に発現する特定タンパク質を高精度に識別し、それをピンポイントで攻撃して治療する新薬である。

 こうした新薬の登場は、「分かりやすい」進化である。だが水面下で、同等、あるいはそれ以上のインパクトを秘めた技術革新が準備されている。

 2016年8月、「AI、がん治療法助言」とのニュースを新聞などが報じた。膨大な医学論文を学習した人工知能(AI)が、診断が難しい患者の白血病を10分ほどで見抜き適切な治療法を助言、女性の回復に貢献したという。研究者は「AIが医師の診断をサポートし、患者の救命に役立ったのは国内初ではないか」と話したと報じられている。しかし今後、「がんの診断と最適な治療法の割り出しでは、AIの解析精度はさらに高まり、医師の診断はより正確になる」と予想する専門家は多い。「人の経験と感覚頼り」だった部分を「機械化」することで、人間の学習曲線とはケタ違いの進化を実現させようとしている。

 こうした進化を支えるのが、いわゆる「デジタル化」技術である。コンピューターを活用するには、そこに投入するデジタル・データが必要になる。それができて初めてコンピューターで解析したり、診断を下したりできるようになる。

 その結果として、検査から治療に至る仕事の流れ(ワークフロー)は大きく変わり、このことが検査や治療、新薬開発などに飛躍的な進化をもたらす。つまり、仕事の流れが変わることで、医療の未来が変わるわけだ。

デジタル化の道を拓く

 ところが現時点では、この「デジタル化」は実現されているとは言い難い。例えばがんの病理診断には現在、免疫染色法(DAB法)という手法が使われている。一般に、がんを発症すると、特定のタンパク質が発現する。DAB法では、このタンパク質を酵素と色素発色で染色し、その染色具合でがんの種類や位置、量などを判断することになる。

 ただ、酵素反応を利用したこの方法では、反応温度や反応時間で染色濃度に大きなバラツキが発生してしまう。こうした困難な状況の中で、病理医は診断を下さなければならず、負荷が大きくなっていた。

 ここにメスを入れるのが、東北大学とコニカミノルタが共同開発した「蛍光ナノイメージング」である。ポイントは、発現した特定タンパク質の種類や、位置、量を正確に測定できる点にある。つまり病理切片上での定量的分子イメージング技術だ。可能にしたのは、「蛍光ナノ粒子」という新材料だ。これを使うことで、患者から採取した病理組織のうち、特定タンパク質だけに蛍光ナノ粒子を付着させることができる。この蛍光ナノ粒子を光らせれば、特定タンパク質の種類や位置、量を「従来に比べ、はるかに高い精度で定量化できる」(同社)というわけだ。蛍光ナノ粒子を光らせた状態でデジタル撮影する。これで、デジタル化が実現できる。

 その後は、病理医の判断を交えながら、コンピューターで処理する「デジタルワークフロー」に託す【図】。手作業などの属人的、感覚的な工程を排除することで、処理速度や精度、信頼性を大幅に高められる。この解析結果を参考にすることで診断は正確さを増し、最適ながん治療法を割り出す確率も高まる。そこに世界中のあらゆる医学論文や臨床例を学び尽くしたAIが加わることで、精度と信頼性は飛躍的に高まるはずだ。

 こうした病理診断のワークフローの変革は、がん患者の治療だけでなく、創薬にも生かせる。開発したがん治療薬が効く被験者と効かない被験者に、厳密に層別できるようになるからだ。この結果、新薬開発時の頭の痛い問題だった、治験に要する膨大なコストと時間を大幅に削減できる。患者からすれば、これまでより早期かつ安価に新薬を得られるようになるわけだ。

【図】コニカミノルタが拓く、がんの病理診断のワークフロー
[画像のクリックで拡大表示]

パスツール研究所と共同開発へ

コニカミノルタは、蛍光ナノイメージングのさらに高度な利用法も模索している。同社は2016年6月に、フランスのパスツール研究所と共同で、バイオ・イメージング技術の研究に着手することを発表した。この研究が成功すれば、患者から手術などでがん組織を採取せずに、試薬を血液内に注入するだけで、がんの位置や大きさを知ることが可能になるかもしれない。

 現在は、マウスで実験している。マウス体内で蛍光ナノ粒子が特定タンパク質に付着し、光を当てると発光することを確認済みだ。今後、がんの病理診断や創薬に生かす考えだ。

※本研究の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「国際研究開発・実証プロジェクト/コファンド事業/フランスBpifranceとの国際研究開発・実証事業」プロジェクトの委託を受けている。

「蛍光ナノ粒子」は銀塩フィルムから始まった

世界最高感度(1987年当時)を達成した 銀塩フィルム「コニカカラーGX3200」

 複合機やカメラ、写真フィルムなどで知られるコニカミノルタ(現在、カメラと写真フィルム事業は終了)。その同社がなぜ、「蛍光ナノ粒子」の開発に取り組んでいるのか。そう疑問を持つ方も少なくないだろう。

 開発には、最近取り組み始めたわけではない。その基礎は、写真用銀塩フィルムに向けた機能性微粒子技術にあり、その源流をたどると1970年代まで遡る。当時、銀塩フィルムは感度の向上が求められていたため、高性能な感光材料の開発に取り組んでいた。その後、機能性微粒子技術は、2000年ごろにプリンター用乳化重合法トナー、2005年ごろにマンモグラフィー向けシンチレータに転用された。そして蛍光ナノ粒子の開発につながった。

 このほか光ピックアップ技術も生かされている。同社は、CD/DVD共用光ピックアップレンズなどで高いシェアを獲得していた。そこで培った光学技術が蛍光ナノ粒子の数を正確に測定する撮像系の設計に生きている。

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