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CSV時代の戦略的CSR 「三方よし」で好循環を生み出す

CSV時代の戦略的CSR
「三方よし」で好循環を生み出す

顧客や従業員のロイヤルティーを生み出し、企業の持続可能な発展の基盤となるCSR。そのキーポイントは、時代と共に進化する。最新トレンドと、それを生かすCSRレポートの効果的活用法や発信方法について、駿河台大学経済経営学部教授の水尾順一氏に聞いた。

東日本大震災でCSRに大きな変化が

駿河台大学 経済経営学部教授
水尾 順一

 「CSR元年」と呼ばれた2003年以降、急速に進展した企業のCSRへの取り組み。2010年には、ISO26000(社会的責任の国際規格)が発効し、CSRの基本概念と実践課題が国際的に合意された。これに続く2011年に「CSRは大きなターニングポイントを迎えた」と、水尾氏は指摘する。

 「2011年にはふたつの大きな出来事が起こります。まず東日本大震災。これにより被災地支援のCSRがクローズアップされた。企業による物的金銭的支援はもちろん、ボランティアなどの人的支援も活発に行われました。新入社員研修や復興支援会議の名目で現地を訪れ、積極的な支援に関わった企業も多いです」(水尾氏)

 これが先例となり、今年の熊本地震でも数々の支援が行われたことは記憶に新しい。災害時の復興支援活動は、今後も企業が社会的責任を果たすうえで欠かせない最重要課題と言えそうだ。

企業の普遍的価値であるCSRなくして会社は存続しない

 CSRに転機をもたらしたもうひとつのトピックスが、CSVの台頭だ。2011年、マイケル・E・ポーターが提唱したCSVは、社会的課題の解決と経済的価値の向上を同時に実現する新しい概念として、瞬く間に世界に広まった。

 利潤追求という視点を加えたことで、企業はCSRにより関与しやすくなる。その点でポーターの功績は大きい、としながらも、「CSVはCSRに置き換わるものではない」と水尾氏は強調する。

 頭文字にすれば一文字違いのCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)とCSV(Creating Shared Value=共益の創造)だが、もともとの意味がまったく違う。CSRとはコンプライアンスを含めた企業の姿勢や取り組みを示すもので、CSVはその結果生まれる価値に着目したものだ。

 「いわばCSRは企業の普遍的価値で、CSVはその副産物に過ぎません。CSVばかりに注目し、社会的責任を果たすという本来のCSRがおろそかになっては本末転倒。CSRでメシは食えないと言われますが、コンプライアンスがその底辺にあるCSRなくして企業は存続し得ないことも、また事実なのです」(水尾氏)

ターゲットを明確にした統合報告書の作り方

 CSRレポートは、そうした企業の取り組みを表明する重要な資料となる。だが、最近ではこのCSRレポートを財務情報と一体化した統合報告書として発行する企業も増えてきた。そこに、水尾氏は警鐘を鳴らす。

 「株主や投資家にCSRへの関心を持ってもらうという点では、統合報告書にも意義がある。ですが、一体化されたことでCSRレポート自体がなくなる、あるいはCSR部門もIRと統合されてしまっては元も子もありません。CSRは企業の根幹を成すもので、決して軽視すべきものではないからです」

 それまでは社内に配布されていたCSRレポートも、分厚い統合報告書に置き換われば、一部の人にしか行きわたらなくなる。社員が自社のCSR活動を知る機会も激減してしまう。男女共同参画やワークライフバランスといった労働CSRの取り組みは、社員にこそ発信すべきメッセージだ。誰に何をどう伝えるかを考えたとき、統合報告書では対象や目的がぼやけてしまう懸念がある。

 そこで水尾氏が提案するのが、ファイルを活用した「合体」報告書だ。

「三方よし」の経営理念でサスティナブルな企業を目指す

 「財務報告書や環境報告書、CSRレポート、コミュニケーションブックなど、各関係者に向けた冊子をそれぞれに作成し、専用の紙ファイルに納めるのです。そうすれば必要なターゲットに向けて1冊ずつ、あるいは複数組み合わせた報告書セットを配ることも、全部まとめて統合報告書とすることもでき、臨機応変な対応が可能となります」(水尾氏)

 CSRレポートは、企業への理解を深めるツールであると同時に、他社と比較して自社の強みや弱みを把握し分析する機会を与えてくれる。そうした視点で読めば強力なイノベーションツールになる、と水尾氏は強調する。

 CSRレポートを外に向けて発信することで評価が高まれば、ブーメラン効果で社内にも浸透しやすくなる。

 経営者のメッセージに共感し、実際にCSRの取り組みを行うのは従業員だ。その従業員の満足(ES)なくして、CSもCSRも成り立たない。逆に言えば、ES+CS+CSR(=ECSR)の好循環が機能している会社こそが、「グッドカンパニー」であり「サスティナブルカンパニー」となる。

 「ずっと栄えるサスティナブルカンパニーであるためには、売り手よし(ES)、買い手よし(CS)、世間よし(CSR)で、三方よしを狙う経営理念の全社共有が重要です。買い手と世間に貢献するには、まず売り手である従業員の満足度がなにより肝心。従業員の成長意欲を育み、支援する仕組みを設けて、売り手よしの基盤を整えます。社員の喜びは顧客に満足をもたらし、社会からの支持にもつながる。それが持続可能なビジネスに資する“攻めのECSR”となります」(水尾氏)

 大前提となるのが経営者の明確な理念であり、それを見える化する手段のひとつが、CSRレポートだ。「三方よし」の観点に立ち返ってCSRレポートを眺めてみれば、自己や自社のイノベーションに寄与する新しい発見が見つかるだろう。

●三方よしで「グッドカンパニー」をめざして
経営理念の原型とも言える近江商人の「三方よし」を応用し、従業員満足(ES)、顧客満足(CS)、企業の社会的責任(CSR)を好循環させる「攻めのECSR」を展開。その原動力となるESを高めるには、社員の成長意欲を促す組織づくりと、部下の成長を支援するサーバント・リーダーの配備が鍵となる。