
7月27日のセッションに登壇した小池武氏が所属するWOWOWコミュニケーションズは、衛星デジタル有料放送「WOWOW」のカスタマーサービス部門として1998年に設立。WOWOWをはじめ、多くの企業のコンタクトセンターを受託・運営。WOWOWカスタマーセンターで得たノウハウを他企業のコミュニケーション戦略やデータコンサルティング等のビジネス支援に活用している。
セッション前半では、同社が2012年に発足させたデータ活用プロジェクトの取り組みの詳細とその成果が紹介された。プロジェクトの主目的は「WOWOW加入者に契約を長期継続してもらう」「離反(契約解除)しないでもらう」。つまりはWOWOWに興味を持ち加入してもらい、さらには愛着を深めてもらうことだ。
そのために、270万人(施策開始当時)のWOWOW会員のデータを活用し、「離反しやすさ」を分析した。まず、約400万件ものトランザクションデータ(過去の顧客の加入・離反年月やチャネルなど)を集約。最大ノード分割数を4、末端加入者数を全体の2%以上とするディシジョンツリーを設計し、「離反しやすさ」を目的変数とする分析を行った結果、62のクラスタを構成。1ヵ月の離反しやすさは、最大で約9倍もの開きがあった。この結果を更に分析し、各クラスタごとの特徴がわかれば、どのような人たちが離反しやすいのかが判明し、打ち手を作れる。例えば、離反しやすさ50%のあるクラスタは、主に電話で加入した70代の男性が多いことがわかった。そして、その特徴に合わせた打ち手トークを、コンタクトセンターのコミュニケーターは既存の知恵として持っている。新たに得られた「離反しやすさのデータ」とプロファイルに、既存の「離反を思い留まらせるための打ち手」をかけ合わせることで、離反抑止効果を最大化できると小池氏は語る。クラスタごとの特徴に基づく最適な打ち手を展開でき、同じ対応時間内でのコミュニケーションを濃密にすることができるからだ。
その成果が具体例で示された。会員から解約希望の電話があったとき、コミュニケーターがデータベースに照会すれば、「リテンションカルテ」と呼ばれる画面にクラスタデータとプロファイルが表示される。併せて、経験豊富なスーパーバイザーが事前に入力した「該当クラスタへの最適な打ち手」がトークスクリプトとして表示されるので、嗜好番組のヒアリングや次月番組の視聴提案といった従来の施策に加えたコミュニケーションを展開すれば、結果として高い離反抑止効果を得られるという。
このリテンションカルテを開発したきっかけは、WOWOW会員向けプログラムガイドを開封されないお客様が多くいらっしゃるという調査結果だった。つまり、WOWOWの全てのサービスを知り、活用している会員はより少ないと推測される。そこで解約希望の電話があったとき、「解約をしないで下さい」と情に訴えるのではなく、その会員により合ったサービスを提案することが効果的と考え、限られた時間内で展開するコミュニケーションのなかに、効果的に訴求するための仕組みとして生み出されたのがリテンションカルテなのである。
その離反抑止効果を実証した同社のデータが存在する。約400名のコミュニケーターを、リテンションカルテを使用するチームと、従来通りのやり方のチームに分割。結果、リテンションカルテを使用したチームは、
①当日の抑止結果
②3カ月後の残存数
いずれにおいても、検定上明らかな有意義を得たという。これらは年間ベースで換算すれば、数億円単位の売上に相当する。①を「離反しないでほしい」という目的に、②を「加入者に契約を長期継続してほしい」という目的に照らし合わせると、いずれも有意な効果が認められるといえるだろう。