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健康経営」実践促進セミナー in福岡 開催報告

 「健康経営の実践促進」と銘打った経済産業省主催の全国セミナーがスタートしました。9月9日の福岡会場を皮切りに、10月21日の札幌会場まで計8カ所で開催。健康経営に取り組む地域の中小企業の経営者らが登壇し、全国健康保険協会(協会けんぽ)などの後押しを得た独自の活動を紹介する趣向です。当日の会場の模様をお伝えします。

1.「小さな企業がはじめた健康経営 企業発展の好循環へ」
KDS熊本ドライビングスクール・菊池自動車学校(熊本県)
代表取締役 永田佳子(ながた・よしこ)

設立:1976年、1965年
本社所在地:熊本市、熊本県菊池市
社員数:2社で約90人
主な事業:エコロジーや社会貢献の地域活動も展開。売上げはこの9年間で9%増。

社長就任後すぐ、社員2人を失った

永田氏

 私は7年前まで専業主婦でした。母親の後を継いで熊本市と、近隣の菊池市の2カ所で自動車教習所を経営する会社の社長に転身したのですが、社長に就任して早々に、2人のベテランの男性社員を脳梗塞と癌で失いました。定期健康診断で早期に危険シグナルが見つかり、再検査を受けてくださいと促していても、当時は生活習慣病に対する社員全体の認識はとても低かったのです。2つの教習所を合わせても社員は90人の小さな会社です。家族同然の付き合いをしていただけに、とても悲しい思いをしました。「社員の命を守ることは社長の私の責務である」と健康経営の取組みを始めたのです。

 まず力を入れたのが健康診断とデータ管理です。春の健診で血圧や中性脂肪、肝機能などの数値が悪いために「再検査の必要がある」と診断された社員は直ちに再診を受け、その結果を社内の衛生委員会に文書で報告しなければなりません。ここからが大事です。衛生委員の人たちは「定期的に病院で受診を続けていますか?」とか「毎日、決められた薬を飲んでいますか?」と声掛けに努めています。最初にお話した2人の社員の死因につながった痛みを伴わない生活習慣病は、細やかな管理が必要だと私に教えてくれたのです。

ヘルシー社食は会社が半額負担

 次は食です。社員の昼食にはびっくりしました。カップ麺や店屋物のチャーハンや揚げ物などばかりで、野菜をとっている人はほとんど見かけません。専業主婦だった私にすれば食事は健康の源です。そこで管理栄養士の指導の下でカロリー計算やバランスを考えた社食のメニューを専門の業者に委託して毎日運んでもらうことにしました。1食440円です。高いと思われると利用してもらえないかもしれないので、「えいっ!」と肝っ玉母さんになったつもりで半額を会社で折半することにしました。自己負担分の220円は給与から天引きです。かなりの社員が社食を利用してくれています。

 3つ目が禁煙です。去年の4月から社員は教習所の敷地内を全面禁煙にしました。お客様から「タバコを吸わない教習指導員を」との要望が増え、何度か禁煙プロジェクトを試みてはいたのですが、失敗続きでした。それが、敷地内の全面禁煙を導入してから今年8月までの1年半ほどで社員の禁煙率は48%から82%に上がったのです。

禁煙プロジェクトの成果
禁煙の効果

 禁煙は1人で頑張ろうと思ってもなかなか続けられません。「団体戦」の方が成功率は高いそうですが、一般社団法人くまもと禁煙推進フォーラムとの出会いが成功の鍵となりました。タバコは体に悪いと感じていても、具体的にはどう悪いかはよく知りません。専門医を会社に招いた健康講座の知識の植え付けが非常に役立ったのです。禁煙者には健康推進手当を賞与で加算するようにしました。禁煙100%を目指す私の本気度が社員に伝わったようですが、すべてがうまくいっている訳ではありません。取組みが理解してもらえず、2人の社員が退社しました。

 禁煙がうまく進んでいくと、メタボ対策としての運動が必要になりました。熊本県の健康増進プログラム「くまもとスマートライフ」に加わっています。くまモンのマークが付いた専用の歩数計のアプリを個人のスマホにダウンロードし、会社内で毎日の歩数を競い合っています。若い社員の健康づくりを支援する「ロボリーマンプロジェクト」にも参加しました。熊本大学や全国健康保険協会(協会けんぽ)の熊本支部などの協働事業で、運動や食の改善などで毎日のささやかな個人目標を立て、チャレンジするプログラムです。社員の中には目標が「毎日腹筋10回」だったり「子どものお菓子に手をつけない」だったりと、なんかちょっと情けない人もいましたが、1カ月続けたことで痩せた人もいるんですよ。

朝礼でバースデーソングを歌う

 社員の誕生日の朝礼はみんなでバースデーソングで祝うことから始まります。「たまには気分を変えて」と、南阿蘇の施設を借りて大自然の中での研修会も開きました。社員が健康で元気だと、明るい職場が生まれます。健康経営を始めた当初は「大変だ」「面倒くさい」「何かいいことがあるのか」と、社員は疑心暗鬼だったようです。今では、若いお客様に禁煙を勧めるベテラン社員が現れたり、ソフトボールチームを作って地域の大会に出たりと、なかなか活動的になってきました。私は常々「元気でやる気があるなら、生涯現役でいてほしい」と社員に話しています。人手不足は加速度的に進んでいるからこそ、地方の中小企業にとって「人は宝なり」です。社員にすれば、60歳を過ぎても元気で働けるなら年金受給開始までの空白期間を心配しなくてすみますし、新たな事業展開につながり、会社も発展します。健康経営の必要性は益々増してくるように思います。明日、皆さんの職場で誕生日の社員がいたらサプライズでバースデーソングを歌ってみては。会社の空気が1日、とっても明るくなること請け合いです。

2.「健康健全経営への取組み 社員全員が70歳まで気力・体力・知力を維持するために」
クライミング(福岡県)
代表取締役会長 濵地誠二(はまち・せいじ)

浜地氏

設立:1937年
本社所在地:福岡県みやま市 (*本社機能は同県新宮町)
社員数:77人
主な事業:理化学用ガラス機器などを製造・販売。ガラス加工でも有数の技術を誇る

 メスシリンダーやメスフラスコといったガラス体積計などの製造で福岡県内に3つの事業所を持つわが社の社員は77人です。そのうち男性が45人、女性は32人で、平均年齢はなんと47歳です。どちらかというと中高年が多く、技術が結構必要とされる職場です。この中で残念ながらタバコを吸っている男性社員が15人います。全国平均で喫煙者の割合は約20%と言われていますが、私どもの会社は3人に1人です。禁煙の取組みについては後ほどお話させていただきます。

採用難は中小企業にとって切実な問題

 健康経営の背景には会社の思いと社員の思いの両方があると思います。会社の思いとしては、社員は宝だということです。特に熟練技術者ですね。現在、いちばん難しい仕事ができる社員は69歳です。熟練技術者を育てるには10年、20年の歳月がかかります。ですから、できるだけ長く働いてほしいわけです。それでいて新規学卒者の採用難は中小企業にとって切実な問題です。近くの工業高校の先生から「今年は何名を採用していただけますか」と、お願いをされる時代は終わり、ここ3~4年の新卒者の採用はゼロです。どうやって生産力を維持していくのかとなれば、今の社員に長く、健康で働いてもらうしかないわけです。少量多品種の最たる職場で月に700~800種類の製品を造っています。社員が77名しかいないので、2~3人のチーム編成となるわけですが、チームの誰かが「今日は具合が悪いので休ませてください」となると、漫才で相方がいないのに1人で漫才をするのと全く同じ状態になってしまいます。欠勤対策の意味合いも大きいのです。

 社員の思いとしては、永田社長もおっしゃられたように「60歳を過ぎてから年金受給開始までの空白期間が心配」「元気なうちは現役で働きたい」ということですね。今年4月に就業規則を改定し、70歳まで働ける道を開きました。ただそれは、社員が気力と知力、体力を維持して初めて実現できるものです。そのためには、社員個人が30代後半から健康づくりを一生懸命考えなければいけません。甥が私の後を継いで社長をやっていますが、「わたしたち2人の経営者の思いを伝えるためにはどうすれば」と思っていたところに、協会けんぽ福岡支部から「健康宣言事業所に応募して健康経営を始めませんか」との話があり、健康経営を宣言する事業所となりました。協会けんぽのご支援を受けながら、定期健診の受診率100%だけでなく受診後のフォローの保健指導に力を入れています。

禁煙手当ては手渡しで

セミナー風景

 タバコを吸わない社員全員に月額3000円の禁煙手当を支給しています。支給開始は健康宣言に応募する1年前の春で、実は健康がきっかけでなく、女性社員から「仕事の途中で席を立って一服し、タバコの臭いをプンプンさせて戻ってくる」と、一斉にブーイングが出たからです。ただ、禁煙手当を導入したものの15人の喫煙者は誰一人タバコをやめませんでした。今年の役員会で社長から「だれもやめないのは支給の仕方に問題があるのでは」との意見が出ました。「給与と一緒の銀行振込みだと、禁煙している本人ではなく、奥さんの懐に入るので手当のありがたみが実感できない」というわけです。

 そこで8月から社長が自らタバコを吸わない社員に職場で手渡しをするようにしました。しかも、同じ3000円でも手当の重みをつけようと、銀行にお願いして全部新札です。反響は大きく、15人のうち2人が「タバコをやめたい」と担当者に言ってきたそうです。本当にうれしかったです。知恵を絞れば効果は上がるのですね。やめる決意の2人には、他の禁煙者と同様、本人の署名と同居家族の1人の署名入りの届け出を書いてもらいます。

 女性社員が多いので子宮がんと乳がんの検診を勤務扱いで認め、費用の一部を補助しています。これまでに2人が乳がんの早期発見で手術を受け、現在も元気で働いています。本当に検診の奨励をやってよかったなと思います。

ランニング男子・女子が増えた

 後はやはり運動です。昔から社長はフルマラソンを走っているのですが、社員も引きずられるようにして「ランニング女子」や「ランニング男子」がものすごく増え、社会保険協会主催の地域の駅伝大会に2チームが参加するほどです。運動熱の高まりで昨年の秋、初めて社内の運動会を開催しました。8月には社内教育の一環で健康セミナーを実施し、協会けんぽの保健師さんによる「バランスの取れた食事」の解説は多くの社員にとって目からうろこの話だったようで、好評でした。「タバコによる健康被害の怖ゎ~い話」も同様です。

 社員が健康であり続けることは会社にとっても社員にとっても幸せなことです。そして経営者と社員が一体となった健康への取組みは医療費の削減にも寄与することになるはずです。今後も全員で頑張っていきたいと思います。



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