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「健康経営」実践促進セミナー in仙台

「健康経営の実践促進」と銘打った経済産業省主催の全国セミナーが各地で開催されています。仙台市で行われたセミナーの模様をお伝えします。

1.「健康経営事例紹介 1」
一ノ蔵(宮城県大崎市)
代表取締役社長 鈴木 整(すずき・ひとし)

鈴木社長

社名:一ノ蔵
設立:1973年
本社所在地:宮城県大崎市
従業員数:160人(関連会社含む)
主な事業:清酒製造業

家業から企業への転身が健康経営の契機に

 私どもは日本酒メーカーです。アルコールはWHO(世界保健機関)からはタバコに次ぐリスクのある物質とされています。日本酒はご存知のように「百薬の長」という言葉もある一方で、「過ぎたるは及ばざるが如し」とも言われます。健康を害する側面と促進する側面のどちらも持っているものを作っているということで、他の産業よりもひょっとすると健康への意識が高いかもしれません。

 一ノ蔵は創業が昭和48年なので、日本酒業界では新しい会社です。宮城県内の4つの酒蔵が合併してできました。この業界には100年、200年の酒蔵がごろごろあるので、40年目といっても普通の会社なら5、6年目くらいでしょう。仙台市、塩釜市、東松島市、大崎市という宮城県内の都市部にあり、人口の多い商圏をもった4つの酒蔵が合併しました。創業して4年目に「無鑑査本醸造辛口」という商品を発売し、ヒットしました。当時、日本酒には級別制度というのがありまして、特級酒、一級酒、二級酒がありました。それぞれ税率が違ったわけです。私どもは品質の良い酒を出来るだけ広いお客様に飲んでいただこうと、一級の鑑査に出さずに無鑑査のまま二級で発売しました。品質のいい一級のお酒が二級の値段で飲めるのだから、ヒットするわけですね。スパークリングの日本酒も発売し、企業として大きくなっていきました。

 大きくなる過程で、4つの酒蔵の家業から企業への転身がありました。家業の良いところは残していこうと酒造りに励んでおります。その中で一番大切なのは、杜氏(蔵人)の育成でした。酒蔵は昔は冬の間だけ酒を作る。宮城県の場合、岩手県の農家の方が冬の間、出稼ぎで酒造りに来てくれるのです。雇用条件は杜氏さんたちにとって非常に良い待遇にしないと、翌年、優れた技術者が来てくれないかもしれません。どこの酒蔵もそんな感覚です。それが背景になりまして、若者の雇用促進や待遇について優秀な取組みをしているとして厚生労働省から「ユースエール認定」という認定をいただきました。宮城県の中小企業では初めてです。社員の残業時間が大変少ない、有給休暇の消化日数が大変良い、ワークライフバランスに配慮しているということが理由です。実は、こうした取組みと健康経営への取組みがセットなのです。

社内分煙徹底と社員食堂のメニュー研究

 健康経営の事例では、社員の喫煙率の低下です。平成16年の37%が今年は25%まで低下しました。これは総務課の課長が旗を振ってくれました。社内の分煙も徹底しました。宴席では完全禁煙です。これはやりやすかったです。日本酒には香りがいい吟醸酒もありますから、タバコは吸わないで、と言えばすんなりとできました。社内分煙の徹底では、同時に禁煙も勧めていくわけで、禁煙補助グッズ購入の支援までやりました。健康に関する社員研修や意識啓蒙では特に酒の飲み過ぎについてです。我々は一番上手にお酒に付き合っていかなければならないという背景で社員教育を行っています。直近ではストレスチェックの実施を受け、知識として「ストレスの把握とセルフケア」に関する講演を全社員対象に行っています。

 社員食堂では減カロリー、減塩メニューの導入をしたところ、食堂のスタッフのモチベーションも高くなりました。メニューの研究もお互いするようになったり、本を買ってきて読んだりしています。35歳から受けてもらっている人間ドックでは、胃カメラの差額分を会社が負担します。弊社のオリジナルでは、毎朝の腰痛予防のストレッチ体操です。事務職も含め、朝礼前に全員が参加します。酒蔵は腰痛が本当に多かったのですね。若く、志が高い蔵人でも酒米を運ぶ作業で腰を痛めて引退ということがかつてはよくありました。できるだけ腰を使う作業は、フォークリフトやベルトコンベアを併用して軽減するなどの仕組みを作っております。

 企業の若者雇用の応援と社員の健康ともセットと考えます。社員を募集したときに人が来なくて困ったということは最近はありません。大学を出ても杜氏になりたいといって門を叩く方もいらっしゃるほどです。

2.「健康経営事例紹介 2」
中央測量設計事務所(山形県東根市)
代表取締役社長 石垣卓雄(いしがき・たくお)

石垣社長

社名:中央測量設計事務所
設立:1979年
本社所在地:山形県東根市
従業員数:22人
主な事業:測量設計、用地補償調査、地質調査

中小企業ほど従業員の健康維持が重要

 弊社は今年で創業37年になります。山形県の中心部の東根市にあり、業種は測量設計などです。主に公共事業の土木工事を執行するための前段の業務と考えてください。

 健康づくりに取組んだ経緯ですが、山形県は「健康長寿日本一の実現」を目指しており、弊社も協会けんぽ山形支部が主催した「平成26年度健康づくりモデル事業」に参加しました。そこで、いろいろな健康関連データを分析してもらったところ、全国平均より血圧リスクやメタボリスクが飛び抜けて高い結果になってしまいました。従業員は男性が18人、女性が4人で、平均年齢が46歳なので、それほど高年齢ではないのですが。こういうデータが出たので非常に危惧して、対策を練る事にしました。高血圧やメタボについては生活習慣病に直接結びつきますので、発症リスクを下げ、従業員の健康を維持することは長期的に会社の経営に寄与すると判断しました。特に弊社は20人あまりの会社なので、ひとりでも長期に休まれると仕事が受注できなくなり、経営に影響が出ます。小さい企業ほど従業員の健康づくりが非常に大事だと思います。

 以下に重点を置いて健康リスク低減に取り組みました。まず、すぐ取り組めること、次に継続できること、従業員の負担にならないこと、最後にリーダーを置くことです。高価な健康器具を会社に置いても、ほとんど使わないという事例もありますので、すぐ取り組めて継続できるものはないのかと思って、協会けんぽ山形支部から指導していただいて、メタボ改善にはウオーキングの実施(歩数計による歩数、距離管理)、毎週水曜日に甘味飲料のお休みデーの実施。高血圧の改善では社内に血圧計や体重計を置いて自己管理をしましょうと呼びかけたり、社内の全面禁煙を実施したりしました。ストレスリスクの改善にはレクリエーションを実施し、ボウリング大会を年2回開催しました。

ウオーキングと自己管理で健康改善

 歩数計は全社員に貸与し、1週間分の合計歩数をシートに書かせるようにしています。それを月で集計し、歩行距離を出しています。1日5000歩、「月に15万歩歩こう」を目標に掲げています。歩数だけでは面白くないので、山形県は松尾芭蕉の「奥の細道」ということで、「今月どの辺まで行ったのかな」と県内のウオーキングマップ上に歩行距離を表しています。

 取り組んだ結果ですが、平成26年度には、それまでレーダチャートで全国平均より飛び出ていた部分が少し中に入ってきました。大きな収穫かなと思います。社員に健康意識の機運が出てきたのかなと思います。心も体も健康な職場づくりができれば、それが企業にとっても宝になると思います。

これから健康づくりに取組む企業には、いくつかアドバイスがあります。まず、継続できるメニューを作り、好結果だけを求めない。次に社員の大きな負担にならない。3番目に健康づくりのリーダーを置くこと。リーダーを置かないと、いくらやれと言っても中断したりするので、常時管理できる人を置いたほうが継続できると思います。

3.「特別講演 タニタが実践する健康経営」
タニタ代表取締役社長 谷田千里(たにだ・せんり)

谷田社長

赤字の商品が「健康プログラムに」つながる

 タニタはメーン事業としては健康計測機器を作っている会社です。1992年に世界初の乗るだけで計測できる体内脂肪計(体脂肪計)を開発し、特許も取れて競合がなくなり、企業の財務基盤ができました。ヘルスメーターのパイオニアと覚えていただければと思います。

 最近、様々なものがインターネットにつながるようになると言われていますが、私が2008年に社長に就任した際には、タニタではすでにネットにつながる体組成計や歩数計がありました。ネットにつながったデータを管理する子会社まで作っていました。自社のサーバーを持っていて、アップロードされてくるデータを待ち構えていました。でも商品が売れていないので、データはアップロードされてきません。その結果、赤字の商品と子会社が残されていました。そんな商品はやめるという選択肢もあったのですが、私は高齢化社会が進展すると予想していたので、この商品やサービスをもっと良くすることに力を入れました。使いやすい歩数計を開発したり、内容を変えたりしていきました。

 使いにくくて売れないといわれた歩数計は、社員全員に配って使わせました。当然、社員からは歩数計は使いづらい、データもアップロードしづらいという感想が出てきた。それを、商品企画の担当者にフィードバックして、使いやすくしていきました。社員が使う中で、例えば歩数を競うイベントを実施したり、その結果をランキングしたりということも行いました。その結果、自社の医療費が1割減り、血液検査をすると本当に健康になっているという結果が出ました。そうした中から集団健康づくりサービス「タニタ健康プログラム」が生まれたのです。このプログラムは外販しており、厚生労働白書に2度掲載されたり、厚生労働省の「健康寿命をのばそう!アワード」で最優秀賞を受けたりしています。赤字の商品と子会社を立て直そうと取り組んだことで、会社の柱になりそうなサービスになりました。これがタニタの健康経営のひとつの流れです。

ベストセラー「タニタの社員食堂」で事業が拡大

 レシピ本「体脂肪計タニタの社員食堂」も有名になりました。すごく売れまして、レシピ本では30万部売れたら「ベストセラー」と呼ばれるそうなのですが、シリーズ累計542万部の大ベストセラーになりました。500キロカロリー前後で塩分が少なくて満腹になるという献立が受けたのです。100万部を超えた頃から、「タニタの社員食堂で食べてみたい」という声が会社に次々に寄せられました。そこで「丸の内タニタ食堂」を出店しました。私達は製造業ですが、このようなサービス業も展開したのは、お客様からの声があったからです。その後、タニタシェフ育成コースという制度を整備し、受講された方にフランチャイズ権を与えるという形で多店舗化に乗り出しました。今では全国に26店舗を展開しています。

 この「タニタ食堂」をきっかけに食品メーカーなどとのコラボレーションも始まっています。タニタブランドをどんどん使ってくださいと呼びかけたら、おコメやヌードル、わかめスープ、インスタント味噌汁などいろいろなコラボ商品が生まれました。ただし、わかめスープや味噌汁にはきちんと減塩してくださいとお願いしています。さらには象印マホービン様やシャープ様とのコラボも進めています。

事業で健康寿命の延伸に寄与したい

 タニタ健康プログラム、タニタ食堂、コラボレーション事業。この三つを新たなタニタの柱にしようと思っています。この三つで、国が進めている健康寿命の延伸ができればいいなと考えます。国民の医療費は増えており、これに歯止めをかけるには寝たきりの人を減らせばいいと言われています。私達タニタが手がけている分野が健康寿命の延伸に役立てる位置にいると思っています。企業として一生懸命やった結果、こうなりましたが、今後は世界に向けて健康づくりを進めて行きたいと思います。


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