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富士通が実践する「働き方改革」とは

創立80周年を機に改めて働き方改革への取り組みを開始

宇多村 志伸 氏
富士通株式会社
マーケティング戦略本部
ブランド・デザイン戦略統括部
エクスペリエンスデザイン部
マネージャー
宇多村 志伸 氏

 2015年から始まる富士通の取り組みを説明する前に、それ以前の状況を簡単に振り返っておきたい。同社はすでに1989年度からフレックスタイム制を導入しており、1999年度には再雇用制度も導入。さらに2010年度には在宅勤務制度も導入、これと並行してコミュニケーション基盤も整備・拡大してきた。

 しかし、在宅勤務制度は、個人単位で利用する制度だったため、利用が広がらなかったと佐竹氏は振り返る。「制度の申込みには、上司や同僚の理解も不可欠です。またこの制度を利用することで、人事評価にどのような影響があるのかを心配する声もありました。特定の事情を持った人のための制度であったため、上司を含めた周りの理解が中々進みませんでした。」

 このような反省から、富士通は全社員を対象にした働き方改革の検討を、2014年12月にスタート。その具体的な制度として取り上げられたのが、テレワーク勤務制度だった。「折しも2015年は富士通創立80周年の年であり、『新しいことに積極的にチャレンジできるイノベーティブな組織になれる施策を考えよう』という機運が高まっていました。そのためのテーマの1つが働き方改革だったのです」(佐竹氏)。

 2015年2月には、テレワーク制度の実現に向けたワーキンググループを設置。さらに2015年4月には、約400名を対象にしたトライアルも開始した。ここで注目すべきなのが、デザイン部門が参画したことである。

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ワーキンググループを開催。人事部門だけではなく、デザイン部門も参画し、そのノウハウを活用している

 その理由について「デザイン部門では、2011年から富士通のグループ会社やお客様と共に、未来に向けた働き方のビジョンを創るコンサルティングを手がけていたからです」と説明するのは、現在は富士通 マーケティング戦略本部 ブランド・デザイン戦略統括部 エクスペリエンスデザイン部 マネージャー 宇多村 志伸氏。この実績を知った人事部門から、その手法をぜひ社内の働き改革にも適用して欲しいと依頼されたのだという。

ビジョン策定で活用された「デザインアプローチ」

 ここで活用された手法が「デザインアプローチ」だ。これは、現在の問題や課題を踏まえ「ありたい姿」という将来構想を可視化し、そこから「バックキャスト」によって、実現するための施策を明確化するという手法。その最大の特長は、「あるべき姿」ではなく「ありたい姿」という、内発的かつ共感にもとづいた発想を重視している点にある。「現在は未来予測が行いにくい時代です。このような状況のなかで未来を切り開いていくには、まずは社員の持つ『想い』から、具体的な施策に落とし込んでいくべきです」(宇多村氏)。

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富士通の働き方改革に向け、活用された「デザインアプローチ」。内発的かつ共感にもとづいた「ありたい姿」を可視化し、そこからバックキャストで施策を明確化する

 その第一歩となるのが、ワークショップを通じたビジョン作りである。「まずは関係者が集まり、ビジョンを明確化するための議論を進めていきました」と佐竹氏。ここで重要視されたのが、(以前の在宅制度では救いきれなかった)育児や介護で困っている当事者の社員が、本当はどう働きたいと考えているのか、想いに耳を傾けること。そこで2015年8月に、育児・介護を行っている社員を集めたワークショップが行われた。病中の看護や、通院のつきそいにフレキシブルに対応したいという想いだけでなく、自己研鑚の時間を増やしたい、海外プロジェクトへ参画したいという成長意欲が対話の中で出てきた。それを実現する答えの1つが、いつでもどこでも働けるテレワークだったのだ。「自分の経験も踏まえ、当事者の悩みや、テレワークがあればこのように貢献できるということを周囲の人に分かってもらうには、具体的なシーンを気持ちを交えて「Before-After」で示すのが適切と考えました」と語る宇多村氏。ワークショップで得られたアウトプットから代表的な5つのシーンが抽出され、「仕事と育児の両立に向けたテレワークの活用ビジョン」が、2015年10月に作成されたのである。

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ワークショップのアウトプットを元に作成された「仕事と育児の両立に向けたテレワークの活用ビジョン」。抽象的なビジョンではなく、具体的なシーンを示すことで、理解と共感を促すように工夫されている

 このようにして作成されたビジョンは「わかりやすい」と評価され、「思わず涙があふれた」という人がいたほど多くの社員の共感を集めることになった。特に介護の悩みは上司や同僚に言いにくく深刻になりがちだが、具体的なシーンとして可視化されることで認知が広がり、悩んでいる社員も相談しやすくなると語る佐竹氏。

 また、経営幹部にビジョンマップを示したことで、育児・介護が個人の悩みではなく会社の課題であること、ひいては富士通として取り組むべき社会課題であると認識してもらえたと、宇多村氏はいう。

 さらに、2016年8月には、社員全般に対象を拡げワークショップを開催。これは、「特別な事情のある人だけが使えるということ自体が活用の足かせになっている」という気づきを得たこと、創立80周年の「新しいことに積極的にチャレンジできるイノベーティブな組織づくり」のために社員全員が生産性を上げていく必要があるという人事本部の意識から、富士通としてのテレワークの活用ビジョンを描く意思を固めたからだ。ワークショップでは、トライアル参加者を中心に、マネジメント上の課題を共有しながら、活用シーンを可視化していった。