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人手でしか対応できない業務をAIで自動化

AIとOCRの組み合わせで照合と突合の処理を自動化

金井 潤 氏
資産管理サービス信託銀行
IT・システム統括部 部長
金井 潤 氏

 実はこの処理に2時間を要すること自体がリスクだった。数字が合致しなければ後工程にしわ寄せが及ぶ。しかし、業務が拡大する中でそれを1時間に短縮するには、単純に人数を倍に増やすしかない。人海戦術での対応を避けたいと考えた現業部門としては、業務フローの見直しなどで対応することを報告した。2015年末のことだ。

 この報告を受けたIT・システム統括部 部長の金井潤氏は「すでに株や債券など多くの部分はシステム化されています。この話を聞いたとき、まだ人手で対応しているのかと驚きました」と当時を振り返る。ただ、話を聞くと従来のシステムのやり方では相当のコストがかかるのではないかと考えた。そこで金井氏が思いついたのが、AIの画像認識技術を使って照合できるのではないかというソリューションだった。

 さっそくAIを手がける2社に声をかけたところ、日本IBMから「できるかもしれない」という回答が得られた。そこで出された提案は金井氏の想像していたものとは違っていた。すべてをAIで処理するのではなく、OCR(光学的文字認識)と組み合わせたものだった。

 「技術を組み合わせて使うというのは想定していませんでした。日本IBMのほうで業務の中身を分析した結果、AIとOCRを組み合わせることで、人が行っている突合すべき対象物(証券会社報告書)の認識と、数字の照合処理が行えるという提案をしてもらいました」(金井氏)

 その後、この提案に基づいてプロトタイプを開発し、概念実証(PoC)に取りかかった。WatsonはクラウドサービスであるIBM Cloud上で稼働させることができるため、開発環境のコストと時間が大幅に削減できたことも大きかった。「クラウド上で開発できることでPoCが手軽にできました」と金井氏は語る。

 PoCに携わった生保資産管理部 参事役の伊藤孝一氏は「1度目のPoCにて機械で照合できることは確認できました。あとはWatsonにデータを学習させながら精度を上げていきました」と話す。PoCは合計4回実施され、延べ1年間かけて回答精度の向上や照合処理の高速化、エラー処理などを追加し、2017年3月に「証拠金帳票突合システム」(図)として本稼働した。

過度にシステムの完成度を追求するより、使いながら進化させられるのがAIの良さ

伊藤 孝一 氏
資産管理サービス信託銀行
生保資産管理部 参事役伊藤 孝一 氏

 稼働したシステムは、PDFやテキストなどさまざまな形式で送られてくる報告書をスキャンしてページごとに分割する。そのデータをWatsonの画像認識機能でどの証券会社のものか自動で判定し、帳票の傾きなどを補正して必要な項目の部分を切り出し、OCRにかける。読み取った数字を自社システムの実績数字と突き合わせて整合性をチェックし、正誤結果を表示する。

 システムによる自動化の効果はすぐに表れた。これまで4人で約2時間かかっていた業務が、2人で20分程度に短縮。認識率は9割を超える。「効果は絶大。時間的なリミットと作業そのものの心理的プレッシャーから解放されたことも大きい」と北浦氏は話す。今後は処理量が増えても無理なく対応できる体制が整ったため、安心して事業を拡大できる。

 伊藤氏は「ユーザーインターフェースや照合ロジックなどで、過度にシステムの完成度を追求するより、早く果実を収穫したほうが得るものが大きいと判断したことが功を奏しました」と指摘する。照合の精度がある程度上がったところでシステムを動かし、あとは数値などを認識できない場合だけ人手でカバーするという対応で臨んだことでスムーズなランディングが図れたという。

 「人がやってもパーフェクトはありません。コグニティブ(認知型)・コンピューティングは、学習しながら人が行っていることを支援するもの。使いながら進化させられるのもAIの良さです。実際にWatsonの画像認識機能は向上しています。今後はこの成果をほかの領域にも広げていきたい」と金井氏。

 今回の成功は同業務の自動化だけにとどまらない。「人手でしか対応できない」と諦めていた業務でも自動化できることが証明された。AI活用がどこまで広げられるのかは、利用する人間の想像力にかかっているのである。

証拠金帳票突合システム
(図)証拠金帳票突合システム
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