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エプソンの、価値創造を軸にした4つのイノベーション

第1回 4つの領域で変革を表明

オフィス向けインクジェットプリンター戦略説明会での碓井社長
5月に発売するフラッグシップモデル 高速ラインインクジェット複合機/プリンター『LX-10000F』


 セイコーエプソンは2017年2月2日、東京都内で「オフィス向けインクジェットプリンター戦略説明会」を開催した。現在、オフィスで使われているプリンターの多くはレーザー方式だが、同社は高速、高画質印刷が可能、かつ低消費電力で環境にも配慮した新製品の投入により、インクジェット方式をこの分野の主力に育てたいとしている。

 登壇した碓井稔社長は「テクノロジーシフトを起こし、新たな市場に挑戦したい」と語り、シェア拡大への意気込みを示した。ビジネスを取り巻く環境が大きく変化する中で、同社はどのような戦略を持って成長をめざしているのか。

創業以来培ってきた「省・小・精の技術」

 エプソンは1942年に腕時計の部品製造、組み立てを行う企業として設立。以後70余年にわたり、数々の独創的な製品を世に送り出している。有名なものとしては小型デジタルプリンター「EP-101」、クオーツ腕時計「アストロン35SQ」、写真画質を謳った高性能インクジェットプリンター「PM-700C」などが挙げられる。いずれも世界に先駆けた斬新な製品で、独自開発の技術が多数採用されている。それは企業理念にも表れており、同社が掲げる「Exceed Your Vision」には、常に自らの常識やビジョンを超えて挑戦し、顧客に驚きや感動をもたらす姿勢が凝縮される。

エプソン流の垂直統合型ビジネスモデル
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 これを実現するため、同社ではコアとなる技術、デバイス、そして製品まで一貫して自社で開発、製造、販売を行う垂直統合型のビジネスモデルを構築した。分業化が進んだ現在、製品の心臓部となるデバイスを他社から調達したり、製造を外部に委託したりするメーカーは決して珍しくない。だが、同社はこれでは顧客の期待を超える価値の提供が難しくなってしまうと考えた。創業以来長年培ってきた強みである省エネルギー、小型化、高精度という「省・小・精の技術」を磨き、顧客ニーズを具現化する製品群を作り上げる。

4つのイノベーションで新たな価値を生み出す

 2016年3月、エプソンは新たな長期ビジョン「Epson 25」を発表した。本ビジョンでは、2025年度の目標を売上高1兆7000億円、事業利益2000億円と設定。同時に、時代の変化に対応しながら持続的な成長を遂げる戦略を示した。(※事業利益は、国際会計基準(IFRS)の適用にあたり、エプソンが独自に開示する日本基準の営業利益とほぼ同じ概念である利益。)

 同社はこれに先立ち、2015年を最終年度とする長期ビジョン「SE 15」を策定し、ビジネスモデル転換や新規領域の開拓に取り組んできた。「Epson 25」は、その中で明らかになった課題を克服しつつ、さらなる飛躍をめざすものだ。企業としての在り方を表すビジョンステートメントは「“省・小・精の価値”で、人やモノと情報がつながる新しい時代を創造する」と定める。これは、先に紹介した「省・小・精の技術」がもたらす価値によって、顧客満足度を高めるとともに、新たな市場を開拓することを意味している。エプソンは、「省・小・精の価値」の提供により、4つの領域でイノベーションを実現しようとしている。

エプソンが提供する「省・小・精の価値」

 インクジェットイノベーションでは、マイクロピエゾ技術の進化を推進する。電圧をかけるとピエゾ素子は変形する。マイクロピエゾ技術は、その力を利用してインクを飛ばして印刷する仕組みで、同社が独自開発した技術だ。他社製品で主に使われるサーマル方式(ヘッドを加熱してインクを吐出する仕組み)と比べ、より精密な制御が可能なことから高速、高画質な印刷を実現する。熱を使わないので、様々な種類のインクが使え、幅広いプリンターラインアップが展開可能。低消費電力なので、より高生産性領域への拡張性もある。また、レーザープリンターに比べ、構造がシンプルでメンテナンスが容易なのも特長。次世代オフィスプリンティング市場の主力を担う製品群として、提供していく方針だ。

 ビジュアルイノベーションでは、マイクロディスプレイ技術とプロジェクション技術がキモとなる。基盤となる光源や光制御技術を駆使した表示性能の向上をはじめ、プロジェクション技術を応用した新たな空間デザインや実用的なAR(拡張現実)を提供し、表現力と顧客満足度を高める。ビジネスと生活のあらゆる部分で、感動の映像体験と快適なビジュアルコミュニケ―ション環境の創造をめざす。

 ウエアラブルイノベーションでは腕時計づくりのDNAを基盤に、身に着けて各種情報を取得・計測するセンサー類を搭載するなど、個性的な製品を提供する。同社のウオッチ事業は精密加工、ムーブメント開発などの分野で多くの固有技術を持つ。他社の追随を許さない開発力が大きな強みだ。

 ロボティクスイノベーションでは、「省・小・精の技術」に加え、センシング技術、スマート化技術を融合したコア技術を磨き、さまざまな生産工程に対応する自律型双腕ロボットなどを開発。製造に限らず、サービスなどあらゆる局面でロボットが人々を支える未来を実現したいとしている。

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 碓井社長は「エプソンは、リアル社会で実体のある究極のモノづくり企業だ」と強調する。これは、インターネットに代表されるサイバー空間での展開は各IT企業との協業の形を取る。一方、リアル世界においては自らのリソースを活用し、“自前”の垂直統合型ビジネスで新しい価値を創造する、ということを意味する。その価値を高めるキーワードは「スマート」「環境」「パフォーマンス」の3要素だ。いずれも「省・小・精の技術」がもたらすアウトプットと捉えられる。

モノづくりへの「こだわり」が成長の秘訣

 「Epson 25」で掲げた目標を達成するため、同社は期間を3つに分けて中期経営計画を発表している。このうち2016年度から2018年度の第1期は成長基盤の創出と製品開発の仕込みを行う期間として、基礎固めに注力する。記事冒頭で紹介したインクジェットプリンター戦略説明会は、その取り組みが具体化したものである。

 文書の電子化、ペーパーレス化が話題になっている現在、プリンター市場は全体的に停滞感が漂う。同社はその状況を踏まえた上で、「紙」を普遍的なコミュニケーションツールとして捉える。高速・高画質印刷が可能で、かつ低消費電力で環境負荷軽減に貢献できるインクジェットプリンターを投入することで、この空気を打破しつつ新たな市場開拓をめざす。

 ちなみに碓井社長は技術者として入社し、長年インクジェットプリンター開発に携わってきた経歴を持つ。人一倍、技術に対するこだわりは強いはずだ。絶えず技術を磨き、自社でしか創造できない製品を生み、顧客への価値提供を実現し続けることで「世の中になくてはならない会社」になる。その「こだわり」こそ、同社のモノづくりを支える原動力なのは明らかだ。

長期ビジョン Epson 25 各領域についてはこちら ⇒