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持続可能なビジネスの基盤は緑のサイクル「森林農業」を支援し地域との共生を図る

インドネシアの製紙会社APPは、2014年の国連気候変動サミットにおいて「自然林伐採ゼロ」を内外に宣言。それを可能にしたのは、広大な自社植林地に木を植え、それを原料に紙を作り、さらに違法伐採から森を守るためのさまざまな仕組みをつくり上げたからだ。APPが構築した「持続可能性サイクル」と森を守る最新の取り組みについて、エイピーピー・ジャパンのタン・ウイ・シアン氏が講演した。

 エイピーピー・ジャパン(APPJ)は、APPグループの日本における販売会社として1997年に設立された。現在、コピー用紙など情報用紙の日本市場におけるシェアは約25%を占めている。その他にも印刷用紙、食品パッケージなどの産業用紙、ティッシュペーパーなどの家庭紙も展開している。紙パルプの年間合計生産能力はインドネシアと中国を合わせて約2000万トン。製品は150カ国以上に向けて販売されている。

 APPはインドネシアの複合企業「シナルマス」グループの一員である。金融サービス、不動産、食糧・食品、エネルギー・インフラなど、シナルマスは多角的に事業を展開しており、そのなかで紙パルプ事業を担うAPPの売り上げは約1.5兆円、グループ全体の半分を占めている。

持続可能性サイクルを構築し
「自然林伐採ゼロ」を達成

エイピーピー・ジャパン
代表取締役会長
タン・ウイ・シアン

 APPの事業の特徴は、先進的な持続可能戦略を推進しながら、製紙業界では世界の最先端を行くグローバル展開をしている点にある。2013年にAPPは自然林伐採ゼロを実現し、製紙業界で唯一、2014年9月開催の国連気候変動サミットにおいて「森林におけるニューヨーク宣言」に署名した。自然林伐採ゼロは、製紙会社として非常にハードルが高いことだが、それを達成できたのは「持続可能性サイクル」、つまり「木をうえる」「紙をつくる」「森をまもる」取り組みによって「自然林伐採ゼロ」を実現する仕組みをつくり上げたからだ(図1)。

 持続可能性サイクルのベースにあるのが、2013年2月に発表した森林保護方針(FCP)である。FCPは、①自然林伐採の即時中止、自然林保護の推進と信頼性の高い原材料供給の確保、②CO2排出量削減の促進と絶滅危惧種の生息地の保護を目的とした泥炭地管理、③先住民コミュニティの権利保護や良好な関係の構築による地域の活性化、④すべてのサプライチェーンにおける環境規則の完全順守の確認という4つの柱で構成されている。

 では、APPが実践する持続可能性サイクルについて紹介していこう。まず「木をうえる」取り組みでは、インドネシアと中国に140万ヘクタール、東京都の面積の約6倍という広大な自社グループ植林地を所有し、植林から育成、収穫、そしてまた植林という周期を6年ごとに繰り返す「緑のサイクル」をつくり上げた。さらに2015年には、環境経営の透明性を確保するために、日本の森林認証SGECとも相互認証している国際的な森林認証PEFCによる第三者認証を取得している。

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 「紙をつくる」取り組みでは、自社植林地から調達した認証材を100%使用し、透明性・信頼性の高い製品を提供している。実は、APPの最大の強みは、そのビジネスモデルにある。紙の原料である木材の育成から、パルプ工場、製紙工場、加工工場などの製造工程、最終製品である紙製品の販売まで、垂直統合型のビジネスモデルを実現している(図2)。これによって、グローバル展開においても製品の安定供給とトレーサビリティを確保でき、信頼性の高い紙製品を世界中のお客様に提供することができる。

 さらに「森をまもる」取り組みでは、環境NGO(非政府組織)や行政とのステークホルダー協議を開催したり、森林保護のための基金を創設したりとさまざまな取り組みを実施している。

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森林保護方針がさらに進化
500の村落で「森林農業」を展開

 2015年、森林保護方針(FCP)はさらに進化を遂げた。「森をまもる」ための取り組みとして、総合森林農業システム(IFFS)をスタートしたのである。

 これは、インドネシアの森林とその周辺で暮らす人びとに対して、家畜の飼育や農業技術などの生計手段を提供し、経済発展を通じて地域コミュニティを支える取り組みである。なぜ、一企業がそこまでするのかといえば、森林周辺地域では貧困のために違法伐採をせざるを得ない人びとが少なくないからだ。生計を立てる代替手段を提供することによって、森林減少や森林火災のリスクを低減していくのが狙いである。

 2016年以降、IFFSとして、APP管理地周辺の500の村落を目標にアグロフォレストリー(森林農業)を順次開始している。現地のステークホルダーと連携して、ゴムや米や野菜の栽培、魚の養殖などの火を使わない農漁業で生計を立てられるように支援している。また、地球温暖化や生物多様性保全のために森林が非常に重要であることを啓発する教育なども行っており、こうした活動を通して地域コミュニティとの共生を目指している。

 また、2016年は「総合火災管理戦略」もスタートさせた。前年の2015年にエルニーニョ現象に伴う高温乾燥により、インドネシア全土で山火事が頻発したことを教訓にしたもの。2000万米ドルを投資して、消防士や消防団員の増員、消防車や消防ヘリ、送水ポンプなどの配備、パトロールの強化、防火計画の策定、精度の高い熱探知カメラの導入など、ソフトとハードの両面から森林火災の防止策と管理を強化した。

 APPは国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも積極的に取り組んでいる。2008年にミレニアム開発目標(MDGs)への取り組みを開始し、2015年のSDGsへと活動を継続させている。SDGsでは全部で17の目標が定められているが、APPでは先に述べたFCPの実施計画を通じて、そのうちの14の目標に取り組んでいる。特に森林の持続可能な管理、貧困撲滅、健康と福祉、クリーンエネルギー開発、産業と技術革新の基盤構築、気候変動対策については、全面的な取り組みを行っている。

 エイピーピー・ジャパンは、日本国内の企業や教育・政府機関、環境保護団体、メディアとの連携にも積極的だ。特に大学などの研究機関とは継続的に交流や植樹活動を続けている。こうした取り組みが評価され、APPは2016年6月および2017年5月の国際エコプロダクツ大賞など、さまざまな賞をいただいている。今後もSDGsのさらなる推進、地域社会との共生と森林保護を一体化させた新しいビジネスモデルの構築を目指していく。

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