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第1回・米スタンフォード大学の櫛田健児さんに聞く

働き方改革の目的は「競争に勝つこと」

髙橋:日本では「働き方改革」が企業の大きなテーマになっています。良い会社と認められるためには、働き方改革に取り組まなければならない、というムードが広まっています。米国から見ていると何か違和感を持ってしまうのですが……まず伺います。米シリコンバレーではどんな働き方が求められているのでしょうか。

櫛田さん(以下:櫛田):とりわけスタートアップの場合、劇的な競争に勝つことが最大の目的です。そのためには、優れた人材にがんがん働いてもらう必要があります。こちらは人材の流動性が高く、優秀な人ほど他社から声がかかります。企業は必要な人材を社内に留めておくために、常に刺激的なプロジェクトあるいは役割を社員に与え続けなければなりません。

 例えば、動画配信サービスを手掛けるネットフリックスの場合、社員をあれこれと管理しません。優秀な人間ほど会社にしばられるのを嫌うからです。休暇をいちいち申請する必要がなく、出張費も5000ドル以下ぐらいだったら自由に使っていい。結果さえ出していればどんな働き方でもよく、うるさいことを言いません。

 一方で、「この人がいないと困る」という人しか残らない人事制度を導入しています。チームリーダーがメンバーを評価するに当たって、それぞれに「この人は絶対必要か」ということを判断し、「イエス」の人は雇用が継続されますが、「ノー」の人は会社を去ることになります。それぐらい厳しい。こちらはすべて結果勝負なのです。

 競争に勝つこと。米国では働き方を改革する目的は、はっきりしています。では、日本はどうか。そもそも日本の働き方改革の目的が何かよく分からない。仮に長時間労働や労働環境の改善だとして、それが競争に勝つことにつながるかどうかが見えません。

 多くの場合、日本で評価されるのは努力賞。「この人はよく頑張っている」と。面白いことに、米国の大学院を志願する日本の学生の推薦状には大体「この人は真面目で非常にハードワーカーだ」と書いてある。ほとんどの日本人がそうなんですけどね。何の参考になりません。グローバルで戦う場合、どんなに頑張ったとしても、負けたらおしまいです。

髙橋:そのあたりが日本の働き方改革の問題点と言えそうですね。

櫛田健児(くしだ・けんじ) 氏
スタンフォード大学アジア太平洋研究所日本研究プログラムリサーチスカラー。キヤノングローバル戦略研究所インターナショナル・リサーチ・フェロー。NIRA総合研究開発機構客員研究員。東京のインターナショナルスクールを経てスタンフォード大学で経済学と東アジア研究を専攻、カリフォルニア大学バークレー校で政治学博士を取得後、現職に。IT(情報技術)のイノベーションやシリコンバレーの経済エコシステム、クラウドコンピューティングや政治経済、日本のITガラパゴス化現象などを中心に研究
写真:Rodney Searcey