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第1回・米スタンフォード大学の櫛田健児さんに聞く

「出社時間」「食事」「いす」、生産性向上に直結

櫛田:最終的に企業は勝たなければならない。それにマッチした働き方をどう上手に組み上げられるかがポイントでしょう。結果として勝たなければ努力賞は完全な無駄で、より効率よく働いて結果を出して勝てれば、そのほうがよいでしょう。

 例えば通勤ラッシュ。満員電車に揺られて出社して、どれだけ頭をフル回転させて、どこまで効率よく仕事ができるでしょうか。競争相手が満員電車に乗らないでそのままガツッと仕事を始められていたら、どうですか。満員電車で神経や体力をすり減らしていない人のほうがパフォーマンスはいい、時間の経過とともにそれが顕著になるとしたら、どうしたらそれを避けられますか。

 例えば会議は、重要なもの以外は朝10時半前にやらないようにする。すると、みんな思い思いの時間に出社します。ある人は通勤ラッシュを避けて、それこそ朝5時ぐらいに来て、午後3時になったら「失礼します」と帰り、またある人は午前10時すぎに出社して、そこから集中して仕事をするかもしれない。

 スタンフォード大学でも睡眠の研究がずいぶん進んでいますが、人間にはそれぞれ睡眠のリズムがあることが分かっています。朝型の人が無理やり夜型にしてもパフォーマンスが上がらない。例えるなら、短距離走の選手にマラソンのトレーニングをさせるようなもの。夜型の人も同様です。

髙橋:闇雲にやらせるのではなく、効果を見据えてでないといけませんね。

櫛田:ある程度、実験もできますよね。例えば、会社で使っているいすは、自宅のいすより座り心地がいい場合がほとんど。家で作業をするのはいいけれど、数時間で生産性が落ちてしまうかもしれない。自宅で1日8 時間、集中して仕事ができるか、1週間ではどうか。1カ所で落ち着いてやるのがいいか、あるいは自宅で2、3時間ほど作業をしたら、シェアオフィスで2、3時間、また家に戻って、というのではどうか。会社の机に8時間いるときと比べてどうか。どうすると一番生産性が高いのか。そこは実験をしたり、社員に聞き取りをしたりしてデータを取ればいいと思います。集中の度合いも最近はJINSメガネで測れるものがありますよね。

 人によっても違いますよね。午前中ものすごい集中力を発揮するが、3時間ぐらいしか続かないとか、個人ごとに傾向が分かったら、各人の1日のスケジューリングも最適化できますよね。A社の社員は集中の度合いが最も高いときに一番働き、B社の社員は各自適当だったとしたら、どちらがいずれ強くなるかは明らかです。

 さらに言えば、食事も関係しますよね。これも実験できます。社員に「今週は食堂のお昼ご飯を食べてください。来週はいつものように添加物が多い出来合いの弁当を食べてください」と指示をして、集中の度合いやパフォーマンスの違いを測定すればいい。

 シリコンバレーでは、グーグルがフィットネスセンターや社内食堂を設けて反響を呼んでいます。いすに座りっぱなしではなく適度な運動をさせ、健康的な昼食を与える。なぜそこまでやるか。理由は簡単で、そのほうが社員のパフォーマンスが高くなるからです。快適にパフォーマンスを高める環境を与えられないと、良い社員ほどそういう環境で刺激的な仕事内容を提供するところに流出し、場合によっては競争相手にもなってしまいます。

髙橋:働き方改革はここまでしなければいけないのですね。その点、中堅中小企業はフレキシブルに動けるし、データも取りやすい。大企業に比べて、取り組みやすいかもしれません。

櫛田:そうですね。中小企業はトップさえきちんとリーダーシップを発揮すれば、目的意識をしっかり持った働き方改革ができるのではないかと期待しています。

髙橋明希(たかはし・あき)
1976年東京都生まれ。獨協大学卒業後、竹の塚モータースクールを経て、2001年武蔵境自動車教習所に入社。09年に社長就任。早稲田大学大学院修了。米スタンフォード大学留学を経て、2017年、米シリコンバレーに日本と米国の事業の橋渡しを手掛けるコンサルティング会社、ブリリアントホープを設立
写真:Rodney Searcey