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第3回・スタンフォード大学のリチャード・ダッシャー特任教授に聞く

会社を辞めても、パートナーシップ組める関係を

ダッシャー:どうしても日本は内と外の区別が厳しい。大手企業同士が合併したケースで、20年たってもどちらの企業の出身者かがはっきり分かるほどです。

 シリコンバレーではそうしたことがありません。なぜうまくいっているのかというと、この人はチームにどう貢献するか、どういう成果を出せるかという観点で人を見ているからだと思います。

 忠実であることは大事な要素ですが、忠実=いつまでもこの組織にいるということではありません。価値がある人なら受け入れられるはずです。

 だから米国では履歴書に肩書きではなく、「この仕事で、これくらい利益を上げた」ときちんと具体的な成果を書く。そろそろ日本もそうなってくるのではないでしょうか。

髙橋:自分の強みを発揮しやすい、評価してもらいやすい時代に今シフトしているのかもしれません。

ダッシャー:人も企業もお互いに柔軟性が必要です。

髙橋:昔は、企業が右向け右と言えば、社員はみんな右を向きました。それが日本企業の強み、良さだったと思います。今は社員一人ひとりに柔軟に対応していかなければなりませんね。

ダッシャー:かといって何でも自由にすればいいのではない。「会社のため」を考えてもらわないといけません。これから企業と社員は上下関係ではなく、対等なパートナーシップを結ぶ必要があると思います。

髙橋:理念やフィロソフィーを共有して、お互いがそれに基づいて考えて行動する。まさにパートナーですね。

ダッシャー:ですから会社を辞めても、縁を切らずに、またパートナーシップを組めるような体制をつくっておくほうがいいですね。日本らしい解決じゃないですか。(構成/荻島央江)

写真:Robert Schultze

インタビューを終えて

「イノベーションを起こすには古いものを捨てなければならない」。事業を発展させるために不要なことは捨てるというのは容易だが、これを実行するのはなかなか難しいと思う。実際、既存事業で十分利益が出ているし、仕事に誇りを持って取り組んでいる社員の仕事を奪う気がして、私には簡単に捨てることはできない。

私は「2030年に自動車教習事業を廃業する」と宣言はしていても、「あと10年以上ある」「まだ売り上げと利益が上がっている」という理由で、手放す準備ができていないことにインタビュー後に気づいた。2030年に次の事業に移行するために、企業ブランド、事業、利益の源泉を含めたビジョンを描き、すぐに準備をしなければ間に合わない。

日本から見ているとシリコンバレーのイノベーションは一夜にして生まれるように見えるが、そんなことはない。スピードの早いシリコンバレーでもイノベーションを起こすために、企業は10年以上の時間を費やしている。

また、他社と協業することにより、世の中になかったものや価値観をいち早く生み出している。中小・中堅企業にとっても、他社との協業は今後イノベーションを創り出すための重要なテーマになる。

ダッシャー先生から、イノベーション活動をする場合、「その仕事に携わっていない社員も含めた全員が理解することが大切である」「社員一人ひとりが『何ができるか?』『どう貢献できるか?』を明確にする必要がある」というメッセージがあった。

個人が企業の利益に貢献するために、自助努力する時代に突入している。今後の働き方を考えた場合、個人が進んで自助努力ができる企業づくりが大きなテーマになると私は考えている。 (髙橋明希)