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第4回・「複合現実」で建設業を変える旗振り役

小柳建設の小柳卓蔵社長に聞く

17年9月から建設現場で試験導入

髙橋:それは建設業界を大きく変えますね。

小柳:17年9月からは実験的に建設現場でホロストラクションを使い、データを収集しています。技術者は初め「面倒くさい。どうせうまくいかない」と嫌がっていましたが、導入した現場の仕事が終わる頃には「もうこれじゃないとやりたくない」と態度が一変しました。それくらい現場の人間にとってインパクトがあるようです。国土交通省も「i-Construction」(ICT、情報通信技術を導入して建設業の生産性を高める活動)を推進しており、当社の取り組みを後押ししてくれています。

髙橋:働き方や考え方も変わりそうです。何か社内に変化はありましたか。

小柳:新卒採用で応募者が増えました。大学でホロストラクションのデモンストレーションをする機会がときどきあるのですが、その場で「御社を受けたいです」と言ってくる学生が毎回いますよ。

 建設業界は高齢化が進み、今後ますます人材の確保が難しくなるのは間違いありません。若い人たちがこの業界を目指すようにするためには、昔ながらの泥くさいイメージを変えていく必要があります。とても壮大で、人の命や人の生活を守る魅力的な業界であることを伝えるためには、ホロレンズのような最先端の技術が必要です。私は社員の働き方をかっこよく、効率よくしたい。3Kのイメージを払拭して誇りをもって取り組める仕事にしたいと思っています。

 今は変化が激しい時代。大卒者が現場に入ってきたとき、大学で学んだ知識は全く通用しない状況です。「これだけ勉強してきたのに」と嫌になって会社を辞めてしまう。これをなくすため、大学で現場より最先端のことを教える。そうすることで「自分たちで業界を変えてやろうぜ」という若い子たちが増えてくれれば、なおさら業界のレベルが上がっていきます。それにホロレンズやホロストラクションを活用してくれたらいい。

 ホロレンズやホロストラクションを使えば、実際に建物を作らなくても、自分たちで作った図面が3Dで見られます。原寸大の建物の中に入って、歩き回ることだってできる。「この図面だと導入する設備と長さが合わないな」とか「ここに隙間ができてしまうな」といったことが手に取るように分かるわけです。かつデータの共有も簡単なので、離れた場所にいる教授からフィードバックをもらうことも可能になります。

さまざまな業種の働き方が進化する

髙橋:先ほどホロストラクションを体験させていただいて、武蔵境自動車教習所でも使えるなと感じました。大掛かりな自動車運転シミュレーターを使っての教習があるのですが、これで十分いけるのではないかと。

小柳:私が最初に見たのもそれと同じような使い方をしていました。日本航空の事例です。具体的には整備士とパイロットの育成にホロレンズを活用していました。整備士育成の場合なら、実物大のジェット機を3Dで表示し、自分がその中に入って体感しながら構造や動きなどを学ぶというわけです。

髙橋:さまざまな業種で利用価値がありそうです。

小柳:当社のホロストラクションが業界のスタンダードになれば、当然ながらサービスを提供する側になります。それだけでなく、3D CAD(コンピューターによる設計)で作られた図面をホログラム化できれば、製造業で開発を手掛けている人などにすぐ役立ちそうです。

 地方企業でも世界の最先端を走ることができることを示したい。新潟から世界を変え、世界の大きな力になれる企業を目指しています。(構成:荻島央江、編集:日経BP総研 中堅・中小企業ラボ)

写真:増井友和

インタビューを終えて

新しいテクノロジーが出てくると、受け入れられず拒否反応を示すのが人間の習性だと思う。しかし、私たちが約10年前に初めてスマートフォンに出合ったときは電池が持たず使い物にならないなどと反発があった。しかし、その登場により、私たちの世界は一気に変化し、そしてあっという間に順応した。今や便利でいつも手放せないものになっている。

ホロレンズを初めて体験したとき、「これはすごい!」と感動した。新しいことを受け入れる力があったら、どんな規模の会社も、いずれは世界を変える企業になるのではないか? 小柳建設は新潟県に本社を構える。新潟から世界を変えるために新しいものを吸収し、チャレンジしている。また、技術で補えることはホロレンズに任せ、創造性が必要なことは人間が受け持つという形で技術と人間の役割をしっかりと分け、効果を上げているように見える。

将来は不確実だけれども、新しいことを拒否するのではなく、受け入れる好奇心があったら、予想もできない未来を生み出すことができるだろう。今、危機感をあおるニュースであふれかえっているが、小柳建設は危機感を持ちつつも、社長が社員と一緒に未来の種を探すことをまさに実践している。

働くこととは、知的好奇心を持ち、実現したい未来を描き、それに向かって進むことなのではないか?と感じた。 (髙橋明希)