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スタッフが生き生きと働くケーキ屋

第1回・「パティシエ エス コヤマ」の巻

みんなの前で盛大に褒める

――入社後に社員たちに働き続けてもらうことも重要です。いま、離職率はどのくらいでしょうか?

小山:だいたい10%前後で推移しています。自分はまだまだ高い数字だと感じています。

――やはり、独立される方が多いのでしょうか?

小山:実は独立した社員はまだ一人もいません。僕はどんどんお店ばかり増えたらダメな時代だと思うんです。お客様の嗜好や欲求がどんどん高くなっている中で、独立して成功できる人は、ほんの一握りです。

 僕は16年間修行しました。当社はまだ創業10年強なので、独立するのは難しいと思いますね。販促活動や広報、経営のことも学ばなければいけない。いま独立を目指している社員は、製造だけでなくマネジメントやデザインの仕事をしたりしています。エス コヤマでしっかり学んでから独立してほしい。

 絶対に失敗させたくないんです。エス コヤマにいると、独立のために身につけないといけない能力が分かるので、時間が掛かります。技術や知識だけでなく、人としても尊敬されるような人にならなければならない。終わりなき旅ですよね。

――社員たちはどのように教育されているのですか?

小山:僕はかなり細かく注意をしますが、常に「あなたが良くなることを僕は期待している」ということを言っています。そこに愛情があるかどうかだと思うんです。僕と出会った以上は、本気で良くなってほしいと思いますから。

 エス コヤマにはこれを絶対にしようという決まりごとはありません。挨拶をしようといったルールの前に、「あなたが輝くような挨拶をしたほうが得だよ」というような教え方をしたいんです。

――「絶対にこれをやらなければならない」というルールはないのですね。

小山:朝礼も日報もありますが、強制ではありません。朝はケーキ作りの仕込みもありますし、リーダーだけが朝礼に参加して、僕の話を録音してメンバーに聞かせるという工夫をしているチームもあります。

 日報についても、僕が言っているのは、1日を振り返って、5分でも10分でも、こんな注意を受けた。じゃあ明日どうするかを考える時間をもつことが大事だということです。それが届いている社員は毎日日報を書きますし、書いている社員のほうが成長速度は速いですね。

 成長する社員は、明日からどうするという決意が見えます。それを受けて、僕はあなたの決意に付き合うよと伝えます。宣言した内容を覚えてくれる人が一人いるだけで、それを遂行する能力が高まるだろうと思っています。

――社員のモチベーションアップのために実施していることはありますか?

小山:僕は基本的に社員を褒めたいんです。だから、褒める時はみんなの前で思い切り褒めます。褒められた瞬間にうれしくて泣く社員もいます。

 僕は世界のショコラの賞を受賞しました。社員たちにも賞をあげたいなと思って、「エス コヤマ アワード」と称して、いま30個ほどの賞を作っています。「新人賞」や「努力賞」といったものから、「必殺指摘人賞」「思慮深く貢献できたで賞」「協調性と責任が芽生えてきたで賞」などといった賞もあります。

 取引先も呼んで、300人ぐらいの前で各賞を発表します。そして、表彰の際には必ず受賞理由を読み上げます。その社員に何の賞を与えたら、もう一歩成長できるかを考えます。賞はゴールではなく、次のステップに向けての中継地点です。

 賞状は紙で渡すのではなく、きちんと金の額縁に入れて渡します。部屋に飾って、くじけそうになった時に、それを見てまた頑張ろうと思ってくれたらいい。里帰りするときでも、写真を送ってもいいので、親に見せてあげてほしいなと思います。

――褒められることはモチベーションアップにつながりますね。

小山:アワードだけでなく、1年間みんなで頑張って、いい結果が出たら、カカオの産地に研修旅行に行きます。みんなでカカオの実を食べたり、香りをかいだりします。去年はハワイのオアフ島でカカオの産地7か所巡りをしました。エス コヤマで働いたら海外に行ける、というのも一つの魅力になるでしょう。他のケーキ屋とは違う体験ができることを誇りに思ってくれたら、おそらくそれが接客にもお菓子の味にも表れるのではないかと思っています。