日経ビジネスONLINE Special週刊日経ビジネスオンライン SPECIAL日経ビジネスオンライン

現場へ権限委譲、働きがいある食品スーパー

第3回・「オオゼキ」の巻

日経BP総研 中堅・中小企業ラボ

2018年4月25日(水)

企業規模の大小や、業種・職種などにかかわらず、就職や転職で人気が高い会社はいくつもある。なぜ人気になったのか。その秘密を探るため、経営トップや人事担当者にインタビューを試みるシリーズ。

連載3回目は、東京23区内を中心に約40店舗の食品スーパーを展開するオオゼキ(東京・世田谷)。従業員約2300人のうち、およそ7割が正社員だ。

正社員よりパート・アルバイトを多く雇い、本部の企画通りに店を運営するチェーンストア型のビジネスモデルとは異なり、オオゼキでは各店の個性と各人の裁量を重視する「個店主義」を貫く。仕入れから販売まで各店舗に権限を委譲し、地域に密着した強い店をつくる。

その姿勢が人気を呼び、百数十人の採用に対し、約900人の学生から応募が集まる。どのように採用・教育に取り組んでいるのか、取締役常務執行役員の明瀬雅彦氏に話を聞いた。

――全国には多くの食品スーパーがありますが、オオゼキならではの強みはどこにありますか?

明瀬雅彦(あかせ・まさひこ)氏
1965年福井県生まれ。北陸銀行勤務を経て、2007年、ある上場食品スーパーに入社し、管理本部長、社長。2010年、オオゼキに入社。取締役常務執行役員として、採用を含めた間接部門全般業務を担当する。(写真:小林写函、以下同)

明瀬雅彦氏(以下、明瀬):多くの食品スーパーでは、基本的に商品を提供してレジで支払いをしてもらうだけがお客様との関係です。しかし、オオゼキでは調理のアイデアや、商品のカット調理など、お客様からのご要望に対して相談に乗るために、店内に多くの社員を配置しています。つまり、他社よりスタッフの人的付加価値が高い。これが差異化の一番のポイントです。

 実稼働2300人の従業員のうち、正社員は約1500人。およそ7割が正社員です。

――他のスーパーに比べて、かなり正社員比率が高いですね。なぜ、正社員の採用にこだわるのでしょうか?

明瀬:これは創業当時から続けていることです。我々は、市場で商品を仕入れるところから、閉店時間に商品を売り切るところまで、各店舗にさまざまな権限を委譲しています。仕入れから販売まで責任を持って対応することは、職種ごとの分業では難しいため、社員一人ひとりが自分の仕入れた商品を販売まで責任を持ちます。そうすると、社員がその日の天候を考慮したり、「今日はあのお客様が買いに来そうだからこの商品を仕入れよう」などと考えたりできるようになる。仕入れの精度が高くなります。

 こうした仕事を任せるのは、必然的に長く働いてくれる正社員が適しており、多くのスタッフを正社員として雇用しています。

東京・世田谷のオオゼキ下北沢店。店頭にお薦めの食材などが所狭しと並べられ、店内外は活気に満ちている

――責任が重い分、やりがいがありそうですね。社員の配属部署は、適性を見て社長や役員が決めるのでしょうか?

明瀬:いえ、入社前の採用段階から、新入社員が所属したい部署に手を挙げる場合が多いですね。

 「父親が魚を料理しているのを見て育ったので、鮮魚部門を担当したい」「チーズが好きだからデイリー(日配品)部門で働きたい」など、多くの人が入社のときから希望を持っています。当社は「好きこそものの上手なれ」という主義なので、基本、手を挙げてもらった部署を退職するまでまっとうしてもらいます。店舗間の異動はあっても、鮮魚部門の人は鮮魚。職種の違う部署間の異動はほとんどありません。途中でマネジメントに興味を持ち、事務職や店長職に移る人もいますが、ごく少数です。

――販売員というよりも、専門の職人のような働き方ですね。

2006年中途入社の萱野耕平さん。社員は鮮魚部門などに配属され、鮮魚のプロなどとして育つ

明瀬:そうですね。この方式のよいところは、1つのことを集中して学ぶので、技術力が向上しやすく早期の戦力化につながることです。また、経験が蓄積でき、どうしたらお客様が喜んでくれるか、どうしたら商品が売れるのか、早い段階から自分で考えられるようになります。権限を委譲されて、自分たちで考えて仕事をすることにやりがいを感じているからでしょう。退職率はかなり低いですね。

 責任は重い仕事ですが、失敗したからといって特定の社員をとがめるようなことはしません。売れると見込んで多めに仕入れた商品が、見込み通りに売れないことはあります。我々はこれを成長のための失敗だととらえています。もし注意することがあれば、仕入れた本人ではなく、その上長である監督責任者の指導力不足だったことでしょう。