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村田製作所が目指すエナジーデバイス事業

村田製作所は2017年9月にソニーから電池事業を継承し、エネルギー分野へのソリューションを拡充していく方針を示した。2018年2月には具体的なソリューションとして家庭用や産業用の蓄電池を発表するなど、事業展開を本格化させている。ソニーから村田製作所に主体が移ったことで、電池事業は今後どのような方向へ進もうとしているのか。事業継承に伴いソニーエナジー・デバイス社長から村田製作所に転じた江連淑人氏が、その戦略を語った。
江連淑人氏
村田製作所
モジュール事業本部エナジーデバイス事業部事業部長
執行役員 江連 淑人

事業継承が顧客にもたらす最大のメリットは、「ソニーと村田製作所のシナジー効果」です。ソニーはリチウムイオン電池を世界で初めて商品化したメーカであり、そこで蓄積してきたノウハウが、電子デバイスのリーディングカンパニーである村田製作所に引き継がれたわけです。

村田製作所は蓄電池製造に重要な積層技術でも高い技術力を誇っており、ソニーから引き継いだ工場には、積層セラミックコンデンサなどで培った村田製作所流の生産技術を導入しようとしているところです。製品の観点でも村田製作所は高効率のパワーコンディショナを生産しており、蓄電池と組み合わせてユニークなソリューションが実現できるのではないかと考えております。

太陽光発電の自家消費拡大の流れに呼応

村田製作所の電池事業として最初に注力していくものの一つが、定置型の蓄電池です。オリビン型リン酸鉄リチウムイオン電池の「Fortelion」を核に、家庭用と産業用の双方に蓄電池のソリューションを展開します。2月28日から東京ビッグサイトで開催される「スマートグリッドEXPO」には具体的な製品を展示する予定です。

オリビン型リン酸鉄リチウムイオン電池の大きな特徴の一つは「安定性」です。一般的なリチウムイオン電池は、極端な高温下では熱暴走し危険な状態になることが知られていますが、オリビン型は極端な高温化でも熱暴走することなく安定しています。安定性に優れていることは、Fortelionが国内で初めて消防法の認定を受けたことからも明らかです。

家庭用の蓄電池は屋外だけでなく屋内にも設置可能である必要があり、高い安定性が求められます。産業用も、人口密集地にユーザの施設がある場合も想定しなければならず、安定性は欠かせません。従来のリチウムイオン電池の弱点を解決するオリビン型の蓄電池は、安定性を求めるユーザに最適な提案と言えるでしょう。

オリビン型のもう一つの特徴は「長寿命」であることです。充放電を1万4000回行っても70%以上の蓄電容量を維持します。一日に2回充放電を行うと仮定しても、15年は十分性能を保証できる計算です(図1)。家庭用の蓄電池は既にいくつかの製品が市場に投入されていますが、正直なところ経済的なメリットを出しにくいのが現状です。オリビン型の採用による蓄電池の長期間使用により合理的なメリットを出すことが可能になります。

Fortelion
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毎日1回の充放電でも15年間使用可能
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図1 Fortelion は使用開始15年経過しても高い容量を維持できる

それ以外にもオリビン型には「高出力」という特徴もあります。蓄電池の充放電特性で重要なCレート(容量に対する充放電電流値の比率)は4Cも可能で、高い出力が求められるアプリケーションで威力を発揮します。

当社はこのオリビン型のリチウムイオン電池を搭載した蓄電システムを、家庭用と産業用に提供します。家庭用にはパワーコンディショナと接続可能な3.5kWh HVDC蓄電ユニットと、蓄電池とパワーコンディショナを一体化した4kW/2.3kWh ハイブリッド型All-in-One蓄電システムを発表しました(図2)。いずれも太陽光パネルを設置する住宅の自家消費用途やBCP(事業継続計画)対応を主に想定しています。再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)は、2009年の開始からまもなく10年を迎え、初期に導入したユーザから順次買取価格の大幅な引き下げが始まることが予想されます。そこで今後は太陽光で発電した電力を、売電よりも自家消費に振り向けようという流れが加速するでしょう。自家消費には蓄電池が欠かせないため、家庭でも導入しやすい蓄電システムへの需要が高まると期待しております。

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図2 HVDC蓄電ユニットとAll-in-One蓄電システム

産業用には、コンテナ型MWクラス蓄電池システムを東京電力エナジーパートナー株式会社と共同で提供していきます(図3)。工場の瞬時電圧低下対策や需要のピークシフトなどを可能にするシステムです。半導体工場などの場合、電圧低下は瞬間的なものでも数億円単位の損失につながります。またピークシフトを進めれば契約電力料金の引き下げも可能になり、コスト削減も進むでしょう。もちろん工場だけでなく商業施設や一般企業でも、BCP対策として導入する価値は十分あると言えます。

コンテナ型MWクラス蓄電池システム
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図3 産業用に提供するコンテナ型MWクラス蓄電池システム。工場の瞬停対策やピークシフトを可能にする

社運をかけるぐらいの意気込みがある

オリビン型リン酸鉄系の定置型だけでなく、三元系の円筒型リチウムイオン電池も提供していきます。主なアプリケーションは電動工具や園芸工具です。電動工具はコードレス志向が進み、工具内に搭載可能な高性能のバッテリに対するニーズが高まっています。また園芸工具は、動力源をガソリンエンジンから電気に置き換えようという流れがあり、ここでもバッテリへの需要が拡大しているところです。

業界が注目している蓄電池のアプリケーションには、電動化が進む自動車もあります。当社は車載向けについては中長期視点で取り組んでおり、当面は基礎的な開発に注力していく方針です。

ソニーはエレクトロニクスだけでなくエンタテインメントや金融など事業が幅広く、電池はその数多い事業の一つにしか過ぎませんでした。しかし電池事業は要素技術や人材などに長期的な投資が求められるビジネスで、社運をかけるぐらいの意気込みがなければ成功しません。村田製作所は電子デバイスを専門に手がけるメーカであり、その中で重要な位置を占めるデバイスとして電池を位置付けています。私自身ソニーから村田製作所へ移籍してきた人間ですが、村田社長の電池事業に対する思い入れが強いことに感銘を受け、「いいところに継承してもらった」と実感しているところです。継続的な投資の重要性も理解しており、将来にわたって成長を続けられる環境が整ったと考えております。(談)

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